“無借金”経営にもデメリットがある?借入れで資金繰りを行うメリットは?

一般的に「借金」というフレーズには良いイメージはなく、会社の運営においても借金ゼロを目指している経営者もいらっしゃるかと思います。しかし、そのような“無借金”の状態が必ずしも経営に有利というわけではありません。では、「無借金経営」にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
目次
無借金経営とはどのような状態か
そもそも無借金経営とは、その名前の通り「借入や社債がなく、自己資金のみで経営している」状態のことです。より詳しく説明すると、まず資本には自己資本(資本金)と他人資本(負債)があります。そして、負債には無利子負債と有利子負債があります。
- 無利子負債:利息の支払いが必要ない負債(買掛金、支払手形、未払金など)
- 有利子負債:利息の支払いが必要ある負債(短期借入金、長期借入金、社債など)
この負債のうち有利子負債がない状態の経営を、一般的に「無借金経営」と呼んでいます。
統計的に見る無借金経営の実態
2016年の中小企業白書を確認すると、2014年時点では中小企業の35.4%が無借金経営となっています。30年前(1983年)の割合は17.8%であり、その頃に比べると現在の方が無借金経営を行っている企業の割合は高くなっていることがわかります。
また、設立年数別に無借金経営の割合を見ると、創業10年以下の企業においては59.2%と半数以上を占めている一方、創業50年を超える企業においては21.7%となっています。このような傾向になっているのには「金融機関が事業の安定性を重視し、長く付き合うことで良い関係が築けている」ことが理由のひとつとされています。
「実質無借金経営」とは
無借金経営と似た言葉に「実質無借金経営」があります。実質無借金とは、有利子負債を保有しているものの、現預金や短期の有価証券などの合計金額が有利子負債の合計金額を上回っている状態を指し、このような会社は、即座に有利子負債を返済することができる経営を行っている会社と言えます。
つまり、負債はあるものの、完済できる分の資金を有している状態です。実質無借金であれば、万が一の場合でも有利子負債を完済できる状態にあるので、倒産のリスクが低いという特徴があります。
ただし、実質無借金は「手元に多くの現金又は現金同等物がある」という状況でもあることから、一方では投資や株主還元(配当政策等)に積極的でない会社と見られ、株主からの評価に関わってくる場合もあります。あくまでも企業目標のひとつの指標として考えておきましょう。
借入などで負債がある場合との違い
「無借金経営(出資)の場合」と「借入などで負債がある場合」では、経営的にはどういった違いが出るのでしょうか。税金面、投資面、経営面など、いくつかの観点から比較したいと思います。
税金面では「支払いを損金算入にできるかが異なる」
税金面での違いを確認すると、各種支払いを損金算入できるかどうかが異なります。まずは、会社が株主に対して利益の分配としての「配当金」を支払うことを考えてみましょう。「配当金」は、帳簿上の扱いはあくまでも「繰越利益余剰金の減少」であり、損金算入はできないと決まっています。
また、会社が借入をした場合について考えてみましょう。この場合、金融機関に対して「支払利息」を支払う必要があります。この支払利息は帳簿上「費用の発生」として扱うため、損金算入できる決まりになっています。いずれも手元のキャッシュは減りますが、借入をした場合は利息分だけ節税効果が期待(経費計上により法人税等の支払い額を低減)できます。
事業投資面では「企業成長性への貢献度合いが異なる」
事業投資面では、無借金経営と借入などで負債がある場合では企業成長性に違いが見られます。言い換えると、新たに設備投資などを行う際に、財源の確保のしやすさに違いがでることがあります。
まず無借金経営の場合は、基本的に内部留保(利益)が財源になります。しかし、十分に内部留保を蓄えている企業は多くないので、事業投資をしたくてもすぐには行えないこともあります。一方、借入や社債発行などを行うことで手元に資金が十分になくても、投資用の資金を調達できるため、投資面では負債利用の方が有利といえます。
経営面では「返済の有無によって安定性が異なる」
経営面で言うと、返済の有無が事業の安定性に大きな影響を与えます。まず無借金経営の場合は借金がないので、事業が安定しやすい傾向にあります。一方、負債がある場合は返済義務があるので、景気が大きく変化した際などに倒産リスクが高くなってしまいます。
