【担当者向け2022年版】年末調整の還付金、どう計算する?追加徴収や仕訳、勘定科目を解説

年末調整は、従業員が実際に納めるべき所得税と、給与から源泉徴収した所得税の過不足を精算するという業務です。年末調整に必要な書類を従業員から収集したり、各種控除を計算するなど、さまざまな手続きが必要になります。
この記事では、過不足額の計算方法や年末調整で精算された還付金の支払いや追加徴収を行うタイミング、会計処理について解説します。
目次
年末調整で還付金・徴収が発生する理由
毎月給与から源泉徴収している所得税額は概算の金額で、各人の事情による控除が正しく反映されていない状態です。
そのため、年末に本来納めるべき所得税額と、1年間に源泉徴収された所得税額に過不足が生じることになります。年末調整はそれを精算するために必要な手続きです。
年末調整によって確定された所得税および復興特別所得税のことを「年調年税額」といいます。年調年税額よりも源泉所得税の合計額が多かった場合は還付手続きを、少なければ追加徴収を行います。
毎月の源泉徴収税額には各種控除が反映されていないため、基本的には還付となることが多くなります。
還付金が発生する具体例
還付が発生する主なケースとしては、「扶養家族が増えた」「結婚をして配偶者控除の対象となった」「生命保険や地震保険に加入している」などが挙げられます。具体的には、以下のような事情がある人は還付金が発生します。
結婚した、配偶者がパートを辞めた
従業員が結婚したり、配偶者がパートを辞めて収入が減った場合などは、「配偶者控除」の適用を受けることができるため、還付金が増えるケースが高くなります。
また、子供が16歳になると「扶養控除」、仕送りをしている両親が70歳になると「老人扶養控除」を受けることができます。
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シングルマザー/ファザーになった(子どもがいて配偶者と離死別した)
年の途中でシングルマザー(ファザー)になった場合には、令和2年から創設された「ひとり親控除」を受けることができます。控除が適用されるのは、ひとり親で年間所得金額が500万円以下、生計を一にする子(所得合計額48万円以下)がいることが条件です。

配偶者と死別した女性
年の途中で夫と死別し再婚しておらず、年間所得が500万円以下の女性のうち、子以外の扶養親族がいる場合、または、扶養親族がいない場合のいずれかにおいては「寡婦控除」が適用されます。
子以外の扶養親族がいて配偶者と離婚した女性
子以外の扶養親族がおり、年の途中で夫と「離婚」後再婚していない女性においては、年間所得が500万円以下の場合に「寡婦控除」を受けることができます。
生命保険料や地震保険料を払っている
生命保険や地震保険に加入していて、保険料を支払った場合は、「生命保険料控除」や「地震保険料控除」が適用できます。生命保険料は最大12万円、地震保険料は最大5万円を所得控除することができます。
給与天引き以外で社会保険料を支払っている
中途入社で、入社前に自分で国民年金や国民健康保険料を支払っていた、給与から天引きされていない社会保険料を支払っているといった場合は、その分も含めて「社会保険料控除」となります。社会保険料控除は控除額に上限がなく、支払った社会保険料の全額が控除されます。
追加徴収が発生する具体例
一方、追加徴収が発生するケースとしては、「給料が大幅に増えた」「扶養家族が減った」などが挙げられます。具体的には、以下のような事情がある人は追加徴収が発生します。
例年よりも年収が増えた
会社の業績が上向きになり、想定していた額よりも多くボーナスの支給をしたり、人事異動などによって、給与が大幅に増額したりなど、年収が大幅に増えると追徴の可能性が高くなります。
子が独立した
これまで扶養にいれていた子が独立するなどし、扶養から抜けた場合は、扶養控除の適用がなくなるため、追徴の可能性が高くなります。
還付金の支払い・追加徴収はいつ行う?
