相続時精算課税選択届出後の贈与税の申告の失念について
15年前に、親から1000万円の贈与を受け、翌年の確定申告時に、相続時精算課税選択届出書を提出し、贈与税の申告をしました。
その後、10年前に、300万円の贈与を受けましたが、贈与税の申告を失念し、今日に至ってしまいました。
既に除斥期間が過ぎており、贈与税の期限後申告はできないので、親の死亡による相続発生時に、親の財産に含めて相続税申告をしようと考えています。なお、前記の2件以外の贈与はありません。
相続税の申告書は自分で作成、提出しようと考えています。つきましては、この300万円は、申告書のどの表の、どの欄に、どのように記載したらよいか、ご指導をお願いいたします。
また、この考え方自体に誤りがあるようでしたら、ご指導をお願いいたします。
税理士の回答
良波嘉男
結論
その考え方(相続発生時にまとめて相続税で処理)は危険です。
相続時精算課税を選択している以上、10年前の300万円も「贈与税の申告対象」で、原則は今からでも期限後申告して是正すべきです。
「除斥期間が過ぎているので申告できない」は誤解になりやすいです。実務上、未申告の贈与税は、税務署が把握すれば課税関係が生じ得ますし、納税者側も是正申告(期限後申告)で整えるのが通常です。
相続税申告では、その300万円は「相続時精算課税に係る贈与財産」として加算します(相続税の課税価格に加算)。ただし、贈与税申告を放置したまま相続税だけに入れるのは、調査・追徴リスクを残します。
理由
相続時精算課税は、選択後の贈与が原則すべて対象になり、贈与の都度、贈与税申告が必要です。
相続発生時には、精算課税の贈与財産を相続税の課税価格に加算して精算しますが、これは「贈与税申告義務が消える」ことを意味しません。
放置すると、相続発生時に税務署が資料で把握しやすく、結果として 贈与税の無申告加算税・延滞税等を含めた指摘につながりやすいです。
実務対応
1) まずやるべきこと
10年前の300万円について、相続時精算課税として「期限後申告」を行うのが第一です。
当時の贈与契約書、振込記録、通帳、受贈者・贈与者の状況を揃える
申告書は当時年分で作ります(様式は年分により異なる)
税額は、精算課税の枠内で0円となる可能性が高いですが、申告義務の履行が本体です
※「もう10年経っているから申告できない」は、相続税の3年/7年加算と混同しているケースが多いです。ここは切り分けが必要です。
2) 相続が発生したときの相続税申告での書き方(ご質問への回答)
相続税申告では、その300万円は 「相続時精算課税適用財産」として必ず加算します。
一般的な記載場所は次のイメージです(申告書の年版で表番号が微妙に違うことがありますが、考え方は同じです)。
「相続時精算課税に係る贈与財産の価額」を記載する欄
贈与者(親)の氏名
受贈者(相談者様)の氏名
贈与年月日
贈与財産の内容(現金)
価額(300万円)
そして、その合計を「相続税の課税価格に加算する贈与財産」の欄へ合算して、課税価格を計算します。
重要なのは精算課税の贈与は「贈与時の価額」で加算するのが原則です(現金ならそのまま)。
注意点
「相続税で足せば済む」として贈与税の未申告を放置すると、相続税の調査でほぼ確実に論点化します。
相続税申告を自力で作る場合、精算課税の加算欄の記載ミス(贈与日、贈与者の取り違い、合算漏れ)が多いです。。
ご回答では、たとえ10年前の贈与でも、当時の帳票を使い期限後申告すべきとのことです。
ところで、相続時精算課税制度において、2年目以降に期限後申告をした場合、特別控除額は使うことはできずに、贈与額に対して一律20%の贈与税(加えて、無申告加算税と延滞税)が課されると理解しております。
贈与税の除斥期間は最大7年ですので、10年前の贈与について期限後申告をしても、課税権限が消失しているため受付てもらえないのではないのでしょうか。
この質問は、同様の案件について、「贈与税の除斥期間が経過しているため精算課税贈与の期限後申告は今からしても受け付けてもらえません。ただし、10年前の贈与は相続財産に加算する必要があります。」との、税理士法人のネット記事を見つけ、では、相続税申告はどのようにしたらよいのかという疑問が生じたため、させていただいたものです。
良波嘉男
結論
相談者様のご理解はかなり核心を突いているのではないかと思います。ただし、実務上は次の整理がよろしいかと思います。
相続時精算課税の「2,500万円特別控除」は、原則として期限内申告が前提で、2年目以降に期限後申告だと使えず、原則20%課税というルール自体はそのとおりです。
しかし、10年前=贈与税の除斥期間(原則6年/不正等で7年)を超えているなら、税務署は原則として贈与税の決定(課税処分)をできません。
だからといって 「今から期限後申告を出すべき」と機械的に動くのは危険です。提出すると、自己申告により“20%課税を自分で確定させる”形になり得るため、出す前に所轄税務署(資産課税部門)に“受理・取扱い”を事前確認してください(ここはケース処理がブレます)。
そして相続が発生したら、贈与税の申告漏れがあっても その300万円は相続税の計算上「精算課税贈与」として加算が必要、という点はネット記事の指摘どおりです(精算課税は“相続時に全期間加算”が基本)。
理由
期限後申告だと特別控除が使えないのは国税庁の質疑応答・タックスアンサーでも明確です。
一方で、除斥期間が経過すると税務署長の更正・決定(課税処分)ができないのも制度として整理されています。
したがって「今から申告すると20%課税になる」論点と、「そもそも課税処分できない」論点が衝突するため、“何も考えず期限後申告”が最適解とは限りません。
では相続税申告ではどこに書くか
申告書様式は年度で微妙に動きますが、考え方は固定です。
1) 明細に載せる
相続税申告書の「相続時精算課税に係る贈与財産の明細書」(一般に第11表系の位置づけ)に、
贈与者(親)
受贈者(相談者様)
贈与年月日(10年前の年月日)
財産の種類(現金)
価額(300万円:贈与時の価額=現金ならそのまま)
既に精算課税選択済みである旨
を記載します。
2) 課税価格に加算する
相続税申告書の「課税価格の計算」(第1表)で、上記300万円を 「相続時精算課税適用財産」として加算します。
3) 贈与税額控除はどうする?
その300万円について 贈与税を納付していないなら、相続税の「贈与税額控除」は原則ゼロです(控除できるのは実際に納付した贈与税が基本)。
ご提案
10年前の300万円について、振込記録・通帳・贈与の経緯メモだけでも集めておく(相続税申告での説明力が上がります)。
期限後申告を“提出する前に”、所轄税務署に「除斥期間経過後の精算課税贈与の期限後申告の取り扱い(受理可否・納付要否)」を確認。
※ここを飛ばして提出すると、相談者様に不利な形で話が進むリスクがあります。
ご丁寧かつ詳細なご回答、また、ご提案までいただき、ありがとうございました。
本投稿は、2025年12月17日 18時00分公開時点の情報です。 投稿内容については、ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。







