決算対策ですべきこと〜黒字のときの節税方法や赤字での利益確保について〜

中小企業の場合、「数字のことは税理士任せ」というケースも少なくありません。しかし、正しい決算対策を講じていなかったために、必要な資金調達を行えなかったり、多額の納税が発生してしまったという状況に陥ってしまっては、経営そのものに悪影響を及ぼします。
適切な決算対策をすることで、節税や利益確保をスムーズに行うことができるでしょう。そのためには「決算にならないと利益がわからない」という事態は避け、事前準備を行うことが不可欠です。そこでこの記事では、知っておくべき「決算対策」についてまとめました。
目次
決算対策とは
決算対策とは、決算を迎える前に当期の利益や納税額を試算し、節税や利益確保のための対策を講じることをいいます。
決算対策を行うことで、資金繰りの改善や健全な経営計画の策定にもつながります。
たとえば決算で赤字になる場合には、取引金融機関などの利害関係者に対する決算報告に苦慮したり、資金繰りがひっ迫することもあるでしょう。
一方で決算で黒字になり、節税対策が行えず納税額が思った以上に多くなった結果、納税資金を準備しておらず、キャッシュの確保に困窮するといったケースも発生します。
このように、準備をせずに決算を迎えることは望ましくありません。長期的な視点で会社の経営にとってどのような決算がよいのかを考え、しかるべき対策を行うことが重要なのです。
決算対策を行う時期
決算対策では、事前に利益予測を行い、納税額をシミュレーションし、それをもとに節税対策や利益対策を行うため、時間に余裕を持って実施する必要があります。
決算の直前になってさまざまな対策を検討しても、時間的に実現不可能である場合も少なくありません。
決算対策は早くはじめるほど効果的ですが、具体的には決算期末の3か月程度前から進めていくことが好ましいと考えられます。
決算対策ですべきこと
決算対策を行う上では、まずは現状把握として、このまま決算を迎えた場合の自社の「利益状況」や、それに基づく「納税額」を試算することが第一歩となります。
適切な対策を講じるために、まずは自社が置かれている状況を確認することからはじめましょう。
期末の利益予測
利益予測は、期首から現時点までの利益の「実績」に、期末までの「予測」を加えて、年間の利益見込額を試算します。ここでいう「予測」とは、当期首から現時点までの予算と実績の差異分析や、前年同時期の「月次損益計算書」を参考として行います。
これらをもとに、当期末までの売上を予測します。修繕費や設備投資などの突発的な経費があれば、それらも加味します。
このような流れを経て、より精度の高い利益予測を行いましょう。
納税額の予測
利益予測を試算したら、それに基づいて納税額のシミュレーションを行います。法人税に関しては、その会社の所得金額に対し、下表の税率を乗ずることによって算出されます。
区分 | 税率 | |
---|---|---|
資本金1億円以下の法人(中小法人など) | 所得が年800万円以下の部分 | 15% |
所得が年800万円超の部分 | 23.2% | |
上記以外の普通法人 | 23.2% |
また法人税以外にも、法人住民税や法人事業税、特別法人事業税が課されますが、これらは、会社の所在地などの条件によって税率が異なります。詳しくは以下の記事や国税庁のホームページなどを参考にしてください。
なお、基準期間の課税売上高が1000万円を超える場合は消費税の課税事業者となり、たとえ赤字決算であっても消費税の納税が発生する場合があります。
基準期間とは法人の場合、前々事業年度のことをいいます。つまり、前々事業年度の課税売上高が1000万円を超える場合は、今年度の収益に関係なく、消費税を納めることになる可能性があるのです。
また、2023年10月1日からの「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」開始に伴い、インボイス発行事業者となった場合は、消費税の課税事業者となります。そのため、課税売上高に関わらず消費税の納税が必要です。
黒字の場合の決算対策【節税】
利益予測の結果、黒字決算となることが想定される場合には、法人税等の納税が発生する可能性が高くなります。
納税資金の確保に不安が残る場合には、会社の財政を健全化するためにも、節税対策を行いましょう。
代表的な節税対策としては、以下のような方法が挙げられます。
- 少額減価償却資産の特例
- 短期前払費用(年払い)
- 決算賞与の未払計上
- 不良在庫や不要な固定資産の処分
- 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)への加入 など
節税対策の詳細については、以下の記事で詳しく解説しています。
赤字の場合の決算対策【利益の確保】
利益予測の結果、赤字決算となることが見込まれる場合には、利益確保のための対策を検討する必要があります。
特に金融機関からの資金調達を行うのであれば、一般的に直前期の決算が赤字の場合よりも、黒字決算の方が融資を受けやすくなるため、対策を行うことは重要です。
ここでは次の5つについて解説します。
1)経費の圧縮
黒字化のための対策としては、経費の圧縮が有効です。経費の圧縮方法としては「経費の計上を翌期に回す」という方法が一般的で、中でも代表的な2つの手法があります。
1つめは「30万円未満の少額減価償却資産を資産計上する」という方法です。
青色申告を行う中小企業者等の場合、取得価額が30万円未満の資産については、「少額減価償却資産の特例」により、購入し使用を開始した事業年度に全額を損金処理することができます。
つまり、この特例をあえて適用せずに、固定資産として計上し、減価償却によって費用化すれば、当期において経費計上する金額を減額することが可能です。
