「ギョエーーー」奇抜すぎる国保督促状、文京区が批判受け謝罪 なぜ滞納が起こりやすいのか
税金・お金
「あけろ!あけろよ~!」や「ギョエーーーーーーーー」といった言葉が並んだり、封筒一面に目の絵が描かれたりした文京区の国民健康保険料の督促状が、先日話題になりました。
ネット上で批判を受けた結果、文京区は10月22日、以下のコメントを発表しました。
「今回のデザインにつきましては、若い世代の納付率向上に向けた取組の一環として、インターネット動画のコメント表示の形式を取り入れたものでした。法の規定により『督促状を発した日から起算して10日を経過した日』までに完納されない場合には、差押禁止債権等の場合を除き『滞納者の財産を差し押さえなければならない』ことが定められていることから、督促状を見落として差押に至ってしまったり、延滞金が加算されてしまったりすることのないよう、なんとか目にとめていただきたいとの思いで取り組んでまいりました。
しかしながら、皆様から『不謹慎である』『不気味に感じる』といった厳しいご批判・ご意見を数多くいただくこととなり、表現形式・内容が行き過ぎたものとなってしまったこと、また、若い世代を意識して作成したものを全ての対象者へお送りしてしまったことを、深く反省しております」
行政機関からの通知というのは、一般的に地味で無味乾燥なものが多いのですが、文京区は、なぜ、このような封筒を使ってまで、国民健康保険の保険料の徴収に躍起になっていたのでしょうか。
一方で、国民健康保険料はなぜ滞納が起こりやすいのか、また、保険料を滞納し続けると本人にどのようなデメリットがあるのかについて解説します。(ライター・東雲修)

●国民健康保険とは?
公的医療保険制度は、大きく分けて3つの種類があります。①サラリーマンなどが加入する被用者保険(協会けんぽや組合健保)、②自営業者などが加入する国民健康保険(市町村国保、国保組合)、③後期高齢者医療制度です。
今回問題になっているのは、②の「市町村国保」です。市町村国保は、都道府県と市町村が運営主体となっており、自営業者のほか、無職の方、非正規雇用の方などが加入しています。受けられる主な給付には、医療費の保険給付、高額療養費、出産育児一時金、葬祭費などがあります。
●滞納が起こりやすい理由
公的医療保険制度で、①の被用者保険については、給与から保険料が天引きされるため、事業主が保険料を滞納しない限り、基本的に滞納は発生しません。また、③の後期高齢者医療制度では、原則として年額18万円以上の年金を受給している場合、一定の条件の下で年金から保険料が天引きされるため、こちらも保険料の滞納が生じにくい仕組みになっています。
一方、市町村国保は次の理由により、滞納が発生しやすくなっています。
(1)低所得者が多い
日本では国民皆保険制度が採用されており、原則として、何らかの公的医療保険に加入しなければなりません。そのため、無職であっても、扶養などで他の公的医療保険に加入している場合や生活保護を受けている場合などを除き、市町村国保に加入する必要があります。また、無職でなくても、非正規雇用やフリーランスなど収入が不安定な方が多く加入しています。そのため、収入が少なく支払えない人が一定数います。
(2)保険料負担が重いと感じる
サラリーマンの保険料は、給与天引きのため、高いと思うことはあっても直接的な負担感はあまりありません。それに対し、市町村国保の場合、口座振替もありますが、保険料を納付書で直接払うことが多いので、保険料の負担が重いと感じやすい面があります。
また、被用者保険では、原則として事業主が保険料の半分を負担してくれますが、市町村国保は、被保険者が全額の保険料を支払う必要があるので、保険料の負担を重く感じやすいということがあります。
保険料の算定方法は市町村により異なりますが、基本的に所得割と均等割などによって算定され、所得割は、前年(1月〜12月)の所得により算定されるため、前年の所得が多い場合、仮に当年の所得がゼロであったとしても、高額な保険料が請求されることがあります。
(3)税金と比べ保険料の滞納に罪悪感が少ない
税金の場合、滞納すると財産を差し押さえられるなど、厳しく徴収されるイメージがありますが、市町村国保の場合、「保険料」という名称であることもあり、厳しい取り立てのイメージはありません。そのため、滞納に対する罪悪感が少ないという面もあるようです。
また、保険料を滞納したからといって直ちに保険証等が使えなくなるわけではありません。それは、経済的な困窮などで保険料を滞納しているからといって、必要な医療が受けられなくなる事態を避けなければならないからです。このような事情もあり、保険料を支払わない人がいます。

