「中小企業経営強化税制」が2021年3月まで延長!改正点やメリットをわかりやすく解説

中小企業や小規模事業者の経営強化を目的とした「中小企業等経営強化法」。そのうちの支援措置の1つに、設備投資の際に利用できる「中小企業経営強化税制」があります。この記事では支援措置の具体的な内容と適用条件、手続きの流れに加え、2019年度の税制改正における変更点を解説します。
目次
中小企業経営強化税制とは
「中小企業経営強化税制」とは、中小企業者が生産性向上などを目的に設備を新規導入した場合に税制措置を受けられる制度で、中小企業等経営強化法に基づく支援措置のうちのひとつです。国や地方公共団体から補助金を受けている場合でも、適用可能です。
似たような制度に「中小企業投資促進税制」というものがありますが、その上乗せ措置が、中小企業経営強化税制です。支援内容が手厚い分、中小企業投資促進税制に比べて申請や認定の手続きに手間がかかるほか、対象となる事業者も限られています。
2019年度税制改正の変更点
2019年度の税制改正により、適用期間が2021年3月31日までに延長されました。
また、働き方改革の実現に向けた取組を支援する観点から、対象設備を明確化するといった強化も行われました。具体的には、休憩室に設置される冷暖房設備や、作業場に設置されるテレワーク用PC等も適用対象であるということが、Q&A集等を通じて明確化されています。
適用期間中に取得し、事業に使用した新品の機械や設備、ソフト、備品については、この制度を活用すると良いでしょう。
中小企業経営強化税制における支援措置
中小企業経営強化税制では、「即時償却」あるいは「税額控除」のどちらかを選択して適用することができます。設備投資を複数行った場合は、設備単位でいずれかを使い分けることも可能です。
取得価額の即時償却
取得した設備投資を計上する際、通常の減価償却方法ではなく、全額を一度に計上できる「即時償却」という特別償却方法を選択することができます。
即時償却によって取得価額の全額を損金にすることで、所得を抑えることができます。そのため、所得が多い年に即時償却をすれば、その年の納税額を抑えることができます。
ただし見た目上の営業利益が悪くなるのを避けるため、普通償却費とは別に特別損失として即時償却分を計上しましょう。
たとえば営業利益300万円の中小企業が500万円(耐用年数5年)の設備を取得した場合、通常であれば以下のようになります(都合上、簡略化しています)。
減価償却費 | 5,000,000 |
営業利益 | -2,000,000 |
普通償却費は「500万円 ÷ 5年 = 100万円」のため、即時償却分は「500万円 ー 100万円 = 400万円」となり、即時償却分を特別償却費(特別損失)として計上すると以下のようになります。
減価償却費(普通償却分) | 1,000,000 |
営業利益 | 1,000,000 |
特別償却費(即時償却分) | 4,000,000 |
このように、即時償却分を特別償却費とすることで、営業利益の見た目の数字が改善されることがわかります。
即時償却をすると赤字になってしまう場合は、全額を損金にせず、償却不足額を1年間だけ繰り越すこともできます。法人税の申告の際には、繰り越す金額を記入しなければならないので、いくら繰り越すのか、節税の観点も含めて検討しましょう。
即時償却の注意点
即時償却は費用を一度にまとめて計上しているだけなので、トータルの納税額は変わりません。よって即時償却を選択するのは、設備導入によって当該年度の資金繰り悪化が想定される場合などがよいでしょう。
また、即時償却の適用を受けるためには、確定申告書等に償却限度額の明細書および経営力向上計画書の写し、経営向上計画に係る認定書の写しを添付する必要があります。
取得価額の10%に相当する額の税額控除
税額控除は、納税額から取得価額の10%(資本金が3000万円超1億円以下の法人は7%)を差し引くことができます。
控除できる金額の上限は法人税の20%と定められているため、これを超える部分については控除を受けることができません。
ただし税額控除の限度額は1年間の繰り越しが認められているので、差額(控除されなかった分)については翌年度に限り再度税額から控除することができます。
取得価額について
法人税法上の「圧縮記帳」の適用を受けた場合には、圧縮記帳後の金額が税務上の取得価額となり、「積立金方式」を用いた場合は、補助金額等を差し引いた価額を取得価額とします。
補助金・助成金の税金はどうなる?圧縮記帳などの会計処理をわかりやすく解説中小企業経営強化税制の適用シミュレーション
