子会社株式の売却について
当社中小企業(資本金1億円未満・売上100億円程度)です。
数年前に救済目的で同業他社(資本金1億円未満、売上約10億円で現在は完全子会社)の株式100%を取得しました。
その子会社の企業再建も終わり、黒字も継続的に見込めるようになりましたので
創業家2代目である、その子会社の社長(若しくはその法人)に売却したいと
考えております。
「社長個人に株式100%売却」「会社に持株会を作るなど」くらいしか思いつきませんが、何か適切なスキームがあればご教示頂きたく存じます。
よろしくお願いします。
税理士の回答
子会社の企業再建、ならびに継続的な黒字化の達成、誠におめでとうございます。
売上10億円規模で黒字が継続しているとなると、株式の評価額(企業価値)も相応の金額になっていることが予想されます。
そのため、社長個人の手元資金のみで100%買い取ることが資金的に難しいケースが多くなります。
ご検討されている「個人での買取」「持株会」に加え、実務でよく用いられるMBO(マネジメント・バイアウト)等のスキームをいくつかご紹介させて頂きます。
<SPC(特別目的会社)を活用したLBOスキーム>
中堅・中小企業のMBOで最も一般的な手法です。
子会社社長個人の資金負担を抑えつつ、親会社(貴社)は一括で売却代金を回収できます。
●手順
1、子会社社長が出資して、受け皿となる「SPC(特別目的会社)」を設立する。
2、SPCが金融機関から買収資金を借り入れる。
*子会社の将来キャッシュフローや資産を担保とするLBOローン
3、SPCが親会社(貴社)から子会社株式を100%買い取る。
4、SPCと子会社を合併させる(借入金を子会社に付け替える)。
●メリット
社長個人の資金力が不足していても実行可能。貴社は早期にキャッシュを回収できる。
●留意点
独立後の子会社が多額の有利子負債を抱えるため、確実な返済計画(キャッシュフロー)が必要。
<子会社による自己株式取得スキーム(一部直接売却との組み合わせ)>
親会社(貴社)と子会社の間に完全支配関係がある場合の税制上のメリット(受取配当等の益金不算入)を活かしたスキームです。
●手順
1、貴社が保有する子会社株式の一部(例: 数%〜数十%)を、子会社社長個人に譲渡する。
2、子会社が、貴社の保有する残りの株式をすべて自己株式として取得する(子会社の現預金を使用)。
3、結果として、市場に残る発行済株式は社長個人が保有するもののみとなり、社長の100%所有となる。
●メリット
子会社に内部留保(現預金)が潤沢にある場合に有効。
親会社(貴社)側では、自己株式譲渡に伴う「みなし配当」が発生しますが、完全子会社からの配当であるため全額益金不算入となり、税務上の負担を抑えながら資金回収できる可能性が高いです。
●留意点
子会社から多額の資金が流出するため、事業運営に必要な運転資金や財務制限条項への抵触に注意が必要。剰余金の分配可能額の範囲内でしか実行できません。
<役員・従業員持株会の活用>
ご検討されている持株会を組み合わせる手法です。
●手順
社長個人の資金+金融機関からの借入+持株会(役員・従業員からの出資)を組み合わせて株式を買い取る。
●メリット
従業員のモチベーション向上や、離職防止寄与する。
●留意点>
株式が分散するため、将来的な意思決定リスク(特に特別決議に必要な2/3をどう確保するか)への配慮が必要です。議決権制限付株式(種類株式)を持株会に割り当てるなどのスキーム設計が推奨されます。
<今後の進め方のポイント>
まずはベースとなる「子会社の株式価値算定(バリュエーション)」を実施し、譲渡総額の目線感をすり合わせることが第一歩かと存じます。
その金額と、子会社社長の用意できる自己資金、子会社の現預金・借入余力を照らし合わせることで、上記のどのスキーム(あるいは組み合わせ)が現実的かが見えてくるかと存じます。
回答は以上となります。
ご参考になりましたら幸いです。
税理士 能登路哲也 様
早速のご回答ありがとうございます。
色々とご提案頂き、大変参考になります。
LBOスキームについて
当社A社、子会社B社、SPCをS社
AとB社合併後の会社をC社とします。
初見ではBが借入してAから株式を全て
買い取ることと結果的には同じではないか、
と思いましたがそうすると100%自己株式と
なるのでSPCを経由する、という理解で
良いでしょうか?
その場合、Bの株式を100%保有している
S社がB社と合併するとC社となり、
C社の株式全てを子会社2代目社長が
保有することになるのでしょうか?
