豪華な葬儀をあげれば相続税の節税になる?控除対象となる葬儀費用のまとめ

相続税は、現預金や不動産などのプラスの財産から借金などのマイナスの財産を引いた額に対して課税されます。
実は、告別式やお通夜などの葬儀費用は、相続財産(遺産総額)から差し引くことができるため、豪華なお葬儀をすれば節税対策になるとも言われています。ただし、葬儀費用に含まれないものもあるので、ただ豪華にすれば良いわけではありません。
今回は、どんな費用が葬儀費用として認められるのか、お葬儀を豪華にすることによる節税効果がどのくらいあるのかについて解説いたします。
目次
遺産総額から控除できる債務
相続税を算出するにあたり、遺産総額から『被相続人が残した負債(債務)』を控除することができます。土地や不動産、現預金等の財産から借入金や未払いの医療費や税金などの債務を引いた額が『正味の遺産額』となります。ただし、相続人が原因となって生じた延滞税や利子税などは控除できない決まりになっています。
控除できる葬儀費用とできない葬儀費用
相続税法によって、遺産総額より葬儀費用を控除できる旨が決められています。ただし、葬儀費用によって控除できるものとできないものがあるので違いを見ていきます。
葬儀費用に含まれるもの
一般的に、葬儀は社会通念上当然として行われることだと考えられているため、それにかかった費用は遺産総額より控除できるとされています。
ただし、葬儀にかかった費用をすべて控除できるわけではなく、その範囲は相続税法基本通達13-4によって以下のとおりに決められています。
- 葬儀や埋葬時において、埋葬・火葬・納骨・会葬などにかかった費用
- 葬儀時において、付与した金品に要した費用
- 上記1.2に以外に生じた出費で、通常葬儀に伴うと認められる費用
- 死体の捜索や運搬などに要した費用
たとえば、『死亡診断書発行手数料、通夜・本葬のための費用(会場費や飲食費など)、読経料、御布施、戒名料、心付け、御車代、土葬・火葬費用、納骨費用、遺体運搬費用、死体捜索費用』などです。
なお、これらはあくまでも目安であり、実際のところは宗教や慣習なども考慮し、社会通念上妥当だと判断されるものを葬儀費用として扱うことになっています。
葬儀費用に含まれないもの
一方、葬儀に関連して支払ったお金であっても、税法上は葬儀費用として取り扱わないものもあります。こちらは相続税法基本通達13-5によって以下のとおりに決められています。
- 香典返しに使った費用
- 墓碑や墓地の購入費用、墓地の借入費用
- 法会に要する費用
- 医学上または裁判上の特別の処置に要した費用
たとえば、『香典返し、生花・お供えにかかる費用、墓地・墓石・仏具などの購入費用、墓石の彫刻料、初七日や四十九日などの法要費用、遺体解剖費用』などです。これらは『葬儀と直接関係ないもの』として扱われるため、葬儀費用に含めることができません。
葬儀費用を扱う際に注意すべきポイント