以下の例を用いて、即時償却または税額控除を適用した場合と、いずれも適用しなかった場合の法人税額の違いをシミュレーションしてみます。
【例】
- 500万円の設備を導入(耐用年数は5年)
- 年間売上は800万円
- 減価償却の方法は定額法
- 法人税率は軽減税率の適用により15%(800万円以下の部分)
※諸経費や他の税制などは考慮しないものとします。
- 税制を利用しなかった場合
減価償却費:500万円 ÷ 5年 = 100万円
課税対象額:800万円 ー 100万円 = 700万円
法人税額:700万円 × 15% = 105万円 - 即時償却を選択した場合
課税対象額:800万円 ー 500万円 = 300万円
法人税額:300万円 × 15% = 45万円
取得価額を即時償却することで所得が抑えられ、取得年度の法人税額をかなり軽減することができます。ただし次年度以降は償却分がないため、先述のとおりトータルでの納税額は税制を利用しなかったときと変わりません。
- 税額控除を選択した場合(※税額控除は取得価額の10%とする)
控除前の法人税額は税制を利用しなかったときと同様、105万円になります。
控除額:500万円 × 10% = 50万円
しかし法人税額の20%が上限額となるため、実際に控除できるのは「105万円 × 20% = 21万円」です。
控除後の法人税額:105万円 – 21万円 = 84万円
なお控除されなかった24万円分については先述のとおり、翌年度に繰り越して税額から控除することができます。
対象事業者
制度の対象となるのは、青色申告書を提出する中小企業者等(※1)、および特定の中小企業者で、2017年4月1日から2021年3月31日の間に、中小企業等経営強化法に規定する「経営力向上計画」の認定を受けたものです。
上記の対象者が一定の設備を新規取得して指定事業に使用した場合に、制度の適用を受けることができます。設備と指定事業については後述いたします。
指定事業とは
指定事業とは、製造業、小売業、サービス業など、中小企業投資促進税制および商業・サービス業・農林水産業活性化税制のそれぞれの対象事業に該当するすべての事業となります。
対象とならない事業は、以下のとおりです。
- 電気業、水道業、娯楽業(映画業を除く)等
- 性風俗関連特殊営業に該当する事業
- 鉄道業、航空運輸業
- 銀行業
- 料亭、キャバレー、ナイトクラブ等に類する事業
※1 中小企業者等とは
中小企業者等とは、以下の要件に該当する法人または個人をいいます。
- 資本金もしくは出資金の額が1億円以下の法人
- 資本金もしくは出資金を有しない法人のうち、常時使用する従業員数1000人以下の法人
- 常時使用する従業員数が1000人以下の個人
- 協同組合等
ただし、以下の法人は資本金が1億円以下でもこの制度を利用することができません。
- 1つの大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人
- 2つ以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人
- 前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人
対象設備
制度の対象となる設備は、生産性向上設備のA類型と、収益力強化設備のB類型があります。
共通要件
A類型とB類型に共通する要件は、以下のとおりです。
- 取得価額が30万円以上の固定資産であること
- 中小企業等経営強化法の認定を受けていること
- 生産等設備を構成するもので、売上高に直接寄与するような設備であること
(事務用器具備品、本店・寄宿舎等にかかる建物附属設備、福利厚生施設にかかるもの等は該当しません) - 国内への投資であること
- 中古資産や貸付資産でないこと
また、購入する以外に、自社で制作した設備を固定資産計上をする場合も対象となります。
A類型(生産性向上設備)の要件
A類型に分類されるものは「一定期間内に販売されたモデル」かつ「生産性が旧モデルと比較して年平均1%以上向上している」設備です。ただし、工場会等の認定が必要となります。
設備の種類 | 最低取得価額 (1台あたり) | 販売開始時期 |
---|---|---|
機械・装置 | 160万円以上 | 10年以内 |
測定工具および検査工具 | 30万円以上 | 5年以内 |
器具・備品 (試験・測定機器、冷凍陳列棚など) | 30万円以上 | 6年以内 |
建物附属設備 (ボイラー、LED証明、空調など) | 60万円以上 | 14年以内 |
