スーパーL資金とは?農業経営基盤強化資金で農業経営を改善

農業をしていく上で、作物の生産や機械の維持などに資金は必要なものです。加えて、経営の見直しに伴い新しいことに挑戦する際には多くの資金が必要となります。そのような経営改善を図る意欲的な農業者の助けとなるものが「スーパーL資金」です。
この記事ではスーパーL資金の金利や条件、およびその流れをわかりやすく解説します。
目次
スーパーL資金とは
スーパーL資金とは、経営を改善しようとする農業者を資金面で応援するための制度です。日本政策金融公庫の融資のひとつであり、正式名称を「農業経営基盤強化資金」といいます。
本制度のメリットとしては以下の3点があげられます。
- 融資額が大きい
- 返済期間が長い
- 融資対象となる範囲が広い
そのため、大規模な投資に向いている融資制度と言えます。
スーパーL資金の目的は、各地域が抱える“人と農地の問題解決”です。
今日の日本では、農業者の高齢化や耕作放棄地の増加といった諸問題が生じ、地域農業の展望が描けない地域も多数存在するようになりました。そのような地域の支えとなるのがこの制度です。
受給可能な対象者
受給可能な対象者は認定農業者のみとなります。ただし個人の場合、簿記記帳を行っていること、または今後簿記記帳を行うことが追加の条件となります。
認定農業者について
認定農業者とは、農業経営基盤強化促進法に規定されている「農業経営改善計画」について、市町村から認定を受けた農業者をいいます。認定農業者は税制や融資制度などにおいて優遇される、というメリットがあります。
なお、農業経営改善計画の認定基準は以下のとおりです。
- 市町村基本構想に照らして適切か
- 農用地の効率的かつ総合的な利用を図るために適切か
- 計画の達成される見込みは確実か
融資対象の使途
スーパーL資金の融資対象となる用途は以下の通りです。幅広い用途に対応していることがわかります。
| 区分 | 用途 |
|---|---|
| 農地等 | 取得、改良、造成 |
| 施設・機械 | 農産物の処理加工施設、店舗などの流通販売施設 |
| 果樹・家畜等 | 購入費、新植・改植費用、育成費 |
| その他の経営費 | 規模拡大や設備投資などに伴って必要となる原材料費、 人件費など |
| 経営の安定化 | 負債の整理(制度資金は除く)など |
| 法人への出資金 | 個人が法人に参加するために必要な出資金等の支払い |
融資条件
融資条件は以下の通りです。融資限度額が個人では3億円、法人では10億円と大きいものになっていますが、返済のことも考慮しながら利用するようにしましょう。
| 返済期間 | 25年以内 ※利息のみの支払いのみとなる据置期間は10年以内 |
|---|---|
| 融資限度額 | 【個人】3億円(特認:6億円) 【法人】10億円(特認:20億円[設備資金の場合:30億円]) ※特認とは、通常の基準に加え、都道府県知事が定めた基準を満たした認定農業者を指します ※このうち、経営の安定化のための資金の借入限度額は個人6,000万円(特認1億2,000万円)、法人2億円(特認4億円)です |
利子について
基本的な利率は0.16%〜0.20%(年)となり、一例として、借入期間5年で0.16%、15年で0.18%、20年で0.20%となっています。
実質無利子になる特例
スーパーL資金では、「人・農地プラン枠」と「TPP等対策特別枠」という実質無利子になる特例が2つ設けられています。
人・農地プラン枠
「人・農地プラン」とは、農林水産省が提案する経営改善の手法のひとつです。認定農家は個人で農業経営改善計画書を作成することが一般的ですが、人・農地プランでは、集落・地域において話し合い、地域農業における問題解決が自身の経営改善に繋げられるような計画を推奨しています。
スーパーL資金では、この人・農地プランの中心経営体となる農業者を対象に、農林水産長期金融協会の利子助成により、借入れから最初の5年間、金利が実質無利子となる特例を設けているのです。
ただし、日本政策金融公庫のその他の補助制度における借入残高分や、負債整理などの経営の安定化のための資金は対象外です。