そこで借入を行う場合は最適な負債比率を見極めることが重要になります。仮に必要以上の融資を受けてしまうと、その分、利息負担分が重くのしかかります。そうなると本来の事業資金を返済に充てることになり、事業を圧迫してしまう可能性があります。そのため、事業の安定性を求める場合は、無借金経営の方が有利だといえるのです。
無借金経営による「3つのメリット」と「4つのデメリット」

経営の意思決定をするためにも、無借金経営のメリットとデメリットを知っておきましょう。
メリット1)借金返済や利息の支払いが必要ない
最大のメリットは返済義務のある有利子負債がないため、事業が安定しやすいことです。借入をしている場合は、毎月の元本や利息の支払いが必要ですし、景気変動リスクも生じます。無借金経営であれば返済すべき有利子負債がないため、これらの負担やリスクなどを抱えずに済むのです。
メリット2)取引先などから信用されやすい
一般的に、取引先からの信用度は財務諸表などによって決まります。無借金経営の場合は負債がないため財務諸表の見栄えがよく、「経営上大きな問題はない」という状態になります。そのため、取引先などからの対外的な信用を得られやすいと言えます。
メリット3)金融機関による事業への介入がない
融資を受けている場合、金融機関が事業に介入してくるケースがあります。これはコーポレートガバナンス上においては、適切な経営を行うことが可能となりますが、一方で経営の自由度が低くなることも意味します。そのため、無借金経営の方が金融機関からの干渉を受けにくい分、経営の意思決定はスムーズになります。
デメリット1)融資における与信審査が通りにくい
金融機関、とくに銀行から新たに融資を受ける場合、財務諸表上は安定して見える無借金経営だからといって確実に審査が通るわけではありません。
この理由は、無借金経営だと借入実績がないため、返済能力に対する信用がないからです。そのため、資金調達で不利になる場合があります。
デメリット2)レバレッジ効果が働かない
レバレッジとは「てこの原理」のことで、ビジネス上では他人資本(借入金など)を使って、自己資本に対する利益率を高めることを指します。その効果が働かないとは、要するに自己資本以上の利益が得られないということです。また、別の視点から見ると、ROE(自己資本利益率)が低いため資産効率も低いことが多く、「株価の上昇が期待できない」ということも意味します。
デメリット3)資金不足で投資機会を逃しやすい
無借金経営の場合は、使える手元のお金が出資金や利益などに限られるので、新たな事業に投資しにくいというデメリットがあります。また、無借金経営を保とうとすると、手元の資金をなるべく貯蓄しようと考えることも多いため、投資機会を逃すこともあります。
デメリット4)出資による調達コストがかかる
無借金経営にこだわる場合、資金調達の手段は増資などの限定的な手法に限られてしまいます。
経営者の方が潤沢な資金を有している場合は問題ありませんが、そうでない場合はほかの投資家などに出資を募る必要があります。しかし、希望通りに出資者が集まるとは限りません。また、業績により一定の配当金を支払わなければならなかったりと、資金調達のコストが大きくなってしまうのです。
借入れを検討するときは
もし利息負担を嫌って無借金経営を希望しているのであれば、きちんと融資先を選んでみてはいかがでしょうか。お付き合いする金融機関は極めて重要と言えます。金融機関によっては低金利の融資プランも設けているので、事業経営の安定性を維持したまま借入できる場合も多いです。特に、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫といった政府系金融機関の融資であれば、低金利で借入できる可能性が高いのでおすすめです。
また、借入以外の方法で資金調達を考えている場合は、各省庁や地方自治体が実施している補助金・助成金制度を利用するのもよいでしょう。補助金・助成金であれば、基本的に返済が必要ないので金銭的な負担は生じません。
いずれにせよ、融資や補助金・助成金を受けるには条件を満たす必要があるため、必ずしも全ての企業が利用できるわけではないので注意してください。
おわりに
経営の安定を目指し、負債がない無借金経営を企業目標のひとつに据えるのは良いかと思います。ただし、負債がなければよい企業なのかと問われれば、必ずしもそうとは言い切れません。実際、設備投資やM&Aを行うために借入を行い、その実績が評価される場面もあります。最適な財務戦略を見つけたい場合は、資金調達に強い税理士に相談してみるのも良いでしょう。
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