相続税が減額になる「相次相続控除」の適用要件と計算方法

近年の相続税法改正の影響で、いままで多くの人には無関係であった相続税が、身近なものになってきています。
いざ、相続が発生したときに慌てないために、事前の準備はとても重要です。そこで、相続税の負担軽減につながる制度として「相次相続控除」を取り上げます。
目次
「相次相続」とは?
まず、「相続」は誰かが亡くなった際に、その人の保有していた財産を、特定の誰かが引き継ぐことをいいます。
この相続が相次いで起こること、具体的には10年以内に連続して相続が起こることを「相次相続(そうじそうぞく)」 といいます。
たとえば、祖父が亡くなり、遺産分割や相続税の申告といった諸々の手続きを経て、財産を父親が引き継いだとします。そして、その父親が相続の2年後に亡くなってしまったという状況が相次相続に該当します。
「数次相続」や「二次相続」との違いは?
同じように、相続が連続して起こる状況で使用される言葉として、「数次相続(すうじそうぞく)」や「二次相続(にじそうぞく)」といったものがありますが、これらは、それぞれ使用される状況が異なります。
まず数次相続とは、誰かが亡くなり、遺産分割等の相続手続きが開始されたものの、それが完了する前に、相続人が死亡してしまい、次の相続手続きが開始されてしまうことをいいます。要するに、財産の分け方が決まっていないまま、次の相続が発生してしまう状態です。この点、相次相続は最初に亡くなった方の遺産分割や相続税の申告・納付続きは完了しているところが大きく異なります。
また、二次相続という言葉に関しては、特定の状況を指すというよりも、相続が連続して起こる場合について、最初の相続を一次相続、次に発生するものを二次相続といった具合に、相続に順番を付けて表現する際に使用される言葉となります。
たとえば、節税対策を考える際に、両親のどちらかが亡くなり、その子供と配偶者が財産を相続する場合を一次相続とし、その後残された配偶者が亡くなった際の相続を二次相続と表現したりします。同様に、相次相続を説明する場合においても、最初に起こった相続を一次相続、次に起こった相続を二次相続と表現したりします。
相次相続が発生したときの控除制度
相次相続が起こった場合において、一定の要件を満たせば相続税を減額することができる控除制度があります。
相次相続は、一次相続で相続税を払ってすぐ、二次相続でまた同じ財産に相続税がかかってくるため、相続税の負担がかなり高額となってしまいます。そのため、「相次相続控除」という制度を設け、相続税の負担が過度に重くならないようにしているのです。
具体的には、相続が10年以内に相次いで起こった場合において、相続税の負担が重くなりすぎないように、前回の相続税額のうち一定の金額を控除するという内容になります。
相次相続控除の計算方法
では、相次相続控除を利用すると、どのくらい税金を減らすことができるのでしょうか。
先述のとおり、制度の趣旨は相続が相次いで起こった場合において、相続税の負担が過度なものにならないようにする制度です。
したがって、控除できる金額も一次相続の際の相続税額がベースとなります。そこから、一年につき10%の割合で減額した後の金額を、二次相続にて相次相続控除として相続税額から控除することができます。
各相続人の相次相続控除額 = A × C/{B − A(求めた割合が100/100を超えるときは、100 / 100とする)} × D/C × (10 − E) 10
A:今回の被相続人が前の相続の際に課せられた相続税額
この相続税額は、相続時精算課税分の贈与税額控除後の金額をいい、その被相続人が納税猶予の適用を受けていた場合の免除された相続税額並びに延滞税、利子税及び加算税の額は含まれません。
B:被相続人が前の相続の時に取得した純資産価額
(取得財産の価額 + 相続時精算課税適用財産の価額−債務及び葬式費用の金額)
C:今回の相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得したすべての人の純資産価額の合計額
D:今回のその相続人の純資産価額
E:前の相続から今回の相続までの期間(1年未満の期間は切り捨てます。)
具体的な計算例「祖父と父が続けてなくなった場合」
計算式だけではイメージがわきづらいため、控除額の計算方法を具体例に基づいて見ていきましょう。
【設定:祖父と父が続けてなくなった場合】
(1)今回、父親が亡くなったため、その財産を相続した。
(2)4年6ヶ月前には祖父が亡くなっており、父親は1,000万円の相続税を納めている。
(3)父親が祖父から相続した純資産価額(相続財産から債務等を引いた後の額)は1億5,000万円。
(4)今回、父親から相続する全体の純資産価額は1億8,000万円で、そのうち自分が相続する純資産価額は9,000万円で、相続税額は950万円。
※「純資産価額」とは、相続した財産から債務・葬式費用を控除した額のこと。
計算は4つの手順に分けられます。
1つ目は控除額のベースとなる、前回の相続税額です。<1,000万円>
2つ目は、前回相続時に受け継いだ財産のうち、どれぐらいが今回の相続財産として残っているのか、という割合です。なお、こちらの割合が100/100を超えているときは100/ 100として計算します。今回のほうが、財産額が多ければ、そのまま残っていると考えられるためです。<1億8,000万円 ÷ (1億5,000万円 − 1,000万円)>
3つ目は、相続財産全体において、自分が相続する財産の割合です。<9,000万円/1億8,000万円>
4つ目は経過年数に応じた減額割合です。<(10年 − 4年) ÷ 10年>
この4つを、それぞれ乗じた式をまとめると以下のようになります。
<1,000万円> × <1億8,000万円 ÷ (1億5,000万円 − 1,000万円)※1> × <9,000万円/1億8,000万円> × <(10年 − 4年※2) ÷ 10年 = 300万円
※1 カッコ内の計算が100/100を超えるので、この場合は100/100として計算します。
※2 経過年数は、4年6ヶ月ですが、この場合は、1年未満を切り捨て4年で計算します。
この計算の結果、今回の相次相続控除の金額は300万円となります。
「相次相続控除」を受けられる人の条件
相次相続控除を適用するためには、以下のすべての要件を満たす必要があります。
(1)被相続人の相続人であること
この制度の適用対象者は、相続人に限定されていますので、相続の放棄をした人及び相続権を失った人がたとえ遺贈により財産を取得しても、この制度は適用されません。
(2)その相続の開始前10年以内に開始した相続により被相続人が財産を取得していること
(3)その相続の開始前10年以内に開始した相続により取得した財産について、被相続人に対し相続税が課税されたこと
わかりやすく説明するために、一次相続で亡くなった方をAさん、二次相続で亡くなった方をBさんとすると、以下のようになります。
- Bさんの相続人であること
- 一次相続から二次相続の間が10年以内であり、一次相続の際にBさんが財産を取得していること
- 一次相続の際に、Bさんが取得した財産について相続税を課されていること
これらのうち一つでも要件を満たさない場合には、本制度を利用することはできません。
相次相続控除で必要な添付書類
相次相続控除を適用する場合は、相続税申告書に「第7表(相次相続控除の計算書)」を作成・添付して提出する必要があります。
また、実務上は前回(一次相続)の相続税申告書のコピーを添付書類として合わせて提出することで、相次相続控除の計算根拠となる事実を示します。
おわりに
相続税の申告については、財産評価が絡んでくることや、相次相続控除のように専門知識が必要な制度があるため、基本的には税理士に相談するのがおすすめです。
また、納税額に直接関わるため、相談の際には「相続税に強い税理士」を選ぶことが重要です。
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