還付および追加徴収は、会社が預かっていて、まだ税務署に納付していない源泉所得税で調整します。
還付および追加徴収は通常12月または1月の給与支払い時に行うのが一般的です。年内最後の給与支払日以降に、結婚したり扶養人数が変わったりした場合は、翌年1月に年末調整をやり直すことができます。
還付金があり、もし預かっている源泉所得税から還付しきれない場合は、その後に支払う給与から源泉徴収する金額と相殺します。
追加徴収は、不足額の全額を徴収すると、その年の1月〜11月の税引手取給与の平均月割額の70%未満になってしまう場合は、不足額を1月と2月に繰り延べて徴収することができます。その場合は「年末調整による不足額徴収繰延申請書」を税務署に提出しましょう。
2月末までに還付できない場合
還付の金額が多すぎて、2月末までに還付しきれない場合には、税務署に支払った源泉所得税を返還してもらう「源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額の還付請求」という手続きを行いましょう。
ただしこの手続きは、還付の請求書のほか国税還付金支払内訳書、還付を受ける従業員の委任状を作成し、給与所得の源泉徴収簿を添付しなければなりません。年末調整は専門知識が必要な作業となるため、税理士への相談・依頼を検討してもよいでしょう。
還付金・追徴税額の計算方法
還付金・徴収税額の計算をするためには、1年間の所得税額(年調年税額)を算出する必要があります。
- 給与総額を計算し「給与所得控除後の給与等の金額の表」より、給与所得控除後の金額を求める
- 給与所得控除後の金額から所得控除の合計額を差し引き、課税給与所得金額を求める(1000円未満は切り捨て)
- 「算出所得税額の速算表」を参照して算出所得税額を求める
- 住宅ローン控除がある場合は算出所得税額から差し引く
- 3または4で算出した金額に102.1%をかけて、復興特別所得税額を含めた年調年税額を算出する(100円未満切り捨て)
上記で計算した年調年税額と源泉所得税額の差額が、還付金または追徴税額となります。
計算シミュレーション
計算方法をより理解するために、以下条件のもと計算をシミュレーションしてみます。
・年間給与総額:600万円
・年間給与に対する源泉徴収税額:20万円
・給与所得控除後の金額:436万円
・社会保険料:86万4000円
・基礎控除:48万円
CASE1
年の途中で結婚した場合(配偶者控除38万円)
■課税給与所得金額:2,636,000円
└4,360,000円 ー 1,724,000円(基礎控除 + 社会保険料控除 + 配偶者控除)
■算出所得税額:166,100円(算出所得税額の速算表より)
└2,636,000円 × 10% ー 97,500円
■年調年税額:169,500円(100円未満切り捨て)
└166,100円 × 102.1%
■200,000円 ー 169,500円 = 30,500円(還付)
CASE2
生命保険と地震保険の保険料の支払いがある場合(生命保険料15万円/控除額12万円、地震保険料6万円/控除額5万円)
■課税給与所得金額:2,846,000円
└4,360,000円 ー 1,514,000円(基礎控除 + 社会保険料控除 + 生命保険料控除 + 地震保険料控除)
■算出所得税額:187,100円(算出所得税額の速算表より)
└2,846,000円 × 10% ー 97,500円
■年調年税額:191,000円(100円未満切り捨て)
└187,100円 × 102.1%
■200,000円 ー 191,000円 = 9,000円(還付)
還付金・追徴税額の仕訳
還付金・追徴税額の仕訳について、具体例を挙げて解説します。ここでは、社会保険料・住民税は考慮せず簡易的に説明しています。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
給与 | 500,000円 | 未払金 | 490,000円 |
預り金(源泉所得税) | 10,000円 | 預り金(源泉所得税) | 20,000円 |
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
給与 | 500,000円 | 普通預金 | 470,000円 |
預り金(源泉所得税) | 30,000円 |
おわりに
年末調整は業務の負担が大きい作業であり、期限も決められています。年末調整は税理士へアウトソーシングすることができるため、毎月の給与計算業務もあわせて税理士へ依頼することを検討してみるとよいでしょう。
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