「祭祀財産」を活用した相続税対策とは?対象財産や注意点のまとめ

相続財産の中には、「非課税財産」という相続税がかからない財産があります。非課税財産には、「祭祀(さいし)財産」というものがあり、墓や仏壇、位牌などの仏具のことをいいます。
実は、この祭祀財産を活用することで相続税対策をすることができます。ただし、注意点がいくつかあるので、この記事で説明するポイントを抑えて正しい対策を行いましょう。
目次
「祭祀財産」とは
「祭祀財産」とは、祖先を祀るためのお墓や仏壇、位牌をはじめとした仏具など、以下のような財産のことをいいます。
系譜 | 先祖代々の血縁関係のつながりが書かれている記録文書、家系図など |
---|---|
祭具 | 位牌、仏像、仏壇など、祭祀や礼拝に使用する器具、道具 |
墳墓の所有権 | お墓(墓碑、墓石) |
祭祀財産は、ほかの相続財産とは完全に区別されていて、相続税の対象とならない「非課税財産」に区分されます。
「祭祀承継者」が受け継ぐ
通常は相続が発生すると、相続財産を分割して相続人がそれぞれ相続することになります。
しかし、祭祀財産を分割して相続することは現実的ではないため、祭祀財産は相続財産に含まれないことになっています。そのため、相続放棄をしても祭祀財産を承継することが可能です。
また、こうした理由から、祭祀財産は基本的に1人に受け継がれます。そして、この祭祀財産を受け継ぐ人を「祭祀承継者」と呼びます。
誰が祭祀承継者になるかは、たとえば長男が引き継ぐなど、その家や地方の慣習に従うのが一般的です。ただし、被相続人から指定があれば、その人が祭祀承継者になることもできます。
もし、被相続人が祭祀承継者を指定しておらず、相続人の間で誰が承継するかの同意が得られない場合には、家庭裁判所で調停を行い、最終的には審判で祭祀承継者を決定します。
また、家族からの同意書があれば、親族や友人が祭祀承継者になることもできます。
他にもある「非課税財産」
祭祀財産以外にも、相続税のかからない相続財産には、以下のようなものがあります。
生命保険の非課税枠
相続人が受け取った死亡保険金のうち「500万円 × 法定相続人の人数」までの金額。
退職金の非課税枠
死亡退職金、退職手当金のうち「500万円 × 法定相続人の人数」までの金額。
寄付した財産
相続税の申告期限までに、国、地方公共団体、特定の公益法人に対し、相続人により寄付された財産。
公益事業に使用される財産
宗教、慈善、学術、その他公益を目的とする事業を行う個人などが、相続で取得した財産で公益を目的とする事業に使われることが確実なもの。
幼稚園の事業に使用される財産
個人で経営している幼稚園の事業に使われていた財産で、相続人のいずれかが引き続きその幼稚園を経営するなど、一定の要件を満たした場合。
障害者の給付金
精神や身体に障害のある人、または扶養者が取得する心身障害者共済制度に基づき支給される給付金を受ける権利。
祭祀財産で相続税を節税する方法
前述したとおり、祭祀財産は相続財産の対象にならないため、相続税が非課税になります。
つまり、資産が相続税の基礎控除額を上回る場合は、生前にお墓を建てたり仏壇や仏具などを購入したりして相続財産を減らすことで、相続税を節税することができるのです。
なお、節税対策で祭祀財産を購入するときのポイントが大きく分けて3つあります。
相続発生前に支払いを終わらせておく
お墓や仏壇などをローンを組んで購入した場合は、生前に完済しておくようにしましょう。
相続発生時に、債務は相続財産から差し引く(控除する)ことができますが、祭祀財産は相続財産ではないため、残ったローンは控除の対象外です。
相続税対策として購入するなら、現金または一括払いなどにしておくことをおすすめします。
高価すぎる物は認められないこともある
純金の仏像や仏具など、あまりに高価すぎるものを購入した場合は、祭祀財産として認められないことがあります。
