前澤友作氏が館山市に20億円ふるさと納税、でも「懐を痛めていない」ってホント?
住民税

ZOZOの前社長、前澤友作氏が、台風被災地の千葉県館山市に20億円のふるさと納税をしたことが報じられ、話題になっている。
デイリースポーツによると、前澤氏は使い道として「観光振興に関する事業」を選択。返礼品については辞退しているという。
ネットでは、「なかなか、やるやん」「男前!」など評価の声の一方で、「ただの納税。自腹切ってない」「今年20億控除あるほど収入あったのか」といったツッコミの声もあがっている。
前澤氏は「自らの懐を痛めていない」ことになるのか。新井佑介税理士に聞いた。
●2400億円の株式売却益と仮定した場合、32億円まで控除できる
ふるさと納税は、寄附による税額控除の仕組みを使った制度です。今回、20億円を館山市へ寄附することによって、国に納める所得税と前澤氏の住んでいる自治体に納める個人住民税が、あわせて最大約20億円減額されます。
ただ、あくまで最大で20億円ということです。ふるさと納税の控除限度額の計算構造上、寄附者の所得に比例して限度額が変わるからです。令和元年は、前澤氏がヤフーに自身の保有する株式を売却しています。売却額は約2400億円ともいわれていますが、仮に2400億円が上場株式による売却益と仮定した場合、自己負担2000円で控除できる限度額は約32億円になります。
この仮定を前提とするのはいささか乱暴かもしれませんが、前澤氏にとって20億円という寄付額も控除限度内である可能性は十分ありえます。とすると、前澤氏は実質負担2千円で懐を傷めずに、まるで20億を自己負担で寄付したかの様な雰囲気を世間に与えたことになります。
ふるさと納税制度を熟知して自身の節税(今回は返戻品(返礼品)を辞退しているので限定的ですが)と館山市の災害復興支援の実現、そしてセルフプロデュースまで行うところは、さすが敏腕経営者だと思います。蛇足ですが、20億円のふるさと納税の返戻品はかなり高額でしょう。仮に受け取っていた場合、一時所得として返戻品に課税されることになります。
●ふるさと納税で、住んでいる自治体の税収はどうなる?
ここからは大切な話になります。
ふるさと納税は住んでいる自治体及び国へ支払う税金を、納税者が指定した自治体へ寄附によって転換する制度です。東京都などの自治体によってはふるさと納税制度によって減収となります。しかし減収分は地方交付税という国から地方自治体へ行われる支援金によって減収分の最大75%は補填される仕組みになっています。この地方交付税は国の税金です。
もし豪邸建設を予定している千葉市に前澤氏の住民票があった場合、今回のふるさと納税による千葉市の減収分は国からの地方交付税によって一部補填されるわけです。私たちの税金の一部で補填をするイメージです。
ちなみに東京都や川崎市は地方交付税を受け取っていないため、前澤氏が東京都や川崎市に住んでいた場合、減収分は国からの地方交付税によって補填されません。その場合、少し極端ですが、東京都民や川崎市民が館山市の災害復興支援をサポートした形ともいえます。
ふるさと納税制度では、住んでいる自治体の税収が減り、国からの補填金である地方交付税が増加します。結果として日本国民の税金がぐるぐるとまわっている制度である点が最大の特徴であると思います。
【取材協力税理士】
新井 佑介(あらい・ゆうすけ)税理士・公認会計士
AAG arai accounting group 代表。慶応義塾大学経済学部卒業後、BIG4系ファームを経て現職。MASコンサルティングや様々な融資案件に積極的に関与している。
事務所名 : AAG Arai Accounting Group / 経営革新等支援機関 新井綜合会計事務所
事務所URL:http://shozo-arai.tkcnf.com/pc/