【税理士が語る!】「欠損金の繰戻しによる還付の請求」時に忘れてはいけない、法人住民税の「繰越控除」

平成21年度の税制改正により、欠損金の繰戻しによる法人税の還付を受けることが可能になりました。この手続を「欠損金の繰戻しによる還付の請求」と言います。
ところで、この欠損金の繰戻しによる法人税の還付請求をした翌年度には1つ注意点があり、知らずにいることで税金を払いすぎて損をしてしまいます。この記事を読んで、参考にしてください。
目次
「欠損金の繰戻しによる還付の請求」時の落とし穴
法人税において、欠損金が生じた場合には、「欠損金の繰戻しによる還付の請求」が可能です。この制度は、黒字から一転して赤字になってしまった会社への救済措置で、「平成28年3月31日までの各事業年度において前年度が黒字であった場合に、欠損金が生じた事業年度(欠損事業年度)の法人税申告時に還付金額を請求できるもの」です。
一般的にいうと、この法人税の繰戻し還付は、国税である法人税のみに適用され、法人住民税や法人事業税は還付されません。しかし、実は「控除対象還付法人税額」として法人住民税に限り、欠損金が生じた翌年度以降に「繰越控除」を受けることが出来ます。
なお、法人事業税には「控除対象還付法人税額」の制度はありません。法人事業税の計算では、当該繰越欠損金を翌年度以降に引き継ぐことになります。したがって、法人税の繰越欠損金と法人事業税の繰越欠損金の金額が、繰戻還付請求をした欠損金額分だけ異なる点に注意が必要です。
法人住民税の「繰越控除」とは
国税である法人税とは違い、地方税である法人住民税と法人事業税には前年度に支払った税金が返ってくる「繰戻し還付」の制度がありません。その代わり、法人住民税には翌年度以降に支払う税金が減少する「繰越控除」という減税措置があります。今回のケースでも「繰越控除」を受けることが可能です。
控除額の計算方法
法人住民税の「繰越控除」を例にして、控除額がどのぐらいになるかをご説明します。
法人住民税には法人税額を課税標準とする法人税割の部分があります。この法人税割の税率は、各都道府県・市町村によって異なりますが、東京都(23区内)を例とすると17.3%(資本金1億円以下、かつ法人税1千万円以下の場合)となっています。
法人住民税(都民税)は、『法人税額×17.3%』となりますが、前年度分の「繰戻し還付」を受けた場合にはその還付金額が翌年度分の法人税額から控除されるため、法人住民税も少なくなるという制度です。この控除額を「控除対象還付法人税額」といいます。
具体的な金額をもとに例を見てみましょう。
過去3年間の状況を以下の通りとします。
- 1年目:黒字決算なので法人税の法人税額は600万円
- 2年目:赤字決算なので法人税の還付請求額は200万円
- 3年目:黒字決算なので法人税の法人税額は400万円
3年目に支払う法人都民税を普段の通り計算すると、以下の通りとなります。
法人都民税69万2,000円 = 法人税額400万円 × 法人税割17.3%
しかし、このケースだと2年目に200万円の法人税の還付を受けているため、課税標準となる法人税額から控除対象還付法人税額として差し引かれ、以下の通りとなります。
法人都民税34万6,000円 = ( 法人税額400万円 - 還付請求額200万円 ) × 法人税割17.3%
税金が控除を受ける前の半分になりました。このように、前年度分の「繰戻し還付」は翌年度以降の法人住民税に大きく影響を与えます。
控除を受けるための手続き
法人住民税の「繰越控除」を受ける場合は、法人税の「繰戻し還付」を受けた翌年度の申告時に、申告書のほかに以下の書類を添付して提出してください。
- 「控除対象還付法人税額又は控除対象個別帰属還付税額の控除明細書」(第六号様式別表二の三)
- 「欠損金の繰戻しによる還付請求書」(写し)
「欠損金の繰戻しによる還付請求書」は前年度における法人税の繰戻し還付請求で使用した書類であり、添付の義務はありません。ただし、繰越金の事務処理の際に必要となりますのでできるだけ添付をするようにしましょう。
おわりに
企業にとって非常に役立つ制度ではありますが、こういった制度は見落としてしまったり、あるいは税制改正で内容に変更が生じてしまうこともあります。地方自治体のホームページをチェックしたり、税理士に相談をしてみたりと、こまめに情報をチェックしておくことをおすすめします。