役員賞与の損金算入が認められる条件とは?「事前確定届出給与」で節税

役員に支給するボーナスである「役員賞与」は、税務上、損金不算入が原則ですが、「事前確定届出給与」として支給することで損金算入することが可能になります。
この記事では、役員賞与を支給する節税効果と損金算入するための条件について詳しく解説します。
目次
役員賞与とは
役員賞与とは、ボーナスはもちろん、債務の免除や低金利での貸付などを含めた「経済的な利益」のことをいいます。
ただし、会社法や会計上の役員賞与と、税務上損金となる役員賞与の定義は異なるため、注意が必要です。
まず会社法や会計上は、役員報酬と役員賞与について区別はされておらず「役員の職務執行の対価として受け取るもの」とされています。
一方で、税務上は役員報酬と役員賞与は明確に区別されています。役員報酬は、毎月固定の金額(定額同額給与)の支給であれば全額が損金となり、役員賞与は原則損金不算入となります。
これは、臨時的に支給する役員賞与の損金算入を認めてしまうと、役員賞与によって簡単に利益操作ができてしまうからです。
役員賞与が損金として認められる条件
前述のとおり、役員賞与は原則として損金不算入ですが、以下の条件を満たすことで損金算入が認められます。
「事前確定届出給与に関する届け出」を提出
役員賞与をいくらにするのか、いつ支給するかという内容を所轄税務署に提出することで、損金算入が認められます。
これを「事前確定届出給与」といい、事前確定届出給与に関する届出書を、以下のいずれか早い日までに提出しなければなりません。
- 株主総会等の決議の日から1か月を経過する日
- 会計期間開始日から4か月を経過する日
- 設立事業年度の場合は、その設立の日以後2か月を経過する日
たとえば3月末が決算日で、株主総会を5月24日に開催した場合は、6月24日が届出期限となります。
- 株主総会等の決議の日から1か月を経過する日:6月24日
- 会計期間開始日から4か月を経過する日:7月31日
あらかじめ支給する額を決めておけば、利益がでたら賞与で利益を減らす、というような利益調整には使えないため、このような決まりのもとで支給された役員賞与は、損金算入が認められるということです。
事前確定届出給与に関する届出書には、法人名や代表者氏名などの基本情報に加え、株主総会や取締役会で事前確定届出給与(役員賞与についての取り決め)を決議した日、当該給与にかかる職務の執行を開始する日、臨時で支給することになった理由、などについて記載します。
支払時期、支払金額を変えない
届出をしていても、提出した内容どおりに支給をしなければ、全額が損金不算入となってしまうため注意が必要です。
たとえば、100万円と届出をしていて120万円を支給した場合は、差額の20万円ではなく、120万円すべてが損金不算入となります。また、毎月分割して支払うようなことも認められません。
社会通念上で妥当な金額である
上述した条件どおりでも、社会通念を逸脱して高額な金額を支給していると、損金不算入とされてしまう可能性があるため注意が必要です。
金額の妥当性については、「実質基準」と「形式基準」の両方の観点から総合的に判断されます。ただし明確な判断基準は設定されていないため、個別に検討して判断しなければなりません。
実質基準
役員の職務内容や法人の収益状況、給与の支給状況、同種同規模の法人の役員報酬などを比較して、実質的に金額が妥当かどうかを判断します。
形式基準
定款の規定や株主総会の決議で定めた「報酬限度額」を基準に、形式的に判断します。
過去の裁決事例では、過大かどうかの判断について、同種の事業を営み、事業規模が同程度の類似法人の適正報酬額を超える部分の金額は不相当に高額であるとして、損金不算入の裁決がされています。
金額設定について心配な場合は、できるだけ税理士に相談してから金額を決めたほうがよいでしょう。
使用人兼務役員の場合
役員の中でも「使用人兼務役員」については、役員賞与の税務上の取扱いが少し違ってきます。
使用人兼務役員とは、会社の役員であると同時に、部長、次長といった職務についている使用人でもある者のことです。毎月支給される給与や役員報酬が損金として認められるのはもちろんのこと、賞与についても損金算入できる点で、通常の役員と取扱いが異なります。
ただし、損金算入が認められるのは「従業員分として支給された金額のみ」となります。したがって、役員ではない同じ職務を行う使用者の賞与と比較して、それを超える部分については、役員分として分けて考える必要があります。
使用人兼務役員の要件
使用人兼役員とは、次の要件を満たす人のことです。
- 代表取締役、専務取締役、常務取締役、監査役などではない取締役
- 会社の従業員である
- 実際に職務を遂行している
また、同族会社の場合は、次の要件も満たす必要があります。
- 持株割合が10%以下のグループに属している
- 個人単位での持株割合が5%以下である
役員賞与の決め方
役員賞与は、「株主総会で決議する」または「定款で定める」かのいずれかで決定します。
役員賞与を定款で定めてしまうと、金額が変更になるたびに定款も変更が必要になり、手続きが煩雑なので、株主総会で決めるのが一般的です。
議事録の書き方例
議長は、下記の事前確定届出給与を支給する旨の提案を行い、その承認を受けた。
支給日:○年○月○日
支給対象:○役員
支給金額:○円
現物支給はできる?
