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JAL従業員が巫女に、注目される「従業員シェア」 新たな支援策「産業雇用安定助成金」の意義と限界

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JAL従業員が巫女に、注目される「従業員シェア」 新たな支援策「産業雇用安定助成金」の意義と限界
写真は本文とは関係ありません(COMLABO / PIXTA)

コロナ禍によって、多くの企業がダメージを受けましたが、その中でも、ホテル、飲食店、航空会社は大打撃を受けました。特に人件費などの固定費は、売上に関わらず発生するものなので、企業の大きな負担となっています。

しかし、企業としてはノウハウやスキルを持つ人材を簡単には手放したくないし、雇用を守る責任もあります。そんなことから、「従業員シェア」という新しい試みが行われています。航空会社の社員がノジマの店舗で働いたり、宗像大社で巫女を務めるということもニュースになりました。

このようなことを受け、政府も雇用調整助成金とは別に、従業員シェアを後押しする新たな支援策として「産業雇用安定助成金」を創設しようとしています。果たして「従業員シェア」は定着するのでしょうか。また、産業雇用安定助成金とはどのような内容なのでしょうか。(ライター・メタルスライム)

●従業員シェアの狙い

「従業員シェア」をする狙いは、第一に雇用を守ることです。企業としては、業務がない従業員を直ちに解雇するのではなく、他の企業に一時的に出向させ、業務を行えるようになったら従業員を戻すということを考えています。

第二の狙いとしては、従業員のスキルアップがあります。1つの会社、あるいは特定の業務しかしていないと、脈々と受け継がれた企業風土や業務のやり方が当たり前になっていて疑問を持たなくなります。しかし、他の会社での業務を経験することで、新たな発見や今後の業務に活かせることを吸収することができます。

第三の狙いは、人手不足の企業を救えるということです。コロナ禍にあっても好業績の企業はあり、そのような企業においては人材不足が課題となっています。たとえば、巣ごもり需要から家電の売れ行きが好調な家電量販店や防護服やマスクを作る工場などです。このような労働力のミスマッチを解消する手段として「従業員シェア」が活用されます。

●従業員シェアをするなら法整備が必要

これまで、日本における出向というのは、子会社や関連会社への出向がほとんどでした。しかし、従業員シェアは、全く関連のない企業への出向で業務内容も異なるので、社員がそれに対応するのは大変なことです。CAをやりたくて航空会社に就職したのに、スーパーマーケットに出向を命じられて、魚をさばく仕事を任された場合でも従わなければならないのでしょうか。

これまでの判例では、就業規則、労働協約または入社時の出向に対する包括的同意などがあれば、出向を命じることは可能との見解を採っています 。この見解に従うと、業種の縛りは特にないので、権利濫用とならなければ、どのような出向先でも出向を命じることは可能ということになります。

もし、従業員シェアを今後も定着させたいと考えるならば、今のままでは法的地位が不明確すぎるので、出向期間について制限を付けることや出向先の業務は、現在の業務に関連のあるものに限るなど法整備をしっかり行うことが必要だと思います。

●産業雇用安定助成金とは

(1)雇用調整助成金

従業員シェアの支援策を考えるうえで、まずは既存の雇用調整助成金をみてみましょう。雇用調整助成金とは、事業を縮小せざるを得なくなった事業主に対して、雇用を維持できるよう休業手当などを助成する制度です。令和2年4月1日から令和3年2月28日までの期間については、「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例」措置が取られており、支給要件の緩和や助成率・限度額の引き上げが行われています。

雇用調整助成金は、従業員シェアの場合にも利用できますが、休業手当への助成に比べて助成額が少なく、出向元の事業者だけしか助成の対象にならなかったため使いづらいものでした。

(2)産業雇用安定助成金の創設

そこで、従業員シェアを後押しするため「産業雇用安定助成金」を創設することになりました。「産業雇用安定助成金」は、出向元だけでなく出向先の事業者も支援の対象とし、助成額も増額となりました。

対象となるのは、新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図ることを目的に行う出向です。出向期間終了後は元の事業所に戻って働くことが前提とされており、出向元の事業者と出向先の事業者が親子やグループ関係にない、資本的・経済的などからみて独立性が認められていることが必要です。

