【開業手続きまとめ】個人事業を始める前に決めておくべき2つのことや必要書類

個人事業を始めるときには、いわゆる「開業届」と呼ばれる「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出すれば手続きは完了します。ただし、納税地や確定申告の種類など、開業届を記入するときに決めておくべき項目があります。
決めた項目によっては、提出書類や手続きが増えますが、節税になったり利便性が上がるなどのメリットがあります。また、従業員を雇う場合には労働保険への加入が必須です。
そこで個人事業を開業するときに知っておくべき手続きと届出について解説します。独立・開業を考えている方はぜひ参考にしてください。
目次
開業手続き:事前に決めておくべきこと
開業届を記入する前に、次の2つをあらかじめ決めておきましょう。なお、これらはあとから修正することもできます。
納税地を決める
納税地とは税金を納める場所のことです。個人事業主は以下の3つから選択することができます。
- 住所地
国内に住所を有する場合 - 居住地
国内に住所を有せず、居所を有する場合 - 事務所等の所在地
国内に住所および居所を有せず、事務所等を有する場合
通常は事業者の住民票がある「住所地」を選択します。
ただし、住所地と別に事務所がある場合には、事務所を納税地にすることもできます。その際には「所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書」の提出が必要となります。
確定申告の種類を選択する
個人事業主の確定申告は、白色申告か青色申告のどちらかを選ぶことができます。
白色申告は、簡易簿記で帳簿を作成すればよい分、所得税上の優遇制度はありません。
一方で青色申告は、白色申告よりも複雑な「複式簿記」での帳簿付けを行うことでさまざまな節税メリットを受けることができます。
たとえば最高65万円の特別控除を受けることができたり、専従者(家族)への給与を必要経費にできるほか、赤字による純損失を翌年以降3年間にわたって所得から差し引くことができます。
なお、青色申告をする際には「青色申告承認申請書」の提出が必要になります。
【そのほかに検討しておくと良い事項】
- 屋号
屋号とは、店や事務所の名前のことで、自宅で仕事をする個人事業でも付けることができます。
屋号はなくても問題ありませんが、屋号名義の口座を作成することができるため、個人と事業の収支を区別しやすいというメリットがあります。 - 従業員の雇用
個人事業でも、事業開始から家族に仕事を手伝ってもらったり、アルバイトを雇う場合もあるでしょう。その際には、労働保険などの手続きが必要です。
なお、配偶者や親族が従業員として働く場合、一定の条件を満たすことで支払った給与を経費とみなすことができる「専従者控除」を受けることができます。
事業者が白色申告か青色申告かによって、その控除額は異なります。
開業手続き:開業届の提出
上記の準備を済ませたら、いよいよ開業届の提出手続きを行います。
開業届の提出には次のような決まりがあります。
- 提出先:納税地の所轄となる税務署
- 提出の期限:事業を開始した日から1か月以内
事業の開始日は、初仕事を行った日や店舗であればオープン日などに設定することが一般的です。
なお、所得の規模が小さく納税の必要がない(納税の義務が発生しない)という判断をしていた場合、納税が必要となったタイミングを事業の開始日とし、開業届を提出することもできます。
提出時は開業届と控えの両方を記入し、提出します。その後税務署印が押された控えが返還されるので、紛失しないよう保管しておきましょう。
個人の事業開始等申告書の提出
開業届を提出するのと同じタイミングで、都道府県税事務所へ「個人の事業開始等申告書」を提出します。記入内容も開業届と同様なので、同時に記入・提出しておくとスムーズです。
事業開始等申告書の提出には次のような決まりがあります。
- 提出先:所管の都道府県税事務所または市役所(市区町村)
- 提出の期限:地方自治体により異なる
この申告書を提出することで、各地方自治体に開業した旨の報告がなされ、その後は個人事業税を納付する義務が発生します。
個人事業税は「個人事業に対して地方自治体が課す税金」であり、国に納める所得税とは異なります。
毎年、確定申告後に所得金額をもとに地方自治体で個人事業税の金額の計算がなされ、納税通知書が送られてきます。
ただし、年間290万円の「事業主控除」があるため、1年間の事業所得および不動産所得が290万円を下回る場合には個人事業税を納付する必要はありません。
開業後に行う手続き
開業後は、必要に応じて、以下のような届出や手続きを行います。
青色申告承認申請書の提出
「青色申告」をするためには開業届とは別に、所得税の「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
所得税の青色申告承認申請書の提出には次のような決まりがあります。
- 提出先:納税地の所轄となる税務署長
- 提出の期限:事業を開始した日から2か月以内(事業を開始した日がその年の1月15日以前の場合は3月15日まで。その年の1月16日以後、新たに事業を開始した場合には、その事業開始等の日から2月以内。)
青色事業専従者給与に関する届出書の提出