役員賞与についても、通常の給与と同じで労働基準法における「賃金支払い5原則」が適用されるため、現物支給ではなく金銭で支給しなければなりません。
ただし、事前に労働協約などによって、現物支給することの取り決めがされていれば、例外的に認められることもあります。
賃金支払い5原則
【通貨払い】給料は通貨(現金)で支払うこと。小切手やモノなどの現物で支払うことは原則不可。
【直接払い】給料は従業員本人に支払うこと。家族の口座への支払いは認められない。
【全額払い】給料は全額を支払うこと。ただし、所得税、住民税、厚生年金、健康保険などは控除して支給することが可能。
【毎月払い】給料は毎月一回以上支払うこと。額が少なくてもひと月に1回以上支払う義務がある。
【一定期日払い】給料は一定期日に支払うこと。毎月第4火曜日支給など、月により支払日がずれるのも認められない。
増額・減額したいときはどうする?
役員賞与の金額を増減したい場合は、原則として来期まで待って株主総会で再度決議する必要があります。
ただし、役員としての職務内容や地位が激変したことなどによる「臨時改定事由」や、経営状態が著しく悪化したことによる「業績悪化事由」などの事情が生じた場合は、事由が発生してから1か月以内に「事前確定届出給与の変更届」を提出することで、金額を変更することが可能です。
役員賞与の節税効果
役員賞与が損金算入できれば、節税対策としての活用もできます。
たとえば、法人税等の税率を30%と仮定し、100万円の役員賞与が損金として認められれば「100万円 × 30% = 30万円」の節税となるということです。
ただし、役員賞与にも所得税や住民税が課税されますので、いくら支給するかは個人の納税額とのバランスが重要になります。
個人の納税額とのバランスが重要
所得税は法人税よりも最高税率が高いので、あまり多くの役員賞与を支給すると、役員自身の税負担が重くなってしまう可能性があります。そのため、金額次第ではデメリットになる可能性も考えられるのです。
また社会保険料の負担も発生するため、その分会社からのキャッシュアウトが増えてしまうので、資産が減少することになるということにも注意しなければいけません。
社会保険料の負担軽減も可能
賞与に対してかかる社会保険料(健康保険料と厚生年金保険料)には、次のような「上限額」がそれぞれ設定されています。
社会保険の種類 | 賞与の上限額 |
---|---|
健康保険 | 573万円 |
厚生年金 | 150万円 |
そのため、たとえば役員賞与が1,000万円であれば、次の部分についてそれぞれの保険料負担がなくなります。
- 健康保険料:1,000万円 - 573万円 = 427万円
- 厚生年金保険料:1,000万円 - 150万円 = 850万円
つまり金額によっては、役員報酬ではなく、役員賞与として支給したほうが社会保険料が軽減できるということです。
上限額は年間の役員賞与に対して適用されるため、4月1日から3月31日までの間に複数回支給した場合でも、年間の総額で上限額を超えた部分に対して、保険料の負担がなくなります。
社会保険料の軽減シミュレーション
役員報酬を役員賞与に置き換えることで、具体的にいくらくらい削減できるのか試算してみましょう。令和7年3月分(4月分納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表に当てはめて計算します。
【ケース1:役員報酬月60万円】
- 年間健康保険料 = 58,469円 × 12か月 = 701,628円
- 年間厚生年金保険料 = 107,970円 × 12か月 = 1,295,640円
【ケース2:役員報酬月5万円、役員賞与660万円】
- 年間健康保険料:636,819円
└役員報酬部分 = 5,748円 × 12か月 = 68,976円
└役員賞与部分 = 573万円 × 9.91% = 567,843円
- 年間厚生年金保険料:467,748円
└役員報酬分 = 16,104円 × 12か月 = 193,248円
└役員賞与分 = 150万円 × 18.3% = 274,500円
比較してみると、健康保険料で64,809円、厚生年金保険料で827,892円を削減することができました。
ただし、このスキームを使うために急に役員報酬を引き下げると、年金事務所からお尋ねが入る可能性もあるため、変更する際には税理士などに相談して慎重に行うことをおすすめします。
また、厚生年金保険料を削減するということは、将来受け取ることができる厚生年金が減るということを忘れてはいけません。
役員賞与はいくらにするのがベスト?
