不動産投資は節税になる?効果や経費になるもの、注意点など、その仕組みを詳しく解説

不動産投資は資産形成だけでなく、節税対策にもなるという大きなメリットがあります。その効果は、「所得税」「住民税」だけでなく「相続税」「贈与税」にまでおよびます。
しかし、節税目的のみで不動産投資を始めるのは大変危険です。そこで本記事では、具体的な例をあげながら実際にどのような節税効果があるのか、どういった点に注意すればよいのか、これから不動産投資をはじめようとしている方向けに解説します。
目次
不動産投資が節税になる仕組み(損益通算と減価償却)
本来、不動産投資は、賃貸借に供して長期的に得られる賃料収入「インカムゲイン」と、投資期間終了後、売却処分時に得られる利益「キャピタルゲイン」の二つが収益の柱であり、本来「利益」を得るために行う投資行動です。
節税目的で行う不動産投資は、賃貸経営で赤字を作り、損益通算で「給与所得」を減らし「所得税」「住民税」を節税するスキームと、転売利益(キャピタルゲイン)目的がほとんどです。
損益通算
損益通算とは、不動産所得が赤字になった場合に、他の所得(給与所得など)からその赤字分を相殺できる仕組みのことで、その人の総所得を総合的に引き下げて所得税や住民税を節税する効果があります。
不動産投資の場合、赤字といってもキャッシュ上の赤字というわけではなく、減価償却の効果による帳簿上の赤字です。
減価償却
減価償却とは、時間の経過とともに価値が減少する物(減価償却資産)について、税務上で定められた耐用年数(法定耐用年数)に応じて経費化していく仕組みのことをいいます。
たとえば単純な例を出すと、木造アパート(建物)を4000万円で購入した場合、耐用年数は22年なので、4000万円を22分割し「減価償却費」という名目で毎年計上する、ということになります。
実際には、減価償却の方法にとしては毎年同額を計上していく「定額法」と、徐々に金額を減少させていく「定率法」の2通りあります。
定率法の方が短期的な節税効果は高くなりますが、平成10年度の税制改正によって「平成10年4月1日以降取得分の建物部分」および平成28年度の税制改正によって「平成28年4月1日以降取得分の建物付属設備・構築物」については定率法が適用できなくなり、定額法による減価償却のみとなります。
この「減価償却費」は、実際にお金を動かすことなく費用計上するため、建物の減価償却期間中その恩恵を受け続けられます。ただし不動産のうち、土地については減価償却の適用はありません。
ちなみに税務上の建物の耐用年数は、木(W)造22年、軽量鉄骨(LS)造19年、鉄骨(S)造34年、鉄筋コンクリート(RC)造47年です。
贈与税・相続税での節税効果
財産を人から譲り受けた際、受け取った側(受贈者)に課税される税金を「贈与税」、亡くなられた方の財産を受け取った人(相続人)に課税される税金を「相続税」といいます。
贈与税も相続税も受け取った財産の価額に対して課税されますが、時価が同じ財産でも現金と不動産とで課税される税金に大きな差があるのです。
たとえば、現金1億円を受け取った場合、課税対象となる相続税評価額はそのまま1億円となりますが、時価1億円の不動産を受け取った場合の相続税評価額は、時価の7〜8割程度になるケースが多く、現金で取得するよりも節税効果が高くなります。
資産を現金から不動産に組み替えた上で贈与や相続をすれば、評価額が下がる分だけ節税になるのです。
ただし、不動産は節税という面では非常に効果的ですが、遺産分割という面においては複数の相続人間で分けることが難しい財産なので、遺産分割協議の揉め事の原因になることもあります。
また、ある程度の現金は残しておかないと、納税資金に苦労することにもなりますので、総合的なバランスをとることが重要です。
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不動産投資による節税シミュレーション
それでは、不動産投資をした場合の所得税の節税効果について、実際にシミュレーションしてみましょう。
【諸条件】
└物件価格:1億円(土地:6,000万円、建物:4,000万円)
└利回り:5%
└年間想定家賃収入:500万円(物件価格1億円×利回り5%)
└耐用年数:22年(築23年の木造アパート)
└ローン金利:2%
【経費】
└減価償却費:1,000万円(建物価格4,000万円×耐用年数4年の償却率0.250)
└年間利息額:200万円(物件価格1億円×金利2%)
【所得額】
└不動産年間所得:500万円−1,200万円+120万円(※)=マイナス580万円
└給与所得:1,000万円
※年間利息額のうち、土地を取得するために要した負債の利子(120万円:土地価格6,000万円×金利2%)については、不動産所得の損失の金額がその負債利子の額を上回る場合においては、負債の利子に相当する金額は損益通算を行う場合において生じなかったものとされます。
まず、節税対策をなにもしなかった場合の所得税は次のようになります。
1,000万円(給与所得) − 48万円(基礎控除) - 195万円(給与所得控除) = 757万円(課税所得)
757万円 × 23% − 63万6,000円 = 110万5,100円(所得税)
対して、不動産投資をした場合の所得税は損益通算によって次のようになります。
1,000万円(給与所得) − 48万円(基礎控除) - 195万円(給与所得控除) − 580万円(損失分) = 177万円(課税所得)
177万円 × 5% = 8万8,500円(所得税)
このように不動産投資の赤字によって、所得税が約100万円も節税できるのです。また、中古の木造アパートのように法定耐用年数が短い物件の方が、短期的な節税効果はより高くなります。