ちなみに、子会社2代目社長に資金的余力は
ありませんが、譲渡金額は時価か相続税評価額
どちらで決めるべきでしょうか?
追加のご質問について、以下それぞれ回答させて頂きます。
1、SPCを経由する理由(100%自己株式の回避)について
ご見解の通りです。
仮に、SPC(S社)を作らずに子会社(B社)が自ら借入を行い、親会社(A社)から株式をすべて買い取った場合、B社は「100%自己株式」の状態になります。
しかし、会社法上、株主が一人も存在しない状態になってしまうため、すべての発行済株式を自己株式として取得することは実務上できません
*前回回答のスキーム2のように、社長個人が先に一部を買い取るなどの手順を挟む必要があります)。
したがって、社長個人が株主としての地位を確保しつつ買収資金を調達するための「受け皿(SPC)」を経由する必要がございます。
2、合併後のC社の株主について
はい、お見込みの通りです。
社長個人が資本金を出してS社(SPC)を設立するため、S社の株主は社長100%となります。
その後、S社とB社が合併してC社となった場合、存続会社の株式は消滅会社の株主に交付されるため、最終的に「2代目社長がC社の株式を100%保有する」状態が完成します。
(なお実務上は、B社の事業許認可、銀行口座、取引先との契約関係をそのまま維持するため、新設のS社を消滅会社、従来のB社を存続会社として合併させるケースが一般的です。この場合も結果は同じです。)
3、譲渡金額の基準(時価か、相続税評価額か)について
結論から申し上げますと、純粋な「相続税評価額」ではなく「税務上の時価(法人税・所得税基本通達に基づく時価)」で決定する必要がございます。
今回の取引は、「法人(A社)」から「個人(社長)または法人(S社)」への株式譲渡となります。
税務上、法人間の取引や、法人から役員個人への取引において、時価より著しく低い金額(一般的に時価より低く算出される相続税評価額など)で譲渡すると、以下の税務リスクが発生します。
●A社(売手)側リスク: 時価との差額を相手に贈与したとみなされ、「寄附金(または役員給与)」として認定されます。寄附金は損金算入限度額が厳しいため、結果的にA社に多額の法人税負担が生じる可能性がございます。
●社長またはS社(買手)側リスク: 時価との差額分を「得した」とみなされ、社長個人に対する「役員賞与(所得税)」や、S社に対する「受贈益(法人税)」として課税されてしまいます。
*資金がないところに多額の税金だけが請求される事態になる可能性がございます。
<資金的余力がない場合の対策>
2代目社長に自己資金の余力がない場合に、LBO(融資の下りやすいSPCスキーム)が効果を発揮します。
LBOスキームでは、買収資金の大部分を「S社」が金融機関から借り入れます(B社の将来の稼ぐ力を担保にします)。そのため、社長個人はS社を設立するための少額の資本金(数万円〜数百万円程度)を用意できれば、このスキームを成立させることが可能になるかと存じます。
回答は以上となります。
ご参考になりましたら幸いです。
税理士 能登路哲也 様
ご回答ありがとうございます。
よく理解することができました。
最後に一つご教示下さい。
子会社は相続税法上の大会社になるので
類似業種比準価額と一株当たり純資産金額の
何れか低い方で算出しますが、時価について
中小企業では何か算出方法が決まっているの
でしょうか?
中小企業の非上場株式を譲渡する際の「税務上の時価」の算出方法は、法人税・所得税の基本通達により規定されています。
子会社が「大会社」に該当する場合、ご認識の通り基本構造は相続税評価と同じく「類似業種比準価額」と「純資産価額」のうち低い方を採用します。
ただ、純資産価額の算出において、相続税評価にはない以下の修正が加わります。
●税金相当額の控除不可:含み益に対する法人税等相当額(37%)を差し引いて株価を安くすることが認められません。
●時価評価の強制:保有する土地などを路線価ではなく、実勢価格(通常の取引価額)で評価し直す必要があります。
この修正により、税務上の純資産価額は通常の相続税評価額よりも高額になります。
*類似業種比準価額の方は相続税の計算と基本的には同じとなります。
今回の事業承継では、こうして計算された「税務上の時価」を最低譲渡価格として設定し、その金額が銀行の融資枠や自己株式取得の分配可能額に収まるかを確認しながらスキームを進めることになるかと存じます。
回答は以上となります。
ご参考になりましたら幸いです。
本投稿は、2026年09月15日 08時38分公開時点の情報です。 投稿内容については、ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。







