個人事業主が従業員を雇うときに注意すべき税務上のポイント

個人で始めた事業も、軌道に乗り始めれば従業員の雇用が必要になるかもしれません。事業拡大のためには人材確保は大変重要ですが、税務などの手続き面も見過ごすわけにはいきません。
そこで個人事業主が従業員を雇用した場合に気をつけるべき税務上のポイントを紹介します。
目次
個人事業主が雇用を開始するときに必要な手続き
個人事業主であっても正しい手続きを取れば従業員を雇用してもよい決まりになっています。まずはどういった手続きが必要になるかを確認しましょう。
税務署へ「給与支払事務所等の開設届出書」の提出
雇用主(給与支配主)が従業員を雇用して給与を支払うことになったら、その旨を所轄の税務署長に届け出なければなりません。その際に使う書類が「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」で、国税庁のWEBサイトからダウンロードできます。
提出期限は雇用してから1か月以内なので、書類に必要事項を記入のうえ、持参または送付にて提出してください。
また、従業員の人数が10人未満であれば、源泉徴収した所得税を年2回(1月と7月)にまとめて納付できる特例も受けられます。この時に使う書類が「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」で、こちらも国税庁のサイトから入手できます。提出期限に定めはありませんが、提出した日の翌日に支払う給与等から特例が適用されますから、なるべく早くに手続きを済ませておく方がいいでしょう。
労基へ「保険関係成立届」「概算保険料申告書」の提出
従業員を雇用することになれば労働保険(労災保険・雇用保険)の手続きも必要です。まず労働保険の「保険関係成立届」を雇用日から10日以内に所轄の労働基準監督署(労基)に提出しなければなりません。さらに雇用日から50日以内に「概算保険料申告書」を労基に提出し、所定の保険料を納めます。
また、雇用保険の事務所を設置した旨を所轄の公共職業安定所(ハローワーク)に提出しなければなりません。ここに提出する書類は「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」の2種類です。設置届は事務所設置日の翌日から10日以内に提出が必要で、資格取得届は雇用日の翌月10日までとなっています。
なお、ここで紹介した労働保険の手続きは「一元適用事業」に該当するサービス業のためのものです。農林水産業・建設事業者の場合は「二元適用事業」に当てはまるので、手続きが異なるので注意してください。
個人事業主が従業員の源泉徴収税額を算出・管理する
実際に従業員を雇用して給与を支払う場合、個人事業主は源泉徴収義務者として源泉所得税・復興特別所得税(以下「源泉所得税等」という。)を納めなければなりません。そこで源泉徴収税額の算出方法と管理方法を確認しておきましょう。
源泉徴収税額は「税額表」に従って算出する
雇用した従業員に対する源泉徴収税額は「税額表」を使って算出でき、これは「月額表」「日額表」「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」の3種類に分けられます。
月額表では「社会保険料控除後の給与金額(月額)」ごとに「源泉徴収税額(月額)」が決められています。そして、「源泉徴収税額(月額)」は、「給与所得者の扶養控除等申告書を個人事業主に提出している人に適用される「甲」欄と、提出していない人に適用される「乙」欄に分類されます。
「給与所得者の扶養控除等申告書」とは従業員が給与について配偶者控除や扶養控除などの控除を受けるために必要な書類のことです。最初の給与支給日の前日までに、個人事業主は従業員からこの書類を受け取っておかねばなりません。
そして、この書類に記載された「扶養親族等の数」を確認して、従業員の給与から所得税・復興特別所得税分を源泉徴収していきます。
源泉徴収税額は「源泉徴収簿」などで管理する
源泉徴収した所得税額等を正しく把握するには管理表などを作成しておくと便利です。たとえば、国税庁が勧めているものは「源泉徴収簿」の利用です。
この源泉徴収簿では従業員1人ごとに給与や社会保険料額、源泉徴収税額を算出して記入できるようになっています。源泉徴収簿の作成は法律上では義務付けられていませんが、月々の源泉徴収や年末調整に役立てられるので活用するといいでしょう。
個人事業主が源泉徴収した所得税等を納める
従業員に支払う給与から源泉所得税等は税務署に対して納めなければなりません。そこで月々の業務と年末調整に分けて確認しておきましょう。
源泉所得税を納める(毎月または半年)
毎月の源泉所得税等は「給与所得、退職所得等の所得税徴収高計算書(納付書)」を添えて、所轄の税務署または金融機関の窓口に提出します。
この納付書には納付金額を記載するほか、従業員数や給与総額なども載せます。必要項目に金額を記入し、計算することで「合計額」としてその月の納税額が明らかになります。
原則として源泉所得税等は翌月10日までに提出しなければなりません。「源泉所得税の納期の特例」を受けている個人事業主は半年に1回だけ提出すれば問題ありません。なお、いずれにおいても期日を超えるとペナルティが課される可能性があるので、意識して期日を守るようにしてください。
雇用している従業員に対して年末調整する(年末)
毎月の源泉所得税等の納め方は変わりませんが、年末だけは注意が必要です。なぜなら、従業員に対して年末調整を行わなければならないからです。具体的には以下の手順で確認します。
- 従業員に「扶養控除等(異動)申告書」「給与者の保険料控除申請書 兼 配偶者特別控除申告書」「住宅借入金等特別控除」などを提出してもらう
- 従業員の所得税額を確定して、それを反映した給与を支払う
- 納付書の「不足税額」または「超過税額」を記入して納付する
従業員1人ずつの所得税額を確定して、もし超過していればその分を上乗せして給与を支払います。また、不足していれば給与から不足分を差し引きます。そのうえで全体の過不足を確定して、税務署に源泉所得税を納付します。
おわりに
個人事業主の場合でも、従業員を雇用すれば源泉徴収等の手続きが必要になります。一人で管理するのは大変なことではありますが、忘れていたでは許されないことなので気をつけて取り組みましょう。もし本業に集中したいのであれば、税理士に依頼するのもいいかもしれません。
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