会社の資産運用を一定の形式に沿って個人に任せれば会社に課税されるようにできますか?
少し前に株式会社を設立しました。私はその会社の唯一の取締役で、代表取締役・100%株主 (資本金1千万円) です。
資本金のうち8割以上の使途が未定のため、その一部を金融資産運用に充てたいと思います。
これまでも数年間、私も家族も、個人で金融取引をしてきました。しかし今回は、「税務上は会社名義で」、ただし「取引をする証券会社の口座は私 (又は家族) 個人の名義で」、運用をしたく思います。
まず、なぜ「税務上は会社名義で」運用したいかと申しますと、ご案内のとおり、個人で運用した場合、個々の金融取引で損益が生じた時、損が生じた取引については税控除は無い一方で、利益が生じた取引には課税されるという、非常に不利な状態となるのですが、会社名義であれば、損益通算で課税され、非常に有利だからです。また、誰の名義で運用するにせよ、その資金そのものの持ち主や、損益が帰する先や、取引をしている者は、名義上はどうあれ、実態的には会社であるという事も、主張したいところです。
しかし一方で「取引をする証券会社の口座は私 (又は家族) 個人の名義で」運用したいかと申しますと、単に、設立したばかりの会社が証券会社に口座を持つのはほぼ不可能だからでです。それしか選択肢がない、という事です。
そこで、会社が私又は私の家族のいずれかに資産運用を委託 (「信託」?) する形で、いったん現預金を私 (又は家族) に移し、さらにその資産を私 (又は家族) が自分個人名義の証券会社の口座に移して取引し、委託 (「信託」?) 期間終了後は、損益を算入した金額を、逆向きに会社に戻す形式を取ってはどうかと思いました。そうすれば、私 (又は家族) 自身に対する課税状況は無関係のまま、会社に対してだけ課税される (従って損益通算される)、という状況が作り出せるのではないかと思いました。
つきましては質問ですが、前段のような目的及び方法で、「事実上 (税務上) 会社が金融資産運用をする」ことは、法令上 (特に税法上) 問題ないでしょうか?
なお、上記にある「家族」は、いずれも会社とは関係がありません (従業員でもありません)。
どうかよろしくお願い申し上げます。
税理士の回答
東京都中央区の小林税理士事務所 小林拓未と申します。
個人名義で金融取引を行い、損益を法人につけるということですが、税法には、実質所得者課税、という考え方があり、「資産から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判定」することになります。
ここで、資産の真実の権利者が法人であることが明らかであればよいのですが、
「それが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定する」ともされており、よくわからない場合は、名義で決めることになっています。
名義は違うけれど、明らかに法人の資産である、という決定的な証拠のようなものがあれば、認められるかもしれませんが、認められる可能性はあまり高くないように思われます。
まずは、法人名義で口座を開設できるかどうか、あらゆる証券会社にあたった上で、再度ご検討されるとよろしいかと存じます。
以上よろしくお願いいたします。
小林拓未先生
詳細なご回答を頂戴し、大変有難う存じます。
図々しいようで恐縮ですが、もう一歩踏み込んでおたずねしてもよろしいでしょうか。
まずは、法人名義で口座を開設できるかどうか、あらゆる証券会社にあたった上で、再度ご検討されるとよろしいかと存じます。
真偽はわからないのですが、金融機関に勤める友人によりますと、「いったん信用情報機関に照会履歴が残ってしまうと、相当な期間、その他の与信において不利になる」の旨言われました。一応そうであると仮定し、会社名義の証券口座申込は、1社のみにしておこうと思います。そうしますと、確率的には、会社名義の口座を持てるとは考えにくいと思われます。
そこで、先生の下記のご助言:
名義は違うけれど、明らかに法人の資産である、という決定的な証拠のようなものがあれば、認められるかもしれませんが、認められる可能性はあまり高くないように思われます。
に基づき、あらゆる手段を用いて、「明らかに法人の資産である、という決定的な証拠」を積み重ねておき、それでも税務当局に認められなければ修正申告 (?) する、という選択肢を選ぶ事になろうかと存じます。
そこで、下記の証拠を残そうかと思っております。
つきましては、「○○は無意味」、「△△を行うのが良い」など、簡単にで結構ですので、今一度だけご助言を頂戴できれば幸いに存じます。
1) 【基本契約を交わす】: 会社と私個人との間で、金融資産運用業務の委任、請負又は信託の基本契約書を交わす。なお、運用損益にかかわらず私個人に報酬やペナルティーは発生しないものとする。
2) 【資金移動のたびに個別の契約書ほか証憑書類を交わす】: 「会社→私個人」の資金移動の時には金額が明記された契約書を交わし、逆に「私個人→会社」の場合は会社が領収証を発行する。さらに、会社←→私個人、いずれの場合も、2者間の資金の移動がわかる銀行/証券会社発行の取引明細を各1通保存する)。
3) 【個々の運用取引の明細を保存する】: 私個人が (2) の契約にある運用を行う時は、個々の金融商品取引の、証券会社発行の明細を保存しておき、会社への返戻時には、明細を全て提出し、会社はそれを保存する。
大変恐縮ながら、よろしくお取り計らいのほどお願い申し上げます。
ご連絡ありがとうございます。
1)基本契約、は、一つの証拠になりえると存じます。作成をお願いいたします。
2)資金移動のたびにも、契約書や領収書類は、作成された方が証拠能力が高まります。
3)証券会社発行の明細は、必要です。
何とか、会社口座の開設がうまくいくようお祈りいたしますが、万一、開設できなかった場合でも、取引名義は個人で、損益は法人の取り込むということですので、会社の口座開設がうまくいかなかった証拠も必要と思われます。
以上、よろしくお願いいたします。
小林拓未先生
会社の口座開設がうまくいかなかった証拠も必要と思われます。
大変有益なご助言、ありがとうございます。
お世話になりまして恐縮です。ぜひまたよろしくお願い申し上げます。
本投稿は、2016年11月11日 18時05分公開時点の情報です。 投稿内容については、ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。