「親の認知症」で預金凍結!? 家族信託・任意後見・生前贈与の「税金の落とし穴」を税理士が解説
生前対策
親が認知症などで判断能力を失うと、銀行は本人の財産を守るために口座を「凍結」することがあります。
こうなると、預金の引き出しや定期預金の解約、振込などが制限され、親の介護費や施設費、生活費を家族が親の口座から支払えなくなってしまいます。さらに自宅や賃貸不動産も、本人が売買・賃貸の契約を結べなくなるため、いわば「資産凍結」の状態に陥ります。高齢化が進むなか、こうしたリスクへの備えとして「家族信託」への関心が高まっています。
備えの選択肢としては、大きく分けて「成年後見制度(法定後見・任意後見)」「家族信託」「生前贈与」などがあります。ただし、任意後見・家族信託・生前贈与はいずれも本人に十分な判断能力があるうちにしか行えず、認知症が進んでからでは法定後見しか選べなくなる、という点が最大の注意点です。
もっとも、これらの手段は「凍結を防げるかどうか」だけでなく、贈与税・相続税・不動産にかかる税金など、税務上の扱いも大きく異なります。どれを選ぶかで将来の税負担も変わってくるため、判断は簡単ではありません。
そこで、認知症の資産凍結対策を税務の観点からどう考えればよいのか、高山弥生税理士に聞きました。
●「家族信託」「任意後見」「生前贈与」の税金面の違いと、向いている家庭は?
ーー資産凍結に備える「家族信託」「任意後見」「生前贈与」について、それぞれの税務上のメリット・デメリットや、どんな家庭に向くのかを教えてください。
3つの制度はそれぞれ目的や特徴が異なります。税務面と向いている家庭を整理すると以下のようになります。
- 家族信託
・概要:
自分の持つ不動産や預貯金の「管理・処分権」だけを信頼できる家族に託し、利益(受益権)は親本人が持ち続ける仕組みです。
・税務上のメリット:
契約を結んだ時点では、実質的な財産権(受益権)が移転しないため、贈与税や不動産取得税はかかりません。
・税務上のデメリット:
家族信託それ自体には相続税を減らす節税効果はありません。また、家族信託の対象とされた信託財産から生じる不動産所得の損失(赤字)と他の所得との損益通算ができないなどの制限があります。
・向いている家庭:
親が元気なうちに「実家やアパートの売却・建て替え・大規模修繕」を自由にできるようにしておきたい家庭。
子どもに財産の管理を任せたいが、財産そのものを今すぐ贈与するわけにはいかない家庭。
2.任意後見
・概要:
将来、認知症などで判断能力が低下したときに備え、あらかじめ「自分の財産管理や介護などの手続き(身上保護)を誰に任せるか」を決めておく制度です。
・税務上のメリット:
財産の名義や所有権は本人のままであり、財産の移転がないため贈与税はかかりません。
・税務上のデメリット:
節税効果はありません。また、発効後は家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」の報酬が、本人が亡くなるまで継続して発生します(月額3〜6万円程度)。
・向いている家庭:
元気なうちは自分で財産を管理し、判断能力が低下してから任せたい家庭。
介護施設との契約や医療費の支払いなど、身上保護まで法的に備えておきたい家庭。
3.生前贈与
・概要:
生きているうちに、子どもや孫へ財産(不動産や現金など)の所有権を渡す方法です。
・税務上のメリット:
将来の相続財産そのものが減るため、相続税の節税につながります。
・税務上のデメリット:
高額な贈与を行うと、贈与税が高額になる場合があります。不動産を贈与した場合は、不動産取得税や登録免許税が発生します。財産の所有権が完全に移るため、親自身の老後資金が不足するリスクや親族間のトラブルの火種になることがあります。
・向いている家庭:
すでに十分な資産があり、元気なうちから次世代へ財産を移して、将来の相続税をあらかじめ減らしたい家庭。
財産を渡しても、親自身の生活費に十分な余裕がある家庭。
●親の認知症が進んでしまった「発症後」に、家族がやるべき税金・相続対策は?
ーーすでに親の判断能力が低下し始めている場合、家族信託や生前贈与は間に合わないこともあります。そうした「発症後」でも取り得る対策や、税務・相続の面で家族が最低限やっておくべきことは何でしょうか。
すでに判断能力が著しく低下し、家庭裁判所によって「法定後見人」が選任された場合、生前贈与や生命保険の加入などの「相続税対策(節税行為)」は一切できなくなります。
成年後見制度の目的は、「本人の財産を保護し、本人のために使うこと」だからです。生前贈与や節税対策は、子どもや孫(次世代)にメリットがある行為であり、親本人にとっては財産を減らす「不利益な行為」とみなされてしまうためです。
この場合、家族は「将来の相続や税務調査でトラブルにならないための守りの対策」に切り替える必要があります。具体的には以下の2点を徹底してください。
1.医療・介護費は親の口座から精算し、「領収書と記録」を細かく残す
親の医療・介護費用は必ず親の口座から実費を精算し、領収書と合わせて「家計簿やメモ」を細かく記録しておきましょう。親が認知症になった後、まとまったお金を子どもの口座に移すと、税務署から「名義預金」や「相続財産の隠匿」と疑われる原因になります。
2.家族間で「今後の介護方針と費用負担」を書面で共有しておく
口座凍結などにより親の口座からお金が引き出せなくなった場合、「誰が介護費用を立て替えるのか」「将来の相続時にその立て替え分をどう精算するのか」を、他の兄弟姉妹とあらかじめ書面等で共有しておきましょう。
この共有がないと、将来の相続時に「勝手に親の金を使ったのではないか」「自分だけ負担させられた」といった感情的な相続トラブルへ発展することがあります。
【取材協力税理士】
高山 弥生(たかやま やよい)税理士
VSG相続税理士法人溝の口オフィス代表税理士。実務の傍ら、執筆やセミナー講師を務める。
VSG相続税理士法人では、相続税申告において日本最大級の実績とノウハウにより、顧客の立場に立って一番有利な相続アドバイスを行う。グループの行政書士・司法書士・社会保険労務士法人と連携をとり、あらゆる相続の悩みに対応している。
事務所名 :VSG相続税理士法人
事務所URL:https://vs-group.jp/sozokuzei/
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