祭祀財産と判断する明確な基準はありませんが、換金性の高い金の仏具や、骨董品として価値のあるものは、税務署に相続税逃れと判断されて、相続税の対象となる可能性が高くなります。
信仰心の厚い人からすると、仏具などにお金をかけるのは当然のことかもしれません。ただし、自身の判断で購入してしまい、税務調査で課税財産とみなされると、延滞税や過少申告加算税などの追徴課税の対象となってしまいます。
祭祀財産と認められるかどうか、判断に迷った場合は税理士へ相談してみると良いでしょう。
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生前に購入する
祭祀財産は「生前」に購入しましょう。生前に購入することで、遺産総額を減らすことができる上に、祭祀財産として非課税で相続させることができます。
被相続人が亡くなったあとに購入した場合でも、祭祀財産として非課税にはなりますが、購入費用は控除の対象外のため、節税対策にはなりません。
祭祀財産を活用した具体的な節税額

さて、祭祀財産で相続税対策をした場合、相続税にどれだけの差が出るのでしょうか。具体例を挙げて、最終的な税額の違いを見てみましょう。
条件は、遺産総額1億円とし、相続人は子ども2人(基礎控除額4800万円)、法定相続分どおりに妻2分の1、子どもは4分の1ずつ遺産分割した場合を想定しています。
“生前”に300万円の墓、仏壇を購入した場合の相続税
・課税対象額
└遺産総額1億円 − 祭祀財産300万円 − 基礎控除額4800万円 = 4900万円
・相続税の総額
└妻:2450万円 × 税率15% − 控除額50万円 = 317万5000円
└子:1225万円 × 税率15% − 控除額50万円 = 133万7500円 × 2名
└妻 + 子 = 585万円
・実際の相続割合に応じて按分
└配偶者585万円 × 1/2 = 292万5000円(配偶者控除適用で0円)
└子ども585万円 × 1/4 = 146万2500円 × 2名
・納付額合計292万5000円
“相続発生後”に300万円の墓、仏壇を購入した場合の相続税
・課税対象額
└遺産総額1億円 − 基礎控除額4800万円 = 5200万円
・相続税の総額
└妻:2600万円 × 税率15% − 控除額50万円 = 340万円
└子:1300万円 × 税率15% − 控除額50万円 = 145万円 × 2名
・実際の相続割合に応じて按分
└配偶者630万円 × 1/2 = 315万円(配偶者控除適用で0円)
└子ども630万円 × 1/4 = 157万5000円 × 2名
・納付額合計315万円
この例の場合は、祭祀財産を生前に購入することで、約22万円の節税効果がありました。
葬儀を豪華にすると節税できる?
告別式やお通夜などの葬儀費用を支払った場合、その分は相続財産から控除することができます。
そのため、豪華な葬儀を行うと節税になるともいわれています。ただし、すべての葬儀費用が控除できるわけではないので、注意が必要です。
控除できる費用としては、「埋葬や火葬、納骨、会葬などにかかった費用」や「葬儀時に付与した金品に要した費用」などがあります。
控除できない費用には、「香典返しの費用」や「相続発生後の墓地・墓石・仏具などの購入費用」、「初七日や四十九日などの法要費用」、「生花・お供えにかかる費用」などがあります。これらは葬儀と直接関係ないものとなるため、葬儀費用に含めることができません。
おわりに
祭祀財産となるお墓や仏壇などは、神仏や先祖を祀るためのものであり、信仰的な目的から相続財産の対象外となります。
そのため、生前にお墓や仏壇を購入することで相続税対策に繋がります。ただし、高価すぎる仏具などは祭祀財産として認められないなど、個人で判断するのは難しい場合があります。
祭祀財産をはじめ、非課税財産を利用した相続税対策を検討している方は、相続税や贈与税に詳しい税理士へ相談してみてはいかがでしょうか。
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