●保険料を滞納すると本人にどのようなデメリットがあるのか
(1)保険料の負担が大きくなる
保険料を滞納し続けると、未納保険料が積み上がることはもちろん、納期限の翌日からは延滞金も発生します。相談すれば、分割での納付も認められることがありますが、原則として一括納付なので、早めに相談して支払う必要があります。
(2)差し押さえられるリスクがある
市町村国保の保険料を滞納しても、税金と違って財産を差し押さえられることはないと考えている人もいるようですが、督促状を無視し続け、市町村職員が訪問しても保険料を納付しないような場合には、財産が調査され預貯金や給与などが差し押さえられることがあります。
(3)安く医療を受けられなくなる
保険料を滞納したからといって直ちに保険証等が使えなくなるわけではありません。
しかし、市町村が納付勧奨等を行ってもなお保険料を納付しない場合には、所定の手続きを経て、医療機関の窓口での保険給付(現物給付)に代えて「特別療養費」を支給する仕組みに変更されることがあります。
この対象になると、医療機関の窓口で一旦医療費の全額を支払った上で、後日申請して保険給付分(7割又は8割等)の支給(特別療養費)を受ける仕組み(償還払い)に変わるため、一時的な自己負担が大きくなります。
(4)間接的な不利益を受ける可能性がある
行政上の福祉サービスを受ける場合や手当や補助金を受ける場合には、税金や保険料の滞納がないことが条件となっていることがあります。税金や保険料を滞納していると、行政サービスや各種給付金が受けられないなどの不利益を受けることがあります。

●自治体が保険料の徴収に必死になる理由
国保は、都道府県が財政運営の責任主体となり、市町村と共同で運営する仕組みになっています。都道府県が必要な医療費を見積もり、各市町村の医療費水準や所得水準をもとに納付金を割り振ります。市町村は、都道府県から割り振られた納付金を賄えるよう保険料率を決定し、国保の被保険者から保険料を徴収するという流れになっています。
つまり、市町村で集められた保険料は、納付金という形で都道府県に納付されるわけです。この納付金は、保険料の滞納があるからといって免除されるわけではなく、市町村は滞納があっても全額都道府県に支払う必要があります。
滞納による不足額はどうするかと言えば、都道府県の財政安定化基金で賄えない場合は、市町村が負担することもあります。そのため、納付金が支払えなくなるということにならないよう、保険料は確実に回収したいわけです。
また、保険料の滞納が長期化する場合には、財産調査や差し押さえの手続きが必要になることもあり、市町村にとっては大きな負担になります。できるだけ、任意に保険料を支払ってもらいたいというのが本音です。そのため、文京区としては、督促状を開封してもらい、保険料の納付につなげる狙いがあったと考えられます。
しかし、開封を促すための工夫であっても、行政機関からの通知として適切な表現だったのかについては、疑問が残ります。文京区は、今回の批判などを受けて、「貴重なご意見を真摯に受け止め、再発防止を徹底するとともに、区民の皆様の視点に立った適切な通知物の作成に努めてまいります」とコメントを掲載しています。
文京区以外でも行政機関は時として不適切な表現をすることがあります。最近だと、法務省が更生保護の取組として、Netflixの恋愛リアリティー番組「ラヴ上等」シーズン2とタイアップしたポスターを公表した件があります。しかし、このポスターに対しては「犯罪被害者への配慮が不十分ではないか」との批判があり、このタイアップは取りやめになりました。
また、神奈川県警では、運転免許の更新時に回収した旧免許証を警備部門に引き渡し、顔写真などを捜査資料に利用していた不適切な取扱いが明らかになりました。こうした運用は、行政機関の都合を優先した対応といえます。
「徴収率を上げたい」、「検挙率を上げたい」という行政側の都合によるものであり、国民の視点を欠いた独善的な対応と言わざるを得ません。
「行政機関は硬すぎる」と言われることが多いですが、その堅実さが信頼につながっていることも確かであり、行政機関は、法令に従って公正に職務を遂行することはもちろんですが、市民からの信頼を得ることも求められています。
これからも行政機関の行き過ぎた活動や不適切な対応が生じる可能性はありますが、マスコミや国民は厳しく行政の活動を監視し、その適正性を検証するとともに、問題があれば批判することによって、行政機関の暴走に歯止めをかけていくことが重要になります。















