非常勤医師の個人事業化と研究・講演活動に関する税務相談
現在は非常勤医師として時給制・社会保険加入・有給ありで勤務しています。これを個人事業主として病院と業務委託契約に変更し、病院から事業収入を受ける形にした場合、税務上、事業所得として認められる可能性がありますか?
その個人事業で、現在行っている研究・講演・セミナーなどもまとめた場合、研究費を必要経費にできますか?
そして最後に、現在の雇用契約のまま特定支出控除を使う場合と、個人事業に変更する場合で、税金・社会保険まで含めてどちらがどうなるか試算して頂きたいです。
税理士の回答
鈴木貴之
① 非常勤医師の収入を事業所得にできるか
現在と同じ病院で勤務形態を変えず、契約書上だけ雇用契約から業務委託契約に変更しても、事業所得として認められることは難しいと考えます。所得区分は、契約書の名称ではなく、実際の働き方に基づいて判断されるためです。
主な判断要素を非常勤医師に当てはめると、次のようになります。
・勤務の代替性
非常勤医師本人の勤務が前提となっており、本人の判断で他の医師を代わりに勤務させることができない場合は、本人自身の労務提供に対して報酬が支払われていると判断されやすくなります。
・勤務時間と報酬の計算方法
病院から「毎週何曜日の何時から何時まで」などと勤務時間を指定され、診療件数や診療内容にかかわらず時給・日給で一定額が支払われる場合は、独立した業務の成果ではなく、勤務時間中の労務提供に対する給与と判断されやすくなります。
・病院からの指揮監督
病院側から診療場所、勤務時間、担当する外来・病棟、診療対象などを指定され、院長や診療科長等の管理下で勤務する場合は、病院の指揮監督を受けていると判断されやすくなります。
・報酬を得られないリスク
患者数が少ない場合や予定していた診療がキャンセルになった場合でも、勤務時間に応じた報酬が支払われるのであれば、医師自身は収入減少のリスクを負っていないことになります。一方、症例数や業務の完了状況に応じて報酬が決まり、診療がなければ報酬を受け取れない場合は、事業所得としての要素が強くなります。
・施設や設備等の負担
病院の診察室、医療機器、電子カルテ、医薬品、消耗品等を使用し、看護師や事務職員の補助を受けている場合は、医師自身が設備投資や維持費を負担していないため、病院の組織内で労務を提供していると判断されやすくなります。
以上から、現在の勤務実態のまま契約書だけを業務委託契約に変更しても、給与所得として扱われる可能性が高いと考えます。
また、重要な点として、税務調査で給与と認定された場合、病院側が源泉所得税の徴収漏れを指摘される可能性もあるため、契約変更を打診する際は、病院側の顧問税理士の判断も仰ぐ必要があります。
② 必要経費の考え方
給与所得となる場合、研究費等を必要経費として差し引くことはできません。ただし、講演料や原稿料等の収入があり、その収入との関連性を示すことができれば、必要経費として計上できる可能性があります。
③ 特定支出控除との比較
特定支出控除の対象は、支出合計額のうち「給与所得控除額の2分の1」を超える部分に限られ、勤務先の証明も必要です。研究費という名目だけでは対象にならず、研修費、資格取得費、職務に関連する図書費等に該当する必要があるため、手続きの負担に対して節税効果が小さい可能性があります。
また、個人事業主になると社会保険料の病院負担がなくなるため、実際の手取りは現在の収入水準を基に試算する必要があります。
ただし、本件は手取りの比較というより、業務委託への変更に伴うリスクを病院側と調整できるかが重要であると考えます。
詳しく教えて頂きありがとうございます。
①について、
病院側の社保・有給を維持する必要はないとした場合、独立した業務委託として成立させるために、勤務時間・報酬体系・指揮命令・代替性などをどう変更する必要がありますか?
現在の勤務実態から、どの条件をどこまで変えれば事業所得として認められる可能性があるのか、具体的な契約・勤務形態の例を教えて頂きたいです。
加えてもうひとつ、研究目的で170万円程のCTスキャナーを個人で購入しています。現在は研究・講演等の活動に使用していますが、必要経費として計上できるでしょうか。また、一括で経費にするのではなく減価償却になる場合、どのような扱いになるのでしょうか。質問が重なり申し訳ありませんが、よろしくお願致します。
鈴木貴之
追加のご質問ありがとうございます。
通常の外来診療では、病院から診療枠(コマ)を割り当てられ、指定された時間に診療業務を行い、その勤務時間に応じて報酬が支払われるため、給与所得としての性質が強くなります。
仮に業務委託として成立させる場合には、
①先生本人に代わって別の医師が診療できること
②勤務時間ではなく実際の患者対応ごとに報酬を請求し、患者が来なければ報酬も発生しないこと
③薬品・医療材料・医療機器の使用料等を医師側が負担すること
などが考えられます。
しかし、通常の外来診療において、このような勤務形態へ変更することは現実的には難しいと思われます。
そのため、最終的には、税務調査で給与と認定された場合の源泉所得税や社会保険料の遡及負担など、想定されるリスクを病院側と共有したうえで、病院が契約変更に応じるかどうかという交渉になると考えます。
次に、CTスキャナーについてですが、研究・講演等による事業所得または雑所得があり、その収入を得るために使用していることを説明できれば、必要経費にできるかと考えます。
研究計画、講演資料、使用記録、関連収入、領収書等を保存し、収入を得るために必要な機器であることを説明できるようにしていただければと存じます。
なお、取得価額が約170万円であるため、購入年に全額を経費にすることはできず、原則として固定資産に計上して減価償却します。医療用CTスキャナーに該当する場合、一般的な法定耐用年数は6年です。
定額法で事業使用割合が100%であれば、年間の減価償却費は概算で170万円×0.167=28万3,900円となり、使用を開始した年は月割りで計算します。
中古で購入されている場合は、中古資産の耐用年数によって償却期間を短縮できる場合があります。また、機種や用途によって資産区分が異なる可能性もあるため、製造年、購入日、機種、使用開始日等を確認する必要があります。
本投稿は、2026年09月28日 09時20分公開時点の情報です。 投稿内容については、ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。