もう1つは、「家賃やリース料などの前払分を資産計上する」方法です。
家賃やリース契約では、翌月分を当月末までに支払う契約が一般的です。一定の要件を満たす前払費用は、支払時点で損金算入が認められており、会計上は「短期前払費用の特例」といいます。
この特例を使わずに、期末に支払った翌期分の賃料は前払費用として資産計上することで、経費計上を翌期へ先延ばしすることができます。
またこれらの方法以外にも、賃料自体の値下げ交渉や、接待交際費、会議費、旅費交通費などの抑制、広告費等の内製化などによって、経費削減を図ることも効果的です。
黒字化対策の観点だけではなく、そもそも経営上の改善点として取り組みたい内容として考えられるでしょう。
2)経理基準の見直し
黒字化対策としては、経理基準を見直す方法も挙げられます。ただし、紹介する方法は利益調整として認められているものではなく、基本的に複数年に渡って「継続適用」されることが前提となります。
まず1つめの方法は、「売上計上基準の見直し」です。
帳簿上、売上として計上するタイミングを早めることができれば、当期の売上が増加し、利益確保に繋がります。
たとえば、納品先の検収確認が完了したタイミングで売上計上を行う「検収基準」を採用していた場合、これを自社から出荷したタイミングで売上計上を行う「出荷基準」に変更することによって、売上計上のタイミングを早めることが可能となります。
出荷基準へ変更することで、期末に出荷し、翌期に検収が完了した場合でも、当期の売上として処理することができます。
次に、「未払経費や引当金の計上の見合わせ」も有効です。
決算までに役務提供を受けたものについては、支払いが翌期であっても、当期において経費の未払計上を行うことが原則的な処理となります。
ただし、電話代などのように未払計上する金額が少額で、利益に与える影響が大きくない場合には、当期では未払計上を行わず、翌期に支払った際に経費計上することもできます。
また、修繕引当金や賞与引当金など、会社で任意に計上している引当金がある場合、決算時にこれら引当金の追加計上を見送ったり、引当金を取り崩したりすることによって利益確保を図ることができます。
このほか「役員報酬の減額」も、黒字化には効果的です。
原則、役員報酬の改定は事業年度開始日から3か月以内とされているため、それ以降に金額を増減させた場合は損金不算入となります。ただし、役員の地位や職務自体の変更に伴う改定、経営状況が著しく悪化した場合の減額改定は認められています。
単なる一時的な資金繰りや業績の悪化という理由による減額改定は、税務上は認められませんので、期中での改定を行う際には、くれぐれも慎重に行うようにしてください。
3)含み益のある資産の売却
企業会計原則において、売上をはじめとする収益の計上は、実際に代金等の収受によって収益が実現した時点で行う「実現主義」によるものと定められています。先述した「出荷基準」や「検収基準」は、実現主義に基づく売上の計上基準となります。
そのため、自社が保有する長期保有目的の有価証券や固定資産は、たとえ含み益があったとしても、実際に売却するまでは収益が「実現」せず、黒字化対策として活用できません。
したがって含み益のあるこれらの資産を売却することによって、収益が「実現」され、利益確保に繋げることができるのです。
4)役員借入金の債務免除や資本組み入れ
同族会社の場合には、役員が会社に貸し付けた役員借入金勘定が計上されているケースが少なくありません。その場合、役員が債権放棄をすることで会社は債務の返済を免除されることとなるため、役員借入金を「債務免除益」として収益へ振り替えることができます。
また黒字化対策という観点からは外れますが、役員借入金などの負債を純資産へ組み替えることによって、債務超過の状況を改善することができ、金融機関の格付けを向上させることも可能です。
5)販売管理費の特別損失への振替
決算書における「利益」は、次の5つの階層に分類されます。
- 売上総利益(粗利益)…売上高から売上原価を差し引いたもの
- 営業利益…売上総利益から販売費および一般管理費を差し引いたもの
- 経常利益…営業利益から営業外費用を差し引き、営業外収益を足したもの
- 税引前当期純利益…経常利益から特別損益を差し引き、特別収益を足したもの
- 当期純利益…税引前当期純利益から法人税等を差し引いたもの
最終的な当期純利益だけでなく、金融機関等にとっては、会社の本業での利益を示す「営業利益」や、毎期の経常的な収益力を表す「経常利益」は重要な指標となります。
これらの「営業利益」や「経常利益」を改善するためには、経費を販管費や営業外費用ではなく、本業以外で臨時的に発生した「特別損失」として計上する方法が効果的です。
臨時的な損失を「特別損失」として処理すれば、黒字化とは直接関係ありませんが、「営業利益」や「経常利益」の改善へつなげることができます。
決算対策は税理士に依頼
決算対策には、黒字の場合の節税対策と、赤字の場合の利益の確保の2つの方向性があるため、あらかじめ利益や納税の予測を行うことが不可欠です。
経営者が中心となって自社内で利益や納税を試算し、それに応じて効果的な決算対策までを行うことは簡単なことではありません。
適切な利益予測や納税予測を行えていたとしても、それに伴う決算対策が不適切であれば、会社の資金繰りが悪化したり、経営そのものが傾いてしまったりするケースも珍しくないでしょう。
その点、専門知識を持つ税理士に依頼すれば、自社の業績をしっかりと把握し、状況に合わせた効果的な決算対策が期待できます。また、短期的な対策のみならず、自社の将来像を共有することにより、経営計画実現に向けた取り組みや、支援策なども積極的に提案してもらえることでしょう。
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