まず、葬儀費用を扱う上で気をつけるポイントが『領収書』です。
なぜなら、読経料や御布施、心付けなどは領収書が発行されない場合もあるからです。これらの支出を証明のためには、メモ用紙などに『支払日、相手名、支払金額、内容』を残しておきましょう。
また、通夜、本葬と一緒に、初七日を実施する場合も注意が必要です。通常であれば初七日のための費用は葬儀費用に含まれませんが、代金が区別されていない場合には、葬儀費用に含めても良いとされています。
そのほか、四十九日法要と一緒に、納骨を行う場合にも葬儀費用の扱いに注意しなければなりません。この場合、葬儀費用に含まれるものは納骨費用のみです。なお、石屋さんに納骨を依頼する場合は、領収書内に彫刻料が記載されていることもあるので、しっかりと費用の内訳についても確認する必要があります。
相続人によっては控除ができないことも
葬儀費用を控除できる人は、その費用を負担する相続人や包括受遺者だと決められています。ただし、こうした人でも制限納税義務者に当てはまる場合は、この制度を使うことができません 。
日本国内に住所がない『制限納税義務者』の場合
制限納税義務者とは簡単に言うと、『日本国内に住所がない人』のことを言います。この場合は控除できる費用の範囲が、未払い税金などの公租公課などに限られてしまいます。つまり、葬儀費用は控除できないということです。
ただし、相続人が日本国籍を持っていなくても、被相続人が日本国内に住所を持っている場合には『無制限納税義務者』に該当します。無制限納税義務者の場合には葬儀費用を控除できるので、海外在住の方は自分がどちらに当てはまるのかを確認しましょう。
特定の財産を遺贈された『特定受遺者』の場合
” 遺言によって特定の財産を遺贈された人 ”のことを『特定受遺者』といいます。特定受遺者の場合は無制限納税義務者かどうかを問わず、葬儀費用を控除できません。
また、遺言によって財産を遺贈された人の中には、『包括受遺者』という人もいます。こちらは” 遺言で一定の割合の財産を遺贈された人 ”のことで、この場合は葬儀費用を控除することができます。
つまり、どのように財産を相続したかが重要なポイントになるということです。
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相続放棄者の場合は葬儀費用を控除できる
中には『相続放棄』をした方もいるかと思います。相続放棄をした場合でも、実際に葬儀費用を負担しているのであれば制度を使うことができます。
なぜ相続放棄をした場合の債務控除について定められているかというと、相続放棄をした場合でも、遺贈により財産を取得する可能性があるからです。ただし、無制限納税義務者である場合に限られるので注意してください。
実際にどれくらいの節税になるのか
葬儀費用の増減によって、実際にどのくらい節税効果が見られるのでしょうか。節税効果を確認する前に、まずは相続税額の算出手順を簡単にまとめておきます。
- 正味の遺産額を算出する(遺産総額から債務などを差し引く)
- 課税遺産総額を算出する(正味の遺産額から基礎控除額を差し引く)
- 相続人ごとの相続税を計算する(課税遺産総額を法定相続分に分割して税率を課す)
この計算手順からわかるとおりで、葬儀費用は1つ目の『正味の遺産額』に影響を与えます。このことを踏まえたうえで、実際に葬儀費用の増減による節税効果を確認していきましょう。
具体的な節税効果について(遺産総額1億円、妻と子2人の場合)

具体的な節税効果を確認するために、葬儀費用に『100万円使う場合』と『1,000万円使う場合』に分けて考えてみます。
なお、条件は遺産総額を1億円とし、その他の負債は0円、相続人は妻と子供2人(基礎控除額4,800万円)を想定しています。その他の控除や配偶者控除(1億6000万円まで非課税)は考慮しないものとします。実際の税額は控除額や分割割合によって異なるため、参考としてご覧ください。
葬儀費用が100万円の場合の相続税額について
まず葬儀費用が100万円の場合について、相続税額の総額がいくらになるのかを確認してみます。
(1)9,900万円(正味の遺産総額)=1億円(遺産総額)-100万円(葬儀費用)
(2)5,100万円(課税遺産総額)=9,900万円(正味の遺産総額)-4,800万円(基礎控除額)
(3)332.5万円(妻の相続税額)=2,550万円(法定相続分)×15%(税率)-50万円(控除額)
(4)141.25万円(子供1人の相続税額)=1,275万円(法定相続分)×15%(税率)-50万円(控除額)
(5)615万円(総相続税額)=332.5万円(妻の相続税額)+141.25万円(子供1人の相続税額)×2
葬儀費用が100万円の場合、モデルケースでは相続税額の総額が『615万円』だと算出できました。
葬儀費用が1,000万円の場合の相続税額について
それでは葬儀費用が1,000万円の場合について、相続税額の総額がいくらになるのかを計算します。
(1)9,000万円(正味の遺産総額)=1億円(遺産総額)-1000万円(葬儀費用)
(2)4,200万円(課税遺産総額)=9,000万円(正味の遺産総額)-4,800万円(基礎控除額)
(3)265万円(妻の相続税額)=2,100万円(法定相続分)×15%(税率)-50万円(控除額)
(4)107.5万円(子供1人の相続税額)=1,050万円(法定相続分)×15%(税率)-50万円(控除額)
(5)480万円(総相続税額)=265万円(妻の相続税額)+107.5万円(子供1人の相続税額)×2
葬儀費用が1000万円の場合、モデルケースでは相続税額の総額が『480万円』だと算出できました。『615万円 - 480万円 = 135万円 」 したがって、このケースでは135万円の節税効果があったということです。
「税金を支払うよりも葬儀にお金をかけたい」人にはおすすめ
モデルケースによる比較から分かることは、まず葬儀費用を増やせば当然『相続税額の総額が少なくなる』ということです。ただし、葬儀費用を増やしたからといって、必ずしもそれに見合った節税効果が見られるわけではありません。
もちろん遺産総額の状況や被相続人との関係によっても変わってくることではありますが、過度に節税効果を期待するよりも「税金を支払うよりも葬儀にお金をかけたい」 という方におすすめの方法です。
葬儀ではなく、より効果的な相続税対策をしたいという方は、税理士に相談すると良いでしょう。税理士であれば、生前対策から相続税申告までを引き受けることが可能です。
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