空き家や更地を放置すると相続税が高くなる!「住まない土地」の相続税対策のまとめ

平成27年度税制改正での相続税の実質的な増税を機に、将来の相続に関心を持つ人が増えてきました。
中でも、身内が「空き家」や「更地」を所有している場合については、高額な相続税が課税される可能性もあるため、早めから必要な対策を講じていくことがとても重要です。
そこで、更地や空き家の「相続税が高額になる原因や相続することのリスク」と、それを「回避するための対策」について解説いたします。
目次
更地や空き家を放置するリスク
更地や空き家の土地評価では、「小規模宅地等の特例」などの減税制度がなく、評価額にそのまま課税されてしまうため、相続人の納税負担がとても重くなってしまいます。
また、相続税だけでなく固定資産税の負担も増えるため、更地や空き家のまま相続することは、税金面を中心に非常にリスクが大きいのです。
更地のリスク
相続した更地をただ放置しても、特に何の害もなさそうに感じるかもしれませんが、実際は税金の面で非常に大きな負担を負うことになります。
土地が更地であっても、所有しているだけで「固定資産税」は毎年課税されてしまいます。なんの利益も生み出さないのに出費だけがかさんでしまい、まさに“負の遺産”となってしまうのです。
さらに、固定資産税が大幅に軽減される「住宅用地の特例」が適用されないため、課税される税金自体も割高になってしまいます。
空き家のリスク
空き家についても更地と同じで、固定資産税が毎年しっかり課税されてしまいます。
以前は住宅用地の特例を適用することができましたが、現在では適用できなくなっています。
2015年に「空き家対策特別措置法」が施行され、放置の状態があまりにもひどい空き家については「特定空き家」に認定され、住宅用地の特例から除外されることとなりました。
これは、住宅用地の特例の仕組みを逆手にとって、固定資産税を節税する目的で誰も住んでいないにも関わらず、あえて空き家を取り壊さずに残しておく人が増えてしまったからです。
賃貸物件を建てて評価額を下げる
相続税を節税するためには、更地や空き家を「賃貸物件」に転用して評価額を引き下げることが非常に有効です。
以下より、具体的にどのくらいの相続税が節税できるのかをシミュレートしてみます。
更地や空き家の土地の評価方法
まず、何も対策をしなかった時の更地や空き家の土地については、路線価をもとに次のように計算します。
路線価 × 奥行補正率 × 面積
※路線価や奥行補正率は国税庁のホームページで確認できます。
仮に、路線価30万円、奥行18m、面積180㎥の普通住宅地区にある土地の場合、評価額は次のとおりです。
30万円 × 1.0 × 180㎥ = 5,400万円
こちらは原則的な評価額となり、以下のような条件の悪い土地に該当する場合については、一定割合を減額することが可能です。
- 間口が狭い土地
- 奥行が長すぎる土地
- 不整形地
- がけ地
実際にどのくらい下がるのか
では、更地や空き家で賃貸経営をした場合、評価額はどのように変わってくるのでしょうか。
※シミュレートでは、わかりやすくするためにこれらの条件に該当しない一般的な土地と仮定して計算します。
更地にアパートを建てて賃貸経営をした場合
更地にアパートを建てて他人に賃貸した土地のことを「貸家建付地」といい、評価額は以下のように計算します。
貸家建付地の評価額 = 更地の土地の評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
借地権割合:路線価図で確認できます。
借家権割合:家を借りる人が有する権利で30%として計算をします。
賃貸割合:物件の入居率のことです。全ての部屋を賃貸していれば100%となります。
計算式だけ見ると複雑な印象ですが、「自分の土地にアパートを建ててそれを他人に使わせている分、更地の評価額から減額する」ということです。
借地権割合70%、借家権割合30%、賃貸割合100%と仮定して計算すると、評価額は以下のようになります。
5,400万円 × (1 - 70% × 30% × 100%) = 4,266万円
このように、更地に賃貸物件を建てることで、約2割も評価額を減額することができます。
賃貸経営をした場合は、上記に加えて「小規模宅地等の特例」が適用できるため、さらに評価額を50%引き下げることができます。