ソフトウェア (情報を収集・分析・指示する機能) | 70万円以上 | 5年以内 |
B類型(収益強化設備)の要件
B類型に分類されるものは「投資利益率が年平均5%以上の投資計画にかかる」設備です。A類型と異なり、販売開始時期や設備の用途等は問いません。ただし、経済産業局による認定が必要となります。
※投資利益率は、設備を取得する翌年から3年間の「営業利益 + 減価償却費の平均額」を「設備投資額の合計」で割って算出します。
設備の種類 | 最低取得価額(1台あたり) |
---|---|
機械・装置 | 160万円以上 |
工具 | 30万円以上 |
器具・備品 | 30万円以上 |
建物附属設備 | 60万円以上 |
ソフトウェア | 70万円以上 |
中小企業経営強化税制の申請方法
申請の基本的な流れは、以下のとおりです。
- 対象設備かどうかの確認
- 工業会の証明書、または経済産業局の確認書を取得する
- 中小企業等経営強化法の認定を受ける
- 対象設備を取得する
- 税務申告をする
1.対象設備かどうかの確認
まずは、新たに購入・導入する予定の設備が、税制の対象になるかどうかを確認しましょう。
B類型と比べるとA類型の方が手続きの手間が少ないので、A類型、B類型のどちらにも該当する場合はA類型を選択すると良いでしょう。
2.証明書または確認書を取得
A類型は工業会等の証明書、B類型は経済産業局の確認書を取得します。
A類型の場合は、設備メーカーに証明書の発行を依頼することで、設備メーカーを通じて工業会等から生産性向上要件を満たす設備であることの証明書を取得することができます。発行までには数日から2か月程度かかることもあるため、事前に工業会等に確認をしておきましょう。
B類型の場合は、基本的に以下のフローで経済産業局の確認書を取得します。
- 投資計画案を策定し、確認申請書の作成を行う
- 税理士または公認会計士の事前確認を受け、事前確認書を発行してもらう
- 申請書に必要書類と事前確認書を添付して、経済産業局に確認書の発行申請を行う
申請から発行までは、数日から1か月程度かかります。余裕をもって申請を行うようにしましょう。
3.中小企業等経営強化法の認定を受ける
工業会等または経済産業局の確認を受けた設備について「経営力向上計画」に記載し、担当省庁の主務大臣に計画申請をします。計画申請に必要な書類は以下のとおりです。
- (共通)計画申請書およびその写し
- (A類型)工業会等の証明書の写し
- (B類型)経済産業局の確認書と確認申請書の写し
計画申請をしてからおよそ1か月程度で認定が受けられます。
4.対象設備を取得する
認定を受けた設備等を取得し、事業に使用することで、税務申告において中小企業等経営強化税制の優遇措置を受けることができます。
5.税務申告をする
優遇措置を適用するには、税務申告の際に以下の書類を添付する必要があります。
- (共通)中小企業等経営強化法の認定書および認定の申請書
- (A類型)工業会等の証明書の写し
- (B類型)経済産業局の確認書の写し
なお、B類型においては、設備の取得等をした年の翌年度以降3年間、投資計画の実施状況について確認書の交付を受けた経済産業局に報告する必要があります。
申請時の注意点
B類型の場合は、投資計画案が要件を満たしているかどうかを、税理士または公認会計士に事前確認をしてもらい、事前確認書の発行をしてもらう必要があります。
確認書の申請は、事前予約が必要になるほか、申請の内容がわかる人が申請書を持参し、その内容を説明しなければなりません。自由様式の投資利益率が年平均5%以上となる投資計画案も作成しなければならないので、制度の申請に長けている税理士に事前確認書と一緒に依頼をする方が安心です。
加えて、中小企業等経営強化法の認定を受けるための申請書も、上記書類と一緒に税理士に依頼をしておくことで手続きを効率的に進めることができます。
おわりに
中小企業にとって、経営強化税制は税負担を軽減させるために有効な手段の1つではありますが、確認書の提出、経営力向上計画認定申請書の提出と、2つの省庁で手続きが必要になり、また申請書や投資計画案などの作成にも手間がかかります。そのため、書類の作成や申請は税理士などの専門家の協力があると安心です。
そのほか、税額控除と特別償却のどちらを利用すれば良いか、他の制度の利用検討も含めて、不安なことがあれば相談・サポートをしてもらうと良いでしょう。
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