TPP等対策特別枠
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)および日EU経済連携協定(日EU・EPA)に伴い、規模拡大や農産物輸出などの攻めの経営展開に取り組む農業者が現れてきました。こうした農業者の支援を目的に、実質無利子の特例が適用される「TPP等対策特別枠」が設けられています。
TPP等対策特別枠の対象者は、上記で説明した「人・農地プラン」の中心経営体となる認定農業者等のうち、新たに攻めの「経営展開計画」を策定した人です。
優遇措置の内容は「人・農地プラン枠」と同様で、農林水産長期金融協会の利子助成をにより借入れから最初の5年間、金利が実質無利子となります。
ただし、負債整理などの経営の安定化のための資金は対象外です。
担保・保証人について
基本的には相談の上決定されますが、条件を満たすことで担保や保証人がなくとも融資を受けられる優遇制度も設けられています。
無担保・無保証人制度
無担保・無保証人での借入れには「クイック融資制度」と「円滑化貸付制度」の2つの制度があります。
クイック融資制度
融資額が500万円以下のときに限り、申し込みから最速1週間で融資の可否が判断される制度です。
決算書をもとに、日本政策金融公庫が独自の診断方法で経営を審査し、無担保・無保証人での融資が可能かどうかを判断します。
【対象者】
経営実績が一定の水準以上である事業者
【対象となる事業】
スーパーL資金の対象となる事業
※ただし、負債整理などの経営の安定化のための資金は対象外です
【利用限度額】
1回あたりの融資額が500万円以下
円滑化貸付制度
経営が良好かつ、2018年3月31日までに認定を受けた農業者に限り、無担保・無保証人で融資を受けられる制度です。特徴としてスーパーL資金による融資の残高がある場合でも、限度額の範囲内で繰り返し利用することが可能です。
【対象者】
農業経営改善計画の目標水準に達していること
過去5年間において制度資金の延滞がないこと など
【対象となる事業】
スーパーL資金の対象となる事業
※ただし、負債整理などの経営の安定化のための資金は対象外です
【利用限度額】
個人:2,000万円
法人:4,000万円〜1億円
スーパーL資金の手続きの流れ
大まかな流れは以下の通りです。
一般的な場合
- 申込み窓口となる農協や金融機関にて相談し、書類を提出
最寄りの申し込み窓口にまずは相談しましょう。申し込み窓口に提出する書類は「経営改善資金計画書」「借入申込希望書」「最近3カ年の決算書類」の3点です。 - 計画の認定後、借入申込書の提出
提出した「経営改善資金計画」は推進会議で審議されます。計画が認定されたら次に「借入申込書」を提出しましょう。必要書類の提出から融資実行の可否が決まるまでおよそ30日程度かかります。 - 融資実行手続き・担保設定手続き
融資実行が決定されたら、以下の書類を用意し提出します。
・借用証書
・印鑑証明書
・利子助成金代理受領委任状等
また、担保の設定には「抵当権設定証書」「登記簿謄本」が必要です。
以上を提出した後、融資が実行されます。
クイック融資制度の場合
基本的な流れは一般的な場合と同じですが、大きく違う点が3点あります。
1点目は審議が行われる機関が市町村による推進会議ではなく、融資機関が審議を行うことです。
2点目は経営改善資金計画が認定されるまでの期間です。クイック融資制度では最速1週間で認定されます。
そして、3点目は担保設定手続きが不要なことです。そのため「抵当権設定証書」「登記簿謄本」といった書類を用意する必要がありません。
おわりに
スーパーL資金は幅広い用途で大きい額の融資を受けられ、農業者の経営改善の助けとなるものです。
一方で、日本政策金融公庫はほかにも多くの融資制度を用意しています。自身の事業を考慮し、適切な制度を利用することを心がけましょう。
また、融資の際に必要な「経営改善計画書」などの書類を揃えるにあたっては、税理士などの専門家と相談しながら作成することをおすすめします。
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