対して、新築の鉄筋コンクリートマンションについては耐用年数が47年と長いので、短期的な節税効果としては低くなります。
なお、今回のシミュレーションは簡易的なものであり、実際の効果については税理士などの専門家に相談しましょう。
不動産投資で節税するときのポイント
不動産投資で効果的に節税するためには、いくつかのポイントをおさえておく必要があります。
経費の計上漏れをなくす
不動産投資における経費は、減価償却費だけではありません。節税効果を高めるためには、それ以外の経費についても漏れなく計上することがとても大切です。
具体的には、次のような費用について不動産投資の経費として計上することができます。
不動産会社等に支払う費用
仲介手数料(ただし物件取得にかかるものは除く)/広告料/管理費/修繕積立金
税金関係
固定資産税/都市計画税/登録免許税/不動産取得税
修繕費
水漏れ修理代/設備品の交換費用/原状回復工事
その他
損害保険料/ローン利息/交通費/交際費
青色申告の特例を活用する
事業所得の確定申告には白色と青色がありますが、青色申告には次のような特典があります。
- 最大65万円の所得控除
不動産投資の規模が事業的規模と認められる場合は、最大で65万円を所得から控除できます。一般的に「5棟10室以上」が事業的規模の目安とされています。 - 赤字の繰越
その年で控除しきれなかった赤字があれば、最長で「3年間」繰り越すことができます。 - 家族への給与が経費になる
青色事業専従者給与を利用すれば、家族に対して支給した給与についても、経費として申告できます。
このように様々な特典があるので、青色申告を選択するとより節税効果が高まります。
住宅ローン控除は受けられない
不動産向けのローンというと「住宅ローン」をイメージする人もいるかもしれませんが、残念ながら不動産投資に住宅ローンは適用できません。
住宅ローンはあくまで自宅用の不動産、つまりマイホームの購入であるということで、一般的なローンよりも低金利かつ長期返済期間の融資なので、第三者へ賃貸する投資を目的としている不動産投資には使えないのです。
不動産投資の場合は、住宅ローンよりも若干金利が割高な「アパートローン」などが適用されます。
ただし、転勤などでどうしてもマイホームを賃貸に出さざるを得なくなった場合などに、事前に金融機関の同意を得られれば、例外的に賃貸として転用できることもあります。
赤字経営による金融機関の印象悪化に注意
所得税や住民税を節税するということは、帳簿上の赤字をつくることを意味します。実際のキャッシュフローが黒字であれば経営上は問題ありませんが、融資を受けるとなると注意が必要です。
たとえば、銀行から融資を受けたいという場合に赤字が続いていると、返済能力が低いとみられ審査がとおらなくなる可能性が高くなります。
銀行融資を積極的に利用して不動産投資を拡大していきたい場合は、赤字を出しすぎないようバランスをとることも必要です。
既存保有している物件の、1棟ごとの各部屋の家賃を一覧にした「レントロール」などを用いて、キャッシュフローが安定していることなどを証明することが、不動産投資で融資を引き出すポイントになります。
物価下落による資産価値減少のリスク
節税効果の高い不動産投資ですが、節税だけが目的になってしまうのは禁物です。
不動産投資は節税である前に投資であり、あくまで収益性を伴うことが成功の大前提となります。
たとえば、物価下落で資産価値が下落すれば不動産の価格も下落します。一定期間保有することが前提の不動産投資ではこうした「景気変動リスク」も考慮しなければなりませんし、「金利上昇リスク」によって1%でも金利が上昇すれば毎月のローン返済額も増加し、収支は悪化します。
また、空室が多くて家賃が入ってこないという状況になってしまうと、資金繰りが悪化してローンが返済できなくなってしまうリスクもあり得るのです。
物件を選ぶ際には、主に次の点についてチェックするとよいでしょう。これらの点をチェックすることで、投資した後の予想外の出費や減収を回避できます。
- 駅徒歩10分圏内/現在の入居率/家賃収入に対するローン返済額が1/2以下/建物のメンテナンス状況 など
規模が大きいときは法人成りも検討
不動産投資自体の利益が多くなって、不動産投資自体の節税をしたいというときは法人成りも検討するとよいでしょう。
個人事業主は事業のために直接支出した費用しか経費として認められませんが、法人の場合は事業活動で支出した費用全般が経費として認められるので、経費にできる幅が大きく広がりさらに節税できるのです。たとえば、役員退職金や役員社宅などが例として挙げられます。
また、個人事業主に課される所得税は所得金額が増えるにつれ税率も高くなる「累進課税」が適用され、最高税率は45%と非常に高くなっています。一方で法人に課される法人税は「比例税率」が適用され、どんなに課税所得が増えても税率の上限は23.2%なので、個人と比べると有利になることがあります。
おわりに
このように、不動産投資をうまく活用すれば所得税、住民税、相続税、贈与税といった複数の税金を効率的に節税できるという大きなメリットがあります。
しかし、不動産投資の基本はあくまで長期的かつ安定的な賃料収入「インカムゲイン」を得ることが主眼です。
賃貸経営を赤字にする目的で物件を購入すれば、事業融資の際、金融機関の審査に落ち、資金調達ができなくなってしまうリスクもあります。
また相続・贈与税対策の投資物件購入も課税価格を減らすどころか、大事な資産価格そのものを減らしてしまうとすれば、その不動産投資は失敗です。
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