会社員やアルバイトのための確定申告~確定申告をするのはどんなとき~

元 国税局職員 さんきゅう倉田です。
ほとんどの会社員やパート・アルバイトの方は、会社が行う年末調整によって所得税額が確定し、納税も完了しますから、確定申告の必要はありません。
しかし、所得税法上、確定申告をしなければいけない給与所得者がいます(給与所得者とは、会社員やパート・アルバイトの方を指します)。逆に、確定申告をした方がいい給与所得者もいます。確定申告をした方がいい、というのは、所得税が還付になるからなんですが、まずは、どんなときに還付になるのか、素晴らしき還付の世界をご案内します。
還付を受けられるケース
「源泉徴収票」に計算ミスがあった
確定申告をするなら、必須のものがあります。源泉徴収票です。還付の可能性があるかどうかは、まず源泉徴収票で判断することができます。

今回から、サイズが大きくなりましたね。マイナンバーの記入欄や扶養家族を細かく書くようになりました。源泉徴収票のどこを見るかというとまず、アイウを見ます。

アからイを引いて、税率を掛けたものが、ウになります。税率は、「ア」引く「イ」によって変わります。先人たちの知恵から生まれた累進課税です。税率は以下のように定められています。
金額 | 税率 |
---|---|
195万円以下の部分 | 5% |
195万円を超え330万円以下の部分 | 10% |
330万円を超え695万円以下の部分 | 20% |
695万円を超え900万円以下の部分 | 23% |
900万円を超え1800万円以下の部分 | 33% |
1800万円を超え4000万円以下の部分 | 40% |
4000万円以上の部分 | 45% |
税額を計算して、ウと一緒になるか比べてみてください。ウの方が大きければ、還付になる可能性があります。
ただし、例えば「ア」引く「イ」が300万円のときの計算は、300万円×10%ではありません。
300万円のうち、195万円までの部分が上記の表の通り税率5%となり、300万円から195万円を引いた105万円の部分は税率10%となります。このため、計算式は195万円×5%+105万円×10%になります。「ア」引く「イ」が700万円なら、やはり700万円×23%ではなく、195万円×5%+135万円×10%+365万円×20%+5万円×23%になります。
どうして、ウの部分の金額がずれることがあるかというと、純粋な計算ミスもありますし、年末調整をしなかった可能性もあります。また、二ヶ所で働いている場合は、片方の勤務先はもう片方の勤務先でのあなたの給与を知りませんので、確定申告で所得税額を再計算する必要があります。2つの源泉徴収票の金額を合わせて、計算してみてください。
年内に退職した人
例えば、6月まで働いて退職したとします。1月から6月は、1年働くことを想定したときのの年収を基礎として源泉徴収をしています。半年で辞めてそれ以降働いていないなら、確定申告で所得税が還付になる可能性があります。
年末調整後に結婚した場合、扶養家族ができた場合
配偶者控除や扶養控除は、12月31日時点で家族になっていれば、対象となります。厳密に言うと、家族になるではなく、生計を一にしていればです。
年末に、結婚して配偶者ができたり、何らかの理由で扶養家族が増えたとき、勤務先の年末調整に間に合わなければ、確定申告で控除を適用します。出産は扶養控除に影響しません。16歳未満の子供は扶養控除の対象にならないからです。その代わり、児童手当がありますね。
住宅ローン減税をうける
住宅借入金等特別控除、通称、住宅ローン減税。家を買って、ローンを組むと、年末のローン残高の1%が控除できます。所得控除ではなく、税額控除なので、所得税から控除します。家を買ったりローンを組んだときに、丁寧に案内してくれるはずです。やり方は割愛します。
控除証明書などの提出忘れ
源泉徴収票には、生命保険や個人年金、地震保険、扶養家族、配偶者など様々な控除に関する情報が記載されています。あなたが、控除を受けられるような支払いがある場合は、勤務先に控除証明書を提出すると、勤務先がちゃちゃっとやってくれます。年末調整でちゃちゃちゃです。提出し忘れても大丈夫です。確定申告で還付を受けましょう。確定申告書の書き方は、次回の記事をご覧ください。
二ヶ所で働いているけど、そんなに稼いでない
毎年、勤務先に「扶養控除等申告書」を提出しますね。