青色申告を選択している事業者が、その仕事を手伝う配偶者や親族(ただし、事業者と生計を一にするもの)に支払う給与を青色事業専従者給与といい、全額を経費として計上できるため大きな節税メリットがあります。
青色事業専従者給与の控除を受けるには、納税地の所轄となる税務署に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出しなくてはなりません。
提出の期限は青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した人や新たに専従者がいることとなった人は、その開業の日や専従者がいることとなった日から2か月以内)となります。
源泉所得税納期の特例の承認に関する申請書の提出
従業員を雇って給与を支払う場合は、事業主が給与から源泉徴収した所得税を国に納める必要があります。
源泉所得税は原則翌月10日までに納付しますが、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出すれば、納付を年2回にすることができます。特例適用の要件は以下のとおりです。
- 対象者:給与の支給人員が常時10人未満で、納期の特例制度の適用を受けようとする源泉徴収義務者
- 提出先:所在地の所轄となる税務署
- 提出の期限:特になし(提出日の翌月に支払う給与から適用)
給与支払事務所等の開設届出書について
新たに給与の支払いをすることになったときは税務署に「給与支払事務所等の開設届出書」を提出しなくてはなりません。
ただし個人事業主の場合、税務署へ提出する開業届で「給与等の支払の状況」について記載していればこの届出書は提出する必要はありません。
所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書
納税地を居所地または事業所にする場合は、本来の納税地(住所地)を所轄する税務署に「所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書」を提出します。
提出期限は定められていませんが、開業届と一緒に提出し、手続きを行うとスムーズです。
消費税課税事業者選択届出書の提出
基本的に新しく事業を始めた場合は消費税の納税義務が免除される免税事業者となります。
ただし、「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで開業1期目から課税事業者となることができます。提出先は納税地の所轄となる税務署です。
課税事業者は、売上で預かった消費税額から、仕入れ等で支払った消費税額を差し引いた額を納付します。このときに、預かった消費税よりも支払った消費税が多い場合は、消費税申告をすることでその差額分が還付されます。
多額の設備投資などを予定しているなど、条件によっては初年度から課税事業者を選択したほうが良いケースもあるので、詳しくは税理士などの専門家と相談して検討しましょう。
届出書の提出期限は適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(適用を受けようとする課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、その課税期間中)となります。
屋号名義の銀行口座の開設
屋号を名義にした事業用の銀行口座を開設する場合の手続きには、開業届の控えや本人確認書類、印鑑などが必要になります。
なお、屋号名義の口座はすべての金融機関で開設できるわけではありません。必要書類も含めて、金融機関に確認してみましょう。
労働保険の手続き
個人事業主でも、パートやアルバイトを含めて従業員を1人以上雇用する場合、一定条件を満たせば「雇用保険」や「労災保険」へ加入しなければなりません。
従業員側の加入条件は、労災保険の場合は、事業主や役員、事業主の親族以外の従業員すべてとなっています。
雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用の見込みがある場合となっています。
雇用保険と労災保険の手続きは、提出書類ごとに提出先と期限が下記のように異なります。
書類名 | 提出先 | 期限 |
---|---|---|
保険関係成立届 | 所轄の労働基準監督署 | 雇用開始から10日以内概算保険料申告書 |
概算保険料申告書 | 所轄の労働基準監督署または都道府県労働局 | 雇用開始から50日以内 |
雇用保険適用事業所設置届 | 所轄の公共職業安定所 | 設置日から10日以内 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 所轄の公共職業安定所 | 雇用開始日から翌月10日まで |
なお、常時5人以上の従業員が働いている場合は、社会保険への加入も必要になります。
おわりに
開業時に行うこれらの手続きは、個人事業主として最低限知っておくべきことであり、その後の税務申告を円滑にしていくためのものでもあります。
なお、開業時から青色申告を選択したり、従業員を雇う場合には、手続きが多くなるため、労力が必要となる場合もあります。その際には税理士などの専門家に相談することも検討しましょう。
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