開業前に使ったお金も経費にできる?「開業費」を計上するときのポイント

開業費は、開業前の支出なので計上を忘れがちですが、しっかり漏れなく計上することで、節税にもつながります。このページでは、どのような費用が「開業費」として認められるのか、どのように会計処理をすれば良いのかを説明します。
※法人の開業費・創立費については「節税にもなる!『創立費』と『開業費』の違いと会計処理の方法」で解説しています。
目次
開業日は開業届に記載した日
開業費を考えるうえで、まずは「開業日」について正しい認識を持っておくことが大切です。これがないと、「いつ開業したのか」「どこまでが準備なのか」がわからなくなり、開業までにかかった支出を考えることが難しくなってしまいます。
個人事業の場合の開業日は、一般的には税務署へ提出する「開業届」上の開業日が使われます。開業届とは正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」という書類で、「税務署に開業した旨を知らせる」ための書類です。
この開業届を出すタイミングは「開業日から1か月以内」とだけ決められているため、ある程度は本人の意思で「この日に開業した」と決められます。とはいっても、事業所得が生じたらすでに事業を始めている段階なので、その時期には開業届を出すようにしましょう。
なお、1か月を過ぎた場合でもペナルティーはありません。ただし、「青色申告承認申請書」 は開業してから2か月以内に提出となっているため、この日までには提出することが望まれます。
開業費ってなに?
開業費とは「事業を開始するまでの間に、開業準備のために特別に支出する費用」と、所得税法施行令(第7条の1)によって規定されています。
わかりやすく言えば、「開業のために使ったお金」が開業費です。
しかし、開業前に使った費用であっても、「開業費になるもの・ならないもの」があるため、その点には注意しなければなりません。
開業費になる具体的な例
開業費は、「開業前に事業を行うために支払ったお金」です。具体的には以下のような費用が開業費です。
- 書籍や調査などの資料費用
- 免許業種の許認可取得費用
- オフィスやテナントなどの契約費、改装費用
- 名刺や印鑑などの作成費用、購入費用
- ポスターやチラシ、パンフレットなどの広告宣伝費用
- 飲食代や会議スペースなどの打ち合わせ費用
ただし、開業費は「特別に支出する費用」であるため、通常であれば事業開始後も継続的に支払うお金(経常的な費用)は開業費に含みません。
なお、事業内容はそれぞれで異なるため、個別具体的な相談は税理士や税務署などに問い合わせると良いでしょう。
開業費にならない具体的な例
一方、「事業のために使っていないお金」や「事業のためであっても、開業費としては扱わないお金」もあります。
具体的には以下のような費用は開業費として認められません。
- 家事のために使った家賃、水道光熱費、通信費、交際費など
- 30万円以上のパソコン等の購入費用など
- 敷金や保証金といった返還されるお金など
- 販売するために仕入れた商品や材料などの購入資金など
ひとつずつ説明すると、まず「家事に使ったお金」は事業に使っていないため、必要経費に計上することができません。なお、仮に自宅を事務所として兼用している場合であり、特別に支出する費用にはあてはまる場合には、費用の一部を開業費として処理できる可能性もあります。
次に「30万円以上するもの」に関して言うと、これは固定資産として扱われます。この場合は税法であらかじめ償却期間が定められているため、そのとおりに処理しなければなりません。なお、「30万円未満のもの」であれば、開業費として含めることができます。
続いての「返還されるお金」の場合は、そもそもとして費用ではなく、敷金(差入敷金)といった資産勘定で処理されます。あくまでも一時的に担保として差し入れているだけであり、将来的に返還されるため、開業費には含まれないことになっています。
最後に「販売するための商品・材料」の場合は、費用ではあるものの、これらは売上原価として処理する決まりになっています。そのため、開業費に含めることはできません。
このように開業費の定義にあてはまらない支出の場合は、当然、開業費として処理はできないので注意をしましょう。
いつまでの費用が開業費になるの?
開業費について「どれくらい遡って費用に含められるのか?」という疑問を持つ方は多いです。
実は、開業費は「開業日まで」という終点こそ決まっているものの、「いつから」という起点は決まっていません。
そのため、開業のための費用であれば時期に関係なく計上できます。
ただし、数年前の費用を開業費として計上するとなると、常識的に考えて、「その支出と開業の関連性は薄い」と解釈される可能性が高いです。
もちろん、そこに妥当性があれば問題ありませんが、現実的に考えると「数か月から1年程度」が開業準備期間と言えそうです。
領収書やレシートをきちんと保管しておく
開業費を計上するにあたり、絶対に守っておきたいポイントが「領収書やレシートをきちんと保管しておく」という点です。
なぜなら、税務署から指摘が入った際にこれらが、「客観的に開業費として妥当性がある」ことを証明してくれるからです。そのため、詳細が記載された領収書・レシートはきちんと保管しておきましょう。
また、領収書やレシートを保管方法については、「開業前」と「開業後」のものをしっかりと区別することが大切です。開業前のものだけを、ノートに貼り付けたり、封筒にまとめたりするだけで良いので、分かるように区別しておきましょう。
そして、領収書は原則7年間の保管義務があるので、その間は大切に残すようにしてください。
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開業費の会計処理の方法
実際に開業費にあたる出費があった場合、帳簿上ではどのように処理をすればよいのでしょうか。
まずは開業費が「どの勘定科目になるのか」を説明したうえで、実際の会計処理の方法について解説をしていきます。
繰延資産として任意償却できる
開業費は“費”という文字がつくため、一見すると費用だと思われがちです。しかし、実際は「繰延資産」という資産勘定に計上する決まりになっています。
繰延資産とは「支出の効果が1年以上にわたって及ぶもの」と定義されています。そのため、通常の費用とは区別されており、「最長5年」をかけて償却することが認められています。
また、開業費の償却方法は「60か月の均等償却」または「任意償却」のいずれかの方法を採用する必要があります。
このうち任意償却であれば、繰延資産額の範囲内において必要経費へ計上できます。そのため、支出年に全額償却することや、全く償却しないこともできるので、利益額を調整するためにも繰延資産を計上できます。
開業費が発生した時と償却する時の帳簿付け
実際に開業費が発生したら、その取引を帳簿につけておく必要があります。たとえば「ホームページ制作のために1万円を支出した」場合は、以下のように仕訳します。
借方 | 貸方 |
---|---|
開業費1万円 | 元入金1万円 |
この処理の貸方(右側)で使われている「元入金」とは、法人で言うところの「資本金」に相当するお金です。つまり、事業主が自分の事業のために持ち出しているお金のことです。
なお、貸方には元入金以外に、「事業主借」という事業主から借り入れているお金や、すでに元入金の仕訳をしていれば「現金」で処理することもできます。
また、期末にその開業費を償却する場合は、以下のように仕訳を行います。
借方 | 貸方 |
---|---|
開業償却費1万円 | 開業費1万円 |
この処理の借方(左側)で使われている「開業償却費」とは、開業費に対応している費用勘定です。この勘定科目を使うことで、ようやく費用として計上できます。
なお、開業償却費の代わりに「繰延資産償却費」でも処理することが可能です。基本的には開業費の償却には「開業償却費」を使って仕訳を行えばいいでしょう。
おわりに
開業前に事業のために使ったお金であれば、基本的には開業費として計上することができます。
そして、開業費であれば任意償却ができるため、場合によっては大きな節税効果が得られる可能性もあります。
個人事業主・フリーランスの方には、ここで説明してきた開業費の考え方から会計処理方法までをしっかりとマスターして、事業のために役立てていただければと思います。
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