こちらは、二ヶ所以上で働いていたら、一ヶ所でしか提出できません。提出していない勤務先は、毎月の給料から引かれる源泉所得税が多くなります。聡明な読者の中には、毎月8万8千円以内で働けば、源泉所得税が0円と知ってる方もいると思います。しかし、扶養控除等申告書を提出していない勤務先は、このあるあるが成立しません。例え稼ぎが少なくとも、がんがん源泉してきます。不快ですね。
それでも、全ての勤務先を合わせた年収が103万円以下なら、確定申告で還付を受けることができます。源泉徴収票の『収入金額』を全て足して103万円以下で、『源泉徴収税額』に記載があるなら、検討してみてください。
医療費控除をうける
医療費控除は、怪我や病気で病院に支払ったお金を、所得から控除できる制度です。医療費控除について、国税庁は次のように言っています。
「その年の1月1日から12月31日までの間に自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを医療費控除といいます」
ですって。
つまり、「自分と家族が、病院とか歯医者に支払ったお金を、確定申告書に書くと、お金がちょっと戻ってくるよ」ってことなんですね。
でも、支払ったお金が全て控除になるわけではなくて、支払った医療費から保険金で補填されたお金を引いて、さらに10万円を引きます。つまり、あなたが負担した医療費が10万円以上なら控除に使えます。
例えば、11万円なら1万円控除できます。ちょびっとですね。1万円控除だと、税率5%で500円、20%で2000円の所得税が還付になります。ちょびっとですね。ただ、税率10%の住民税も減額されますので、500円の人も2000円の人もさらに+1000円の利益です。
(保険金で補填されたお金の例) 生命保険契約などで支給される入院費給付金、健康保険などで支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金など
上で10万円引きました。10万円は、大きいですよね。とてつもなく高いハードルです。でも、あんまり働いていない人の場合は、10万円というハードルが下がります。国税庁は次のように言っています。
「その年の総所得金額200万円未満の人は、総所得金額の5%の金額」
200万円の5%が10万円なので、絶対に10万円より低くなります。控除が受けやすくなりますね!「総所得金額」とはなんぞや、と思った方。総所得金額はここです。

「総」なので、給与所得以外の所得も足します。他の所得がない方は、難しいことは考えず給与所得だけで考えてください。ちなみに、一時所得には、競馬、競輪、競艇、パチンコ、麻雀、ネットカジノ、闇カジノが含まれます。税法は、犯罪で得た収益にも課税します。それらで利益を得た方は、確定申告が必要です。
控除がありますので、それは次回の記事をご覧ください。「犯罪で得た収益に課税」なので、窃盗、横領、強盗、詐欺なども確定申告の対象です。誤解しないでいただきたいのですが、国税庁にもぼくにも、犯罪を助長したり、認容するつもりはありません。
犯罪で得た収益に課税をしなければ、犯罪を生活の糧にしている人間を優遇することになります。何で収益を得ているかを差別せず、一様に課税するのが、日本の税制です。
また、今回の確定申告では使えませんが、今年から始まった医療費控除の特例もあります。今から領収証を集めておくと有効ですので、この機会に案内を。
国税庁は次のように言っています(辟易する文言です。飛ばしても大丈夫)。
「自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族の特定一般用医薬品等購入費を支払った場合において、その年中に健康の保持増進及び疾病の予防への取組として一定の健康診査や予防接種などを行っているときには、選択により、その年中の特定一般用医薬品等購入費の合計額(保険金等により補填される部分の金額を除きます)のうち、1万2千円を超える部分の金額(8万8千円を限度)を控除額とするセルフメディケーション税制(特定一般用医薬品等購入費を支払った場合の医療費控除の特例)が創設されています」
難しいし、長いです。つまり、「コンビニや薬局で、対象の医薬品を買って年間で1万2千円以上になれば、確定申告で控除できるよ」と言っています。ハードルが随分下がりました。レシートでも大丈夫です。購入したら、保管しておきましょう。
ふるさと納税をした
何年か前から流行っているふるさと納税。システム上は、寄付金扱いです。確定申告書の寄附金控除に該当します。