役員賞与を設定する際には、「月額5万円・賞与500万円」のように、単純に役員報酬を役員賞与に置き換えてしまうと、現実問題として毎月の生活費が捻出できなくなってしまう可能性があります。
また、あまりに金額が大きすぎると損金にもできなくなってしまうため、まずは所得税や住民税と法人税の税額に与える影響、そして社会保険料の削減額などを総合的に加味して計算した上で、ベストな役員賞与額を導き出すことが重要です。
この点については、高度な判断が求められるので、できれば節税が得意な税理士に聞いてシミュレーションしてもらった方がよいでしょう。
役員賞与の会計処理
勘定科目は「役員賞与」を使用して仕訳をします。消費税は不課税です。
役員賞与が発生した期間の費用として処理をする必要があるため、たとえ支給日が翌期になったとしても、当期の職務に対する役員賞与は、原則として当期の費用として計上する必要があります。
損金として否認された場合
損金不算入になった場合、その分の法人税の負担が増えます。さらに、役員賞与を受け取った個人については、法人の損金不算入に関係なく、所得税や住民税が課税されてしまいます。
デメリットがとても大きいため、役員賞与を支給する場合は事前に税理士に相談することが望ましいでしょう。
不支給の場合
届出をしたがまったく支給しないという場合は、損金不算入になる金額もないため実務上は特に影響しません。
ただし、頻繁に全く支給しない役員が出てくると、利益調整のために支給の有無を判断していると受け取られて、税務調査で指摘される可能性が出てきます。
そのため、資金繰りなどの関係でやむを得ず不支給になる場合については、利益調整目的ではない証拠として、役員名で「賞与放棄通知書」を作成するか、株主総会で「不支給決議」をして議事録を作っておいたほうがよいでしょう。
また、これらを提出しないと、役員にとってもデメリットになります。これは、所得税基本通達28-10で、以下のように定められているからです。
給与等の支払を受けるべき者がその給与等の全部又は一部の受領を辞退した場合には、その支給期の到来前に辞退の意思を明示して辞退したものに限り、課税しないものとする。
どういうことかというと、支給が確定している給与については、受け取らなかったとしても課税されるということです。
役員は所得税や住民税を課税され、法人は源泉徴収税の追徴課税を受けるため注意してください。
届け出を出す前に支給してしまった場合
届け出を出す前に支給してしまった役員賞与については、事前確定届出給与には該当しないため、損金不算入となります。
ただし、同族会社ではない非常勤務役員に対して支給する役員賞与等については、株主による牽制により、役員賞与で利益調整される恐れが少ないという理由から、事前に届け出をしなくても損金算入が認められています。
おわりに
役員賞与を損金にする方法として、事前確定届出給与を中心に解説してきましたが、大企業の場合は、「業績連動給与」という支給方法を使うことでも損金算入が認められます。
節税対策として役員報酬や役員賞与を決める場合は、法人税のみならず、役員個人の所得税や住民税、さらには社会保険料についても考慮に入れて判断しなければならないため、できるだけ節税対策が得意な税理士に相談することがベストです。
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