【最新版】年末調整、改正後どう変わった?変更点と実務への影響

税制改正には、世の中の流れが色濃く反映されるもの。働き方が多様化し、会社に勤めるだけではなく、フリーランスとして仕事を請け負うケースも多くなっています。
このような世の中の変化を反映した結果として、2018年度税制改正で給与所得控除や基礎控除関連に大きな変更があり、それに伴い2020年分の年末調整の実務から大幅な変更点があります。そこで、年末調整に関連する改正点について分かりやすく解説します。
目次
2020年以降の年末調整の改正ポイント
2020年以降の年末調整において新たに考慮しなくてはならないポイントは、以下のとおりです。
基礎控除額の引き上げ
基礎控除とは、所得の区分にかかわらず適用される控除です。従来の38万円から10万円引き上げられ、2020年(令和2年)度からは48万円になりました。
以前は適用要件なくすべての人に適用されましたが、2020年度以降は合計所得金額が2400万円を超えると下表のように段階的に控除額が減少し、2500万円を超える場合には基礎控除が適用されなくなります。
合計所得金額 | 基礎控除額 |
---|---|
2400万円以下 | 48万円 |
2400万円超2450万円以下 | 32万円 |
2450万円超2500万円以下 | 16万円 |
2500万円超 | 0円 |
給与所得控除の引き下げ
給与所得控除とは、会社員などのいわゆる給料をもらっている人に適用される控除です。この給与所得控除額は年収に応じて決められているのですが、2020年度からはこの金額が一律10万円引き下げられました。
あわせて、下記表のとおり「給与所得控除額」の上限額が220万円から195万円に、また「給与等の収入金額」の上限額も1000万円から850万円に引き下げられました。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 | |
---|---|---|
2019年度分まで | 2020年度以降 | |
162.5万円以下 | 65万円 | 55万円 |
180万円超360万円以下 | 収入金額×40% | 収入金額×40%ー10万円 |
360万円超660万円以下 | 収入金額×30%+18万円 | 収入金額×30%+8万円 |
660万円超850万円以下 | 収入金額×20%+54万円 | 収入金額×20%+44万円 |
850万円超1000万円以下 | 195万円(上限額) | |
1000万円超 | 220万円(上限額) |
基礎控除・給与所得控除の改正に伴う影響
年収850万円以下の会社員は、給与所得控除がこれまでの額から10万円減少する一方で、基礎控除が10万円増加となるため、トータルでは税制改正による変化はありません。
一方で年収850万円を超える人は、給与所得控除の上限金額が25万円引き下げられるため、所得税の増税となります。ただし、23歳未満の扶養親族がいる場合などは、創設された「所得税額調整控除」の適用によって増加分の税負担の軽減されます。
フリーランスなど自営業の人への影響は?
フリーランスをはじめとした自営業の場合は、給与所得を得ているわけではないため給与所得控除の引き下げは影響ありません。また、基礎控除が引き上げられるため、合計所得金額が2400万円であれば減税となります。
所得金額調整控除の創設
給与等の収入金額が850万円を超え、次の1から3のいずれかに該当する人の総所得金額を計算する場合には、給与等の収入金額(1000万円が限度)から850万円を控除した金額の10%に相当する金額を給与所得から控除できます。
- 本人が特別障がい者に該当する
- 23歳未満の扶養親族を有する
- 同一生計者若しくは扶養親族が特別障がい者に該当する
この改正に伴い、年末調整において所得金額調整控除の適用を受ける場合には、「所得金額調整控除申告書」を提出しなければなりません。
年収が850万円を超える従業員で、条件に当てはまる人がいた場合は、忘れずに書類を渡しましょう。
配偶者・扶養親族等の合計所得金額要件等の見直し
前述の改正に伴い、配偶者控除や扶養控除といった各種控除について、要件となっていた「扶養親族等の区分ごとの合計所得金額」が合わせて見直されています。
扶養親族等の区分 | 合計所得金額要件 | |
---|---|---|
改正前 | 改正後 | |
同一生計配偶者及び扶養親族 | 38万円以下 | 48万円以下 |
