消費税減税、「責任を持って戻す」と言うけど本当にできる? 立ちはだかる6つの壁
税金・お金
政府は9月15日、「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」を閣議決定しました。この決定は、飲食料品に係る消費税を来年4月から2年間に限り8%から1%に引き下げるというものです。
2月の衆院選では「飲食料品は、2年間に限り消費税の対象としないことについて、検討を加速する」との公約を掲げていたため、残りの消費税1%分については、「就業者負担軽減支援金の支給」という形で補填し、実質的な負担をゼロにする設計になっています。
しかし、消費税減税に対しては、年間5兆円とも言われる巨額の財源が必要になることや「一度下げた税率を元に戻すのは難しい」との批判があります。一度下げた消費税を2年後に再び上げることは本当にできるのでしょうか。(ライター・東雲修)
●期限付き消費税減税はどのように担保されているか
この大綱には、「飲食料品に係る消費税率について、現下の物価の上昇に鑑み臨時的に2年間に限り引き下げる」と明記されています。これは、2年後、景気の動向にかかわらず、自動的に元の税率に戻すことを示しています。
つまり、この大綱どおりに法律が制定された場合、2年後に法改正をしなくても、消費税は自動的に8%に戻ります。これだけ見ると、自動的に8%に戻るのだから、特に難しいことはないようにも思えます。
しかし、法律上は消費税の税率を元に戻すことは簡単でも、政治的に簡単に戻せるかどうかは別の問題です。なぜなら、1%のまま消費税を維持することは、法律を変えれば可能だからです。政治的に減税の維持が強く求められれば、それを無視することは難しくなります。
●消費税を戻すことが難しい事情
(1)増税と捉えられる
消費税が1%に減税されると、飲食料品の購入価格が実質的に安くなります。そのため、2年後に消費税を元の税率に戻すことになった場合、消費者は増税されたように感じます。理屈の上では、元の税率に戻すだけなので増税ではありませんが、一度、税率を下げるとそこが基準になるため、感覚的には増税と捉えられてしまいます。
また、消費税が減税された分について、価格を上乗せする事業者も出てくることが予想されます。その場合、2年後には価格自体が上がってしまっているので、その高い価格に高い消費税率を課すことになります。そうなると、これまで以上に税負担を重く感じることになります。
(2)物価高の継続
そもそも、飲食料品の消費税減税を行う理由は、物価高対策です。だとすると、2年後にも物価高が続いている場合、元に戻す合理的理由はありません。この点について高市首相は、消費税の減税は、給付付き税額控除を本格的に導入するまでの「つなぎ」であり、「2年後には、私が責任を持って、確実に税率を元に戻してまいります」と述べています。
しかし、給付付き税額控除は、①社会保障と税制が混在することによる問題点や、②正確な所得を把握することの困難性から、議論が進んでいません。2年後に確実に実現できるかどうかは不透明な状況です。
仮に、給付付き税額控除の導入が決まったとしても、給付が行われるのは消費の時点ではないため、消費税の負担感はすぐには解消されません。また、現在検討されている給付付き税額控除は現役世代への給付を想定していることから、高齢者などの非課税世帯は給付の対象とならず、消費税が8%に戻るとその負担が大きくのしかかってきます。
(3)飲食料品業界からの圧力
今回の消費税減税でも、レジ・販売管理システムの改修や値札の変更など、多額のコストと事務負担が発生します。ただ、不満はあるものの、減税になれば、実質的な販売価格が下がり、多少売上の増加が期待できるため、今のところ、大きな反発は生まれていません。
しかし、2年後に実際に消費税の税率を元に戻すことになった場合、再びレジ・販売管理システムの改修や値札の変更が発生し、しかも、消費税が増える分、今度は、実質的な販売価格が上昇することになるので売上が下がる可能性が高くなります。そのため、飲食料品業界からは、消費税減税の延長あるいは恒久化を求める声が強まることが予想されます。
(4)与野党からの圧力
2年後に消費税を8%に戻す時点で、野党はもちろん、与党内で政権に批判的な勢力からも批判が出ることが想定されます。特に選挙が近い時期になると「1%から8%への大増税だ」、「国民生活を無視した増税だ」、「消費税は恒久的に廃止すべきだ」といった主張が繰り返されるようになるでしょう。その結果、「消費税を8%に戻すかどうか」を争点とする選挙になる可能性があります。
そのとき、政権および自民党の支持率が高ければ、「増税ではなく、最初から2年間と約束した臨時措置の終了にすぎない」や「消費税は社会保障を支える財源であり減税を継続すれば行政サービスに支障が出る」といった反論で、乗り切ることもできるかもしれません。しかし、支持率が落ちている場合には、野党や与党内の反対勢力からの追及に耐えられず、消費税減税の延長という道を選ばざるを得なくなるかもしれません。
(5)政権交代
今回の消費税の減税は、選挙での公約であったこともあり、高市政権の強いこだわりによって実現しました。そのため、2年後も高市政権が続いており、高い支持率を維持できている場合には、強い決意で消費税を8%に戻すこともあり得るでしょう。
一方、2年後に高市政権でなくなっている場合には事情が異なります。野党からの批判が厳しく、世論の反応も「消費税を8%に戻すのは早すぎる」ということになれば、あくまで前政権が行った政策なので、「前政権の判断が間違っていた」、あるいは「事情が変わった」として、減税の期間を延長することになるかもしれません。
(6)円安
消費税減税を行うと、財政状況が悪化するとの懸念が生まれ、国債が売られることになります。国債が売られることによって長期金利は上昇しますが、国債の信用が失われるということはその通貨の信用の低下にもつながるため、円が売られやすくなります。そのため、金利が上昇しても円安が続く可能性があります。
円安がこのまま続けば、輸入に依存している食料品自体の価格が上がるのはもちろん、飼料・肥料・包装資材なども海外に依存しているため、国内の食品価格にも影響が及びます。原油価格も不安定な中で、円安が続けば、燃料費の高騰によってハウス栽培にも影響が出るほか、輸送コストの上昇が商品価格を押し上げる可能性もあります。
物価高が続くと、消費が減少し、景気が悪化するおそれがあります。2年後に景気が悪化している状況で、消費税を1%から8%に戻すことはできるでしょうか。
●消費税を戻すことは、下げるよりも難しい
このように、消費税の税率を1%から8%に戻すことは、消費税を引き下げること以上に難しいといえます。高市首相は、「2年後には、私が責任を持って、確実に税率を元に戻してまいります」と述べていますが、それは、給付付き税額控除がまとまることが前提です。給付付き税額控除がまとまらなければ、「つなぎ」を継続する必要があるとして、消費税減税が延長されるのでしょうか。
仮に、消費税減税の状態が長引けば、社会保障費の不足など財政状況の悪化が懸念されます。減税による財源について、「歳出・歳入両面であらゆる見直しをゼロベースで進める」という、何ら具体性のない財源論では、円に対する信用はこれまで以上に低下する可能性があります。
円安によって、もうかる企業もたくさんありますが、個人のレベルでは、海外旅行に行くことも難しくなり、物価高で生活は疲弊し、金利の上昇によりローンの負担が重くのしかかるようになります。消費税の減税は消費者にとってうれしいことですが、反面、このようなマイナス面があることも認識しておく必要があります。