小規模宅地等の特例とは、亡くなった方が賃貸経営などの事業として使っていた宅地について、一定の条件を満たすことで評価額を減額するという制度です。
更地や空き家で賃貸経営をしていた場合は「貸付事業用の宅地」に該当するため、200㎥を上限として評価額が50%になります。
よって、200㎥以内の土地だとした場合、4,266万円の50%である2,133万円にまで減額できるのです。
更地の評価額と比較すると、約6割も引き下げられることになります。
空き家で賃貸経営をした場合

賃貸経営をした場合、評価額が引き下げられるのは土地だけではありません。
建物についても他人に賃貸することで「貸家」という扱いになるため、空き家を賃貸として貸し出せば、次のように評価額を引き下げることが可能です。
貸家の評価額 = 建物の評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
建物の評価額は固定資産税評価額と同じで、固定資産税評価額は毎年6月頃に郵送されてくる納税通知書に記載されています。
仮に、空き家の評価額が3,000万円、借家権割合30%、賃貸割合100%だった場合における貸家の評価額は以下の通りです。
貸家の評価額 = 3,000万円 × (1 - 30% × 100%) = 2,100万円
このように空き家を他人に賃貸して「貸家」にすることで、約3割も評価額を下げることができるのです。
賃貸物件を建てるかの判断は慎重に
更地や空き家を賃貸経営することで、土地や建物の評価額は大幅に引き下げられることがおわかりいただけたかと思います。
また、更地にアパートを建てた場合の建物部分の評価額についても、実際の建築費ではなく、貸家としての評価額に抑えることができます。つまりキャッシュで相続するよりも、キャッシュを使ってアパートを建てた方が相続税を大幅に節税できるということです。
このように、節税対策としてとても有効な賃貸経営ですが、必ずしも賃貸経営することがベストとは限りません。
更地にアパートを建てれば、“建物部分の固定資産税も新たに課税”されますし、“受け取った家賃には所得税が課税”されます。
また、賃貸経営にはそれなりの管理運営費がかかるため、安易な判断でアパートを建てると、かえってマイナスになる可能性もあるのです。
特に次のようなケースについては、賃貸経営ではなく、別の対策を検討したほうがよいでしょう。
賃貸需要が乏しいエリアの場合
賃貸経営によって節税できたとしても、賃貸経営そのものがうまくいかなければ、結局のところ負の遺産になってしまいます。
そのため、賃貸経営に乗り出す前にまずは、その土地における賃貸需要がどの程度あるのかについて、近隣の不動産会社とも相談して検証してみることをおすすめします。
特に、都心から離れている郊外についてはアパートを建てたとしても、入居者が決まらず空室率が高くなったり、思ったような家賃がとれなかったりするなど、賃貸経営そのものが厳しくなる可能性がありますので、十分注意しましょう。
評価額が土地よりも建物の方が高くなる場合
東京都など土地の価格が高い都心部については、建物よりも土地の評価額の方が高くなるため、賃貸経営によって土地の評価額を下げることに大きなメリットがあります。
ところが、地方や郊外になると、土地と建物の評価額が逆転することもあるようです。そうなると、土地よりも評価額が高くなる建物をわざわざ建ててまで、節税する必要性はほとんどありません。
このような場合については、そもそも相続税が基礎控除の範囲におさまる可能性もあり得るため、税理士などに相談して一度相続税を試算してみるとよいでしょう。
おわりに
更地や空き家については、生前に賃貸として運用することで、相続税や固定資産税を大幅に節税することが可能です。
ただし、賃貸経営をはじめるからには「節税」そのものを目的とするのではなく、あくまで「賃貸経営」自体が問題なく運営できることを前提として考える必要があります。
更地や空き家で賃貸経営を検討する際には、相続税や固定資産税などの税制面と、賃貸経営に内在するリスクを比較検討したうえで、よりメリットの多い方を選択するようにしましょう。
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