源泉控除対象配偶者 | 85万円以下 | 95万円以下 |
配偶者特別控除の対象となる配偶者 | 38万円超123万円以下 | 48万円超133万円以下 |
勤労学生 | 65万円以下 | 75万円以下 |
ただし見直しといっても、合計所得金額要件が10万円引き上げられている一方で、給与所得控除額が10万円引き下げられているため実質的にはほとんど変わりません。
たとえば、対象となる配偶者が給与収入のみであれば、下記例のとおり改正後も変わらず要件を満たすこととなります。
給与収入額103万円の場合
【改正前】
103万円 - 65万円(給与所得控除) = 38万円
→合計所得金額要件の「38万円以下」を満たします。
【令和2年分以降】
103万円 - 55万円(給与所得控除) = 48万円
→合計所得金額要件の「48万円以下」を満たします。
一方、給与所得以外の所得がある場合には、改正前と後で合計所得金額要件の判定が変わるケースがあります。
たとえば事業収入額が103万円、必要経費が55万円(その他控除の適用はなし)の配偶者がいる場合、「103万円 - 55万円」で合計所得は48万円となるため改正前は要件を満たしませんでしたが、令和2年分以降は合計所得金額要件を満たすこととなります。
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ひとり親控除の新設
これまで、ひとり親家庭への支援としては「寡婦(寡夫)控除」がありましたが、未婚のひとり親は対象外で、婚姻歴による不平等がありました。
その不平等をなくすために、2020年より、婚姻歴にかかわらず生計を一にする子(総所得金額等が48万円以下)がいる単身者(合計所得金額が500万円以下)は、「ひとり親控除」(控除額35万円)が適用されることとなりました。
寡婦(寡夫)控除の見直し
従来の寡婦(寡夫)控除も見直されました。対象となるのは、ひとり親控除の要件に当てはまらない合計所得金額が500万円以下の女性のうち、以下のような人です。
- 夫と死別または離婚した後、婚姻をしておらず扶養親族がいる人
- 夫と死別した後、婚姻をしていない人または夫の生死が明らかでない一定の人(扶養親族の要件はありません)
※ここでいう夫とは、民法上の婚姻関係がある人を指します
これに伴い従来の特別寡婦控除は廃止になり、また、寡夫控除についてもひとり親控除に集約されています。
2020年以降の新様式について
従来の「給与所得者の配偶者控除等申告書」との兼用様式として「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」に様式が改められています。
各従業員の要件により記入箇所が異なりますので、早めに周知・指導を行なっておくと安心です。
法定調書の様式変更
ひとり親控除の新設などに伴い、「源泉徴収表」と「給与支払報告書」の様式が変更されました。そのため、年末調整時には新しい様式で作成する必要があります。
法定調書の電子的提出義務の対象枚数引き下げ
年末調整後に作成する源泉徴収票は、前々年の提出枚数が1000枚以上の場合、e-Tax、eLTAX、光ディスクなど電子での提出義務がありました。
2021年1月以降の提出分からは、枚数の基準が1000枚から100枚に引き下げられるため、2019年に源泉徴収票を100枚以上提出していた場合、2021年1月以降は源泉徴収票を電子提出しなければなりません。
年末調整の電子化で事務負担を軽減
これまでは紙での提出が定められていた各種控除証明書類やその控除額を記載した控除申請書についても改正が行われ、2020年の年末調整から電子化が実施されます。
利用するには、従業員への周知や年末調整申告書作成用のソフトウェアの準備のほか、税務署へ「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、その承認を受ける必要があります。
おわりに
税金関連の事務については、毎年のように変更がありますが、間違えると給与の手取りが変わってくる可能性があります。そのため、経理事務の中でも年末調整は特にシビアなチェックが必要とされる重要な事務です。
ミスなく確実に実施していくために事前の情報収集や準備はもちろんのこと、自社の経理部門だけではなく税理士によるチェックなど、外部専門家を利用することも検討しておきましょう。
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