また、出向元で代わりに労働者を雇い入れる、出向先で別の人を出向させたり離職させる、出向元と出向先で労働者を交換するなど、玉突き雇用・出向を行っていないことなどの要件があります。

ただ、産業雇用安定助成金は、令和2年度の第三次補正予算に組み込まれているので、1月18日から始まる通常国会で予算案が通ることが前提になります。施行されるのは4月以降の見通しですが、出向開始日が令和3年1月1日以降の場合、出向開始日以降の「出向運営経費」および「出向初期経費」が支給される予定です。出向開始日が令和3年1月1日より前の場合、1月以降の「出向運営経費」のみ助成対象となる予定です。

(3)産業雇用安定助成金の給付内容

手続きとしては、出向元事業主と出向先事業主とが共同事業主として支給申請を行い、当該申請に基づきそれぞれの事業主へ支給されることになります。

【出向運営経費】
賃金などの出向運営経費として「12,000円/日」を上限として支給されます。出向元が労働者の解雇等を行っていない場合には、中小企業が経費の「9/10」、中小企業以外が経費の「3/4」となっています。出向元が労働者の解雇等を行っている場合には、中小企業が経費の「4/5」、中小企業以外が経費の「2/3」となっています。

たとえば、出向元が「3,000円/日」、出向先が「8,000円/日」の賃金を負担するという場合、双方が大企業で解雇等を行っていないという場合、「3/4」が助成されるので、出向元には2,250円、出向先には6,000円が助成されるということです。

【出向初期経費】
就業規則や出向契約書の整備費用、出向に際して出向元であらかじめ行う教育訓練及び出向先が出向者を受け入れるために用意する機器や備品等、出向に要する初期経費について定額の助成があります。出向元、出向先共に1人当たり各10万円です。一定の要件を満たす場合には1人あたり各5万円が加算されます。一定の要件の内容については現在厚労省で検討されています。

●従業員シェアは雇用安定策として有効なのか

厚生労働省によると新型コロナウイルスの感染拡大によって解雇や雇い止めされた人数(見込みを含む)は、2021年1月6日時点の累計で8万121人に達しています。その約半数が非正規労働者です。

真っ先に雇用調整に使われるのが、パートやアルバイトなどの非正規労働者です。解雇が約半数にとどまっているのは、パートやアルバイトは出勤しなければ報酬を支払う必要がないので、あえて解雇していないからだと思われます。

つまり、「仕事がないので出勤しなくていい」と言われている状態です。これらは統計には表れてこないので、実質的な非正規労働者の失業者はもっと多くいることになります。

警察庁の自殺統計(令和2年)によると、女性の自殺者は前年比で、8月が「44.2%増」、9月が「29.3%増」、10月が「82.8%増」、11月が「18.7%増」と顕著に増えています。女性の非正規労働者は多いため、生活苦や将来の不安から自殺が増えたのではないかと考えられています。

従業員シェアというのは、出向を命じることができる人が対象のため、事実上正社員に限定され、しかも大手企業に勤めている人が主な対象になります。大手企業であれば社員の質が一定程度担保されており、まとまった人数を確保できるのと、社員も出向元に戻りたいという強い思いがあるから成立するわけです。つまり、従業員シェアというのは極めて限定された雇用安定策にすぎないということです。

「人材過剰の企業」と「人材不足の企業」の労働力のミスマッチというのは、雇用の流動性が低いから起こるのであって、人材の流動性が高まれば生じません。今回のCAのケースでもCAの仕事が無くなったのであれば、自分で好きな仕事を選んで他の仕事をすればよいのであって、好きでもない出向先に行く必要はないわけです。CAの業務が再開されたら、CAに復職すればよいだけの話です。終身雇用という呪縛から一度会社を辞めた社員は再び採用しないという扱いを会社がしていることがおかしいのです。

ウイルスの脅威はコロナに限らず常にあることなので、出向に関する法整備をしておくことは重要だと思います。しかし、従業員シェアは、正社員を中心とした有事の際の一時的な措置にすぎません。長期的な観点で雇用安定策を考えるのであれば、いつでも転職したり、元の企業に復職したりすることが自由にできる環境を整備することの方が大事なのではないでしょうか。

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