寄付した金額がほとんど戻ってきますし、御礼の品として肉や民芸品がもらえるなど、嬉しいことがたくさんあります。そのおかげで、国内のふるさと納税の金額は年々増えていて、テレビでも頻繁に特集が組まれています。
今まで、ふるさと納税したお金を還付してもらうには、確定申告が必要でした。現在は、ワンストップ特例という制度によって、確定申告しなくても所得税の還付や住民税の減額が受けられます。ワンストップ特例には条件があるので、条件を満たせなかった方は、必ず確定申告をしましょう。
盗難、災害、横領の被害にあった
雑損控除という控除があります。

どんなものが雑損控除の対象になるかというと
- 自然現象の異変による災害(震災、風水害、冷害、雪害、落雷など)
- 人為による異常な災害(火災、火薬類の爆発など)
- 生物による異常な災害(シロアリなど)
- 盗難
- 横領
などです。盗難と横領は対象ですが、詐欺や恐喝は対象になりません。
どれくらい控除できるかというと、災害は、次のABの多い方の金額です。
A)損害-もらった保険金-所得の10%
B)災害にあった住宅・家財の取壊し&除去費用-5万円
盗難・横領は、Aだけです。
A)損害-もらった保険金-所得の10%
保険金などがなければ、損害の90%を控除できますね。
確定申告をした方がいい場合は、こんなところでしょうか。
確定申告をしなければならないケース
次は、国税庁さんが「こんなときは確定申告しなければいけません」と定めているものについて。次のいずれかに当てはまると確定申告をしなければなりません。
年収が2,000万円を超える人
お金持ちです。会ったことがありません。役員や外資の上席だと2000万円を超えるのでしょうか。きっと、その方達は、2000万円を超えると確定申告をしなければいけないことを知っているし、勤務先が伝えてくれているのではないかと推察されます。また、そのくらいの給与収入がある方は、他の収入があることも多いので、別の理由でも確定申告が必要になります。
勤務先が一ヶ所で、他の所得が20万円を超える人
会社員の方が、競馬や競輪などのギャンブルで勝ったり、パチンコでお金を得たり、徳川埋蔵金を見つけたり、講師をやって報酬を得たりなど、給与所得以外に所得があると、確定申告が必要です。
「会社以外からお金もらったら確定申告必要だよー。でも、20万円以下なら確定申告しなくていいよ。優しいでしょ?」ということです。
ギャンブルは一時所得になり、50万円の控除がありますので、年間に70万円までの勝ちなら、確定申告が不要になる場合が多いです。
勤務先が二ヶ所の人
二ヶ所からお給料をもらっていれば、確定申告が必要です。しかし、少ない方の給料とギャンブルやその他もろもろの収入が20万円以下なら申告不要です。「二ヶ所で働いているけど、そんなに稼いでない」で説明しましたが、申告が不要でも還付になるかもしれません。国税庁のホームページの確定申告書作成コーナーで計算してみてください。
おわりに
会社員、パート・アルバイトの方が確定申告をするのは、主にこんなところでしょうか。もちろん、上記以外も確定申告をする場合はあります。その都度、ググってみてください。ぼくはいつも言っています。「税金でわからないことがあれば、ググる、ググる、とにかくググる」。ネットで調べれば同じ悩みを持っている人が必ず出てきます。ググってください。
次回は、確定申告書の作成方法を案内します。
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