役員貸付金 貸倒損失について
当社は同族会社です。
取締役(先代代表取締役の家族)への役員貸付金1億円が帳簿にあります。
これは、先代取締役が個人的な詐欺まがいの投資のため、会社から出金したお金で、回収の見込みは全くありません。
ねずみ講の詐欺まがいの投資で、一時期ニュースにもなり、詐欺会社は倒産しております。
先代代表取締役は亡くなられ、先代取締役は、辞任しており、先代代表取締役の息子が、現在、代表取締役をしています。
この度、先代取締役が、自己破産することになります。
自己破産した場合、当貸付金を、貸倒損失として計上してもよろしいでしょうか?
先代取締役は、年金のみの収入で高齢、債務返済能力は全くありません。
ご教授くださいますと、幸いです。
よろしくお願いいたします。
税理士の回答
結論としては代表者である社長個人に対する役員貸付金について、会計上は貸倒損失として計上し、税務上は損金の額に算入することは、残念ながら極めて難しいと考えます。
役員貸付金の解消方法としては、①役員報酬を原資とする返済②役員退職給与を原資とする返済③役員個人が融資により返済④原資を調達して返済⑤役員個人の資産を法人に売却して返済⑥役員借入金との相殺といった方法は適正に運用する限り実務の現場では常套といえる対応と考えます。
ここで仮に役員に返済能力がなかった場合、役員貸付金を貸倒損失として計上し、損金算入を行うという方法についてですが、元代表者に対する貸倒損失を損金算入とした場合について争われ、結果として損金算入が認められた極めて稀有かつ異例な事例があります(こちらの判例については各所から問題提起や異論等がなされています)ので参考としてください。
東京地裁平成25年10月3日判決
法人である原告は、元代表者に対する貸付金等につき、貸倒損失とした上で損金の額に算入して確定申告を行ったところ、課税庁により回収可能性がないとは認められないとして更正処分等を受けたため、これを不服としてその取消しを求めた。なお、当該貸付金等は、元代表者の個人的といえる費消やその認定利息に加え、元代表者個人の債務を返済するために原告が貸し付けたことが要因となって発生している。その後、元代表者との訴訟により当該貸付金額が確定し、原告の代理人弁護士より回収の見込みがない旨の報告を受けたものである。
裁判所は、回収可能性の判断について興銀事件判決にて最高裁が示したいわゆる社会通念基準に照らし、元代表者は当該貸付金等の返済に供せる程の資産を有していなかったことが認められるとして、原告の主張を認めた。
この際に引用した最高裁判決は、貸倒損失が損金算入される要件として、「当該金銭債権の全額が回収不能であることを要すると解され」、「その全額が回収不能であることは客観的に明らかでなければならない」として① 債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情② 債権回収に必要な労力③ 債権額と取立費用との比較衡量④ 債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情⑤ 経済的環境等の分析検討を行っている。さらに加えて「社会通念に従って総合的に判断されるべきものである」として社会通念基準を示している。すなわち債務者の返済能力等がないことにより貸倒損失の損金算入について検討する場合、通常は法人税基本通達9-6-2の「その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合」に該当するかどうか、事実認定についての検証を行うことなる。同通達と社会通念基準について、「回収不能かどうかは第一義的には債務者側の事情により判断する」とした上で、「債務者側の事情のみでは回収不能かどうかを判断することができない事情があるかどうかも個別具体の事例に即して慎重に見極める必要がある」とある。
ご相談での「この度、先代取締役が、自己破産することになります」との内容から、客観的には貸倒の要件を充たすものと思われますが、役員貸付金を貸倒損失として損金算入することはかなり困難であるとしか申し上げられません(税務署にご相談いただいても当該処理を認められることはまずありません)。
なお役員貸付金について貸倒損失を計上した場合、役員側にとっては経済的利益の供与、すなわち賞与として取り扱われる可能性もあります。
ありがとうございます。
当社の元取締役となっておりまして、現在は、この責任をとり、当社を辞任退職をしております。
この時点で、役員貸付金ではないという見方で寄附金として、下記のように処理するのは、いかがでしょうか?
このまま、帳簿に一生残り続ける可能性もある問題かと思います。
ただ、現代表取締役とは、同族関係ではあるため、寄附金ととられないという可能性もありますが、
◯自己破産免責時
損害賠償権/長期貸付金
◯9-6-2 事実上の貸倒
貸倒損失/損害賠償権
寄附金/債務免除益
✳︎元役員なため寄附金扱い、損金不参入制限
損害賠償権ではなく、
損害賠償請求権です。
失礼しました。
補足しますと、元取締役は、株主でもなく、現代表とは家族関係となります。
「破産」にかかる貸倒損失で相手先が法人ではなく個人の場合は非常に微妙な扱いとなります。この件について触れている論証は無く、裁決・判決も汎用性のある考え方を明示していませんから「明確な答えはない」と思われます。
破産の法的手続きには債権債務の切捨てがありませんので、法人が破産した場合、破産手続終結決定⇒法人格消滅⇒債権も付随的に消滅と考え、貸倒損失を計上することができます。ですが相手方が法人ではなく個人の場合には、個人が破産しても個人自体は消滅しません。ですから法人と個人は同じ論法が成立しません。つまり個人が破産しても、それは該当する債務が免責されるのであって、債務自体はなくならないという考え方になります。個人が破産したとしても、免責される>債権者は強制執行ができなくなる/自然債務は残る>債務者が返済した場合は有効な法律行為となるということです。
このことから、相手先の個人が破産した場合、破産したという事実だけで貸倒損失を計上するのは事実認定が困難で立証が難しいので、実務上は下記のような対応を考えます。
① 9-6-1(4)を適用する
破産後も法律的には自然債務が残っていることから、書面郵送によって債権放棄(債務免除)する。
② 9-6-2を適用する
この場合、「その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合」の要件を満たす必要があります。破産後に資力を回復している場合等は、事実認定で否認される危険性があります。
なお、9-6-2における「その全額が回収できない」というのは、相手方が法人であれば一定期間の債務超過で説明できるかもしれませんが、相手方が個人の場合には生活できているという事実から、毎月少額でも回収できるのであれば適用ができないと税務署側の意見もあります。前記の判決(東京地裁平成25年10月3日判決)では、①貸付金等の金額が多額②債務者が高齢③毎月の年金受給額は生活費程度(公的年金は法的に差押えは禁止)であり、「年金の全額を貸付金等の返済に充てたとしても、全額の返済には相当期間かかることとなる」として貸倒損失の計上を認めたものです。この判決は債務額が多額であることから、9-6-2を論拠とした貸倒損失が認められましたが、相手方が個人の場合には「回収可能性がない」ことを立証するのは、法人の場合よりも困難です。つまり個人に対する債権を貸倒れとして損金処理するのは極めて難しいと思われます。
9-6-1(4)を適用して書面郵送によって債権放棄(債務免除)する場合については理論上可能と考えますが、相談者様が示唆されたとおり寄付金認定による損金不算入額については貴社の課税対象となりますし、債務免除等が行われた時にその債務免除等に係る債務の金額は、債務免除等をした人から贈与により取得したもの(債務免除益)とみなされますが、法人から債務免除等を受けた場合は、贈与税ではなく所得税の対象となります。つまり債権者である貴社と債務者である元取締役双方に対して課税負担が生じることになります。貸付金の消却は可能ですが、金額的なものから考えると問題がありますので慎重にご検討ください。
承知しました。
ご回答ありがとうございました。
本投稿は、2024年06月20日 23時02分公開時点の情報です。 投稿内容については、ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。







