波平が急死、遺言書「サザエに自宅を相続させたい」があったら相続税はどうなる?
相続税
日本経済の変化に伴って、番組スポンサーは変わっても、昭和の大家族のほっこりとした光景を伝え続けるアニメ「サザエさん」。
しかし、仮に一家の大黒柱ともいえる波平が亡くなった場合、サザエさんの一家はどうなってしまうのでしょうか。
これまでにも様々なメディアで、サザエさん一家の相続問題が扱われることがありましたが、今回、最新の制度に基づいた解説をお届けします。
●磯野家の家族構成、マスオはあくまで同居人
あらためて、磯野家の人間関係を確認しましょう。
磯野波平(夫・父):磯野家の大黒柱。自宅を所有
磯野フネ(妻・母):専業主婦の配偶者
磯野サザエ(長女):フグ田家に嫁ぎ、夫・マスオ、息子・タラオと同居中
磯野カツオ(長男):小学生
磯野ワカメ(次女):小学生
●遺言なしで波平が亡くなると、誰がいくら受け取れる?
では、遺言なしで波平が亡くなると、誰がいくら受け取れるのでしょうか。日本の民法では、故人が遺言を残していない場合、法定相続分に従って財産を分けることになります。波平が亡くなった場合の相続人は、妻のフネと、3人の子どもたち(サザエ・カツオ・ワカメ)の合計4人です。
法定相続分はこうなります。
フネ(配偶者)1/2
サザエ(長女)1/6
カツオ(長男)1/6
ワカメ(次女)1/6
ここで気になるのが、マスオとタラオです。マスオは波平の「婿養子」ではなく、フグ田家の姓を名乗っています。波平と養子縁組をしていないという前提に立つと、相続権はゼロ。タラオも、波平の孫ではありますが、サザエが存命のため、相続は発生しません。
●一家団欒の「あの家」をどうするか
磯野家の主な財産といえば、自宅があります。もし現金が少なく、不動産が財産のほとんどを占めている場合、「4人に分けろ」と言われても、家を物理的に切り分けることはできません。
・フネは「住み慣れた家に住み続けたい」
・サザエはマスオ・タラオとともにすでに同居中
・カツオ・ワカメは現金での取り分を求めるかもしれない
こうした「不動産をめぐるすれ違い」こそが、日本における相続トラブルのもっとも多いパターンです。
では、実際にどのような問題が起きる可能性があるのか。最新の制度を踏まえて、佐原三枝子税理士に聞きました。
●財産が「自宅のみ」の場合、相続税はかかる?
ーー磯野家の財産が「自宅のみ」に近い構成だった場合、相続税はかかりますか?
磯野家の皆さんが住んでいる物件は世田谷区の100坪くらいある物件だそうです。
サザエさんの原作者である長谷川町子さんが住んでいたのが世田谷区桜新町なので、そこだったと仮定して令和7年の路線価を調べてみると60万/㎡から70万/㎡くらいです。間を取って65万/㎡とすると土地だけで65万×330㎡(約100坪)=2億1,450万円になります。
家屋は古そうですが、評価額はある程度残る可能性がありますので200万円とすると、土地家屋だけで2億1,650万円になり、画面で見る庶民的な姿とはかけ離れた資産をお持ちだということになります。
相続税は基礎控除という課税されない金額が大きく、亡くなった方お一人当たり3,000万円と法定相続人お一人当たり600万円あるので、波平さんの場合だと3,000万円+600万円×4人(フネ、サザエ、カツオ、ワカメ)=5,400万円までの資産があっても相続税はかかりませんが、既に自宅だけでこの金額をはるかに超えていますから、波平さんは絶対に相続税が関係する人です。
相続税の申告と納付の期限は波平さんが亡くなった日から10か月です。
その間に、誰が相続するのかを決め、納税資金も準備しなければなりません。その後の法要や手続きを考えると、しばらくの間、フネさんたちは悲しみに暮れている暇はないかもしれません。
●自宅の土地の評価を軽減する特例がある
ーー波平が生前に「サザエに家を残したい」という遺言書を残していたとします。遺言書がある場合と、ない場合とで、税負担はどのくらい変わりますか?
波平さんが自宅しかもっていなかったとして相続税を単純に計算すると、税額は最大約2800万円となりますが、相続税の重圧で自宅を手放すなどという事態を避けるために、自宅の土地の評価を軽減する特例があります。
この特例は、亡くなった人と一緒に生活していた人がそのまま自宅を相続して住むのであれば使うことができます。
面積制限もありますが、100坪ならすべて適用されるので、磯野家の土地の評価額は元の価額の20%まで下がります。磯野家は全員同居で経済的にギスギスしていたようにも見受けられないので、相続人全員のだれが相続してもこの特例を使うことができると思います。
そうすれば、土地の評価は2億1,450万円から4300万円程度にまで下がります。
すると土地・家屋を合わせても4500万円ですから、なんと基礎控除額5400万円を下回り、相続税がかからないことになります。
●特別代理人の選任が必要となる可能性も
ーーでは、相続税がかからず、特に問題は起きないということでしょうか?
そうとも限りません。この特例を使うためには、期限内に分割協議を完了させて、相続税の申告を行うことが要件となりますので、税金がゼロだからと言ってほったらかしにしてはいけません。
この場合、私が気になるのが、カツオくんとワカメちゃんの年齢です。彼らは未成年ですから分割協議に参加することができません。親であるフネさんも彼らと同じ相続人なので利益がぶつかり合いになってしまうため代理人になれません。ですので、特別代理人を選任して彼らの代わりに協議に参加してもらう必要があります。特別代理人は今回の相続に関係しない親族、信頼できる知人や弁護士などの専門家に依頼することとなります。この場合は原則的に法定相続割合で分割されます。
ここで、「サザエに自宅をすべて相続させたい」という波平さんの遺言があれば、遺言が最優先されるので分割協議を必要としませんから、先ほどのような特別代理人の選任の問題は起きません。サザエさんが自宅を一人で相続しても、先ほどの特例を使えますから相続税はかからないことになり、この事例の場合では遺言の有無にかかわらず税負担は変わりません。
●カツオやワカメの遺留分まで考えることが大切
ーーカツオやワカメの立場から不満は出ないのでしょうか。
そうなんです。サザエさんにすべてを取得させた場合、フネさんは大丈夫そうな感じですが、カツオくんやワカメちゃんが成人したときに「僕らの相続分をお姉ちゃんが全部持っていった」と言ってくるかもしれません。これを遺留分侵害額請求といいます。
そうするとサザエさんは彼らの法定相続分の半分に相当する金額(2億1650万円×1/6×1/2=約1800万)ずつを2人に払わなければなりません。
遺言を書くときは、くれぐれもこの遺留分を考えてバランスよく相続分を決めることが大切です。
●もしサザエさん一家が別居していた場合は?
ところで、サザエさん一家が別のところに自宅を買って住んでいる、という本来のストーリーとは全く異なったシチュエーションを仮定してみます。
この場合に波平さんがこんな遺言を残すとこの特例が全く使えませんから、それこそサザエさんは2800万円という相続税を払わなくてはなりません。
ここに遺留分侵害額請求の可能性もあり、フネさんが住み続けるために雨漏りの修理も相続した自分が負担することになれば、波平さんの遺言はサザエさんにとってはただの負担にしかなりません。
最悪の場合、この負担から逃れるためサザエさんが実家を売却するということにもなりかねません。そうするとフネさんは住む家を失います。
どうしてもサザエさんに自宅を相続させたいが、フネさんが安心して住めるようにもしたいなら、遺言書に配偶者居住権を書き加えることで実現できます。
配偶者居住権は令和2年4月から施行された新しい権利で、配偶者に対して自宅を所有しなくても住む権利を保障します。この権利には相続税法上の評価額があり、その計算方法も決められています。登記上の所有者はサザエさんですが、相続税法では自宅の評価額をサザエさんとフネさんに分ける計算をします。配偶者居住権には先ほどの小規模宅地等の特例も適用されますし、配偶者居住権はフネさんの死亡とともに消滅しますから、相続税の節税対策として使うこともできそうです。
ただ、配偶者居住権が設定された物件に配偶者が住んでいる場合、適正価額で買い手が現れることは考えにくいので、サザエさんが実家を売却できそうにありません。
フネさんが施設に入所することになり配偶者居住権を必要としなくなればその権利を放棄することも可能ですが、その際は居住権の評価額相当をサザエさんに贈与したことになる可能性もあります。配偶者居住権の設定は先を見据えて慎重に行う必要がありそうです。
このように、遺言はお気持ちだけでなく、様々な要素を考えて書いていただきたいと思います。
【取材協力税理士】
佐原三枝子(さはらみえこ)税理士
Beautiful Business Beautiful Life 美学ある仕事で悩める方々の現状を打破し、関わる全ての人々の想いを実現することを理念に掲げ、税務、人事、DXを柱として税理士を超えた経営コンサルティングを提供している
事務所名 : 佐原税理士事務所
事務所URL:https://www.office-sahara1.jp/















