法人化の是非について
社会保険料の会社負担分なども考慮した上で、法人化による節税メリットがいくらほどかをシミュレーションしていただくことはできませんでしょうか。
税込売上2300万円、経費300万(消費税支払100万含む)で、個人事業税がかからない職種とします。
課税事業者で、免税事業者になると2%近く単価を調整され売上が減るとします。
控除は小規模企業共済満額とiDeCo満額、生命保険料3万円/年です。
国民健康保険加入。
合同会社、役員報酬は月給は80万円の想定です。法人の利益は年利5%で資産運用します。
なお、家族無し、雇用予定なし、家賃なし(住宅ローンのため法人への貸し出しは難しいかと)、出張手当不要(在宅勤務が多い)のため、節税以外の法人化理由はありません。
先細りすると思っているのですが、実際はインフレに伴い売上が増えています。
資産運用にかかる税率が個人の場合よりも高くなるのと、退職金に税金がかかること、idecoと小規模企業共済もあるため退職金受け取りのタイミング調整が難しく、法人化するメリットは案外薄い気がしております。
税理士の回答
山口勝己
私は個人事業主専門税理士なのですが、回答がないようなので知人税理士に確認の上お答えします。
ご提示の条件(役員報酬月額80万円など)では、法人化による節税効果や財産最大化の効果は限定的です。むしろ、個人事業主のままの方が、手元資金や運用資金を多く残せる可能性があります。
1. 年間収支の比較(概算)
• 個人事業主:税込売上2,300万円、事業経費300万円、税金・国保等約380万円、小規模企業共済・iDeCo等151万円。最終的な手取りは約1,469万円です。
• 合同会社:免税事業者を選ぶ前提で売上は約2,254万円。役員報酬960万円、会社負担の社会保険料約130万円、法人税等約220万円を差し引くと、法人内部留保は約737万円です。
• 合同会社の個人側:税金・社会保険料約245万円、共済・iDeCo等151万円を差し引くと、自由な手取りは約564万円です。
• 最終比較:個人事業主は約1,469万円、合同会社は個人手取りと法人内部留保を合わせて約1,301万円。差額は約168万円で、個人事業主が有利です。
個人事業主が有利な主因は社会保険料です。国民健康保険には年間約100万円の上限がありますが、法人化して役員報酬を年960万円支払うと、社会保険料は労使合計で約260万円に増えます。
2. 資産運用面のデメリット
個人なら新NISAの運用益は非課税で、特定口座でも税率は約20.315%です。一方、法人の運用益は本業利益と合算され、実効税率約23%〜34%で課税されます。
また、法人名義の証券口座は開設審査や会計処理の負担が増えるため、運用面でも個人より手間がかかります。
3. 退職金受け取り時期の調整
小規模企業共済、iDeCo、法人退職金をすべて退職所得として受け取る場合、退職所得控除の調整が複雑になります。法人退職金は解散・清算時に支払うことが多く、共済やiDeCoの受給時期と重なると、税負担が増える可能性があります。個人事業主のままなら調整対象は主に共済とiDeCoの2つに絞られ、設計しやすくなります。
4. 総評
現在の収支と「家族なし・在宅勤務・雇用なし」という前提では、節税目的の法人化は見送り、個人事業主を続けるのが合理的です。
法人化を再検討する目安は、売上が3,000万円を超え、個人税率と法人税率の差が大きくなる場合、または役員報酬を月20万円程度まで抑え、利益の多くを法人に残せる場合です。
山口先生
お世話になります。ご回答ありがとうございます。
お知り合いにご確認までしてくださり、大変助かります。本当に感謝しております。
手続きの面倒さなど、まさにおっしゃる通りで、特に退職金受取時期については悩んでおります。
そもそも、いつなくなってもおかしくない仕事ですので、調整できるものではありませんが…。
当方の説明不足で申し訳ないのですが、以下の前提が抜けておりました。
このような場合だと、どのように変わるかご教示いただけますでしょうか。
① 法人化後は小規模企業共済・iDeCoを利用しません(節税効果が個人事業主ほど大きくないため、手元資金を確保したい意図です)
② 新NISAに回す資金はすでに足りております。個人資産は積み上がっておりますので、通常の生活や多少の贅沢で困ることはありません。ただ、役員報酬だけでは不足する可能性があり、場合によっては個人資産の運用収益を取り崩すことになります。
③ 老後の厚生年金受給分を考慮したいところです(が、不透明ではあります)
以上の前提を踏まえると、試算結果がどのように変わるか、再度ご検討いただけますと幸いです。
山口勝己
個人事業主のまま「小規模企業共済(年84万円)」と「iDeCo(年81.6万円)」を満額拠出(計165.6万円)すると、それだけで最高税率に近い部分の所得税・住民税が丸々免除されます。法人化してこれを辞めてしまうと、いくら給与所得控除があるとはいえ、個人の所得税・住民税の課税ベースが上がってしまいます。
資産運用の税率の逆転(個人20.315% vs 法人約30%〜)法人の利益を年利5%で運用する場合、法人の株・投資信託等の運用益には「法人税(実効税率約25%〜34%)」が課されます。個人の「申告分離課税(20.315%)」や「新NISA(非課税)」に比べ、法人内での資産運用は税率が高くなり、効率が落ちるためお勧めできません。
老後の厚生年金受給額(メリット面)の補足
唯一、法人化して月給80万円(厚生年金の標準報酬月額上限の65万円に到達)で加入するメリットは、将来もらえる老齢厚生年金が増えることです。
増える年金額の目安:月給80万円(標準報酬65万円)で10年間法人を経営し厚生年金を納めると、将来もらえる年金が年間約43万円(一生涯)増えます。
不透明さのリスク:ご指摘の通り、2026年現在の少子高齢化のトレンドやマクロ経済スライドによる実質減額を考慮すると、支払った社会保険料(年間約143万円の厚生年金保険料)の元を取るには、受給開始から20〜30年以上生きる必要があり、投資対効果としては決して高くありません。
結論とアドバイス
ご提示いただいた条件を見る限り、「個人事業主のまま、小規模企業共済とiDeCoを満額継続する」のが最も手残りが多くなる最適解です。もしインフレに伴いさらに売上が伸び(例:売上3,000万円以上など)、個人事業主の所得税率が40%〜45%の最高税率に達する見込みになった段階で、初めて「役員報酬をあえて低め(例:月40万〜50万円)に設定し、残りを法人税率20%〜30%台の会社に残す」という形の法人化を再検討されるのが良いかと存じます。現在の「役員報酬80万円ですべて個人に吐き出す」スタイルでの法人成りは推奨いたしません。
税理士によっては、やりたいことが違うため、違う答えを用意するところもあるかもしれません。
私は、無意味な法人成りには反対なので、反対意見をどうしても探してしまいます。
一方で、小規模事業でも法人成りを強く勧める税理士もいるので、その方なりにメリットを強く強調する場合もあるかと思います。
小規模でも、ネームバリューを優先させたい方もいますし、なかなか数字だけの判断ではない部分もありますよね。
参考程度に読んで頂ければと思います。
山口先生
お世話になっております。
度重なる詳細なシミュレーション、ならびに資産運用の効率や厚生年金の費用対効果に至るまで、ご多忙の中ご教示いただき、本当にありがとうございました。
今回改めて伺い、法人化における税率の逆転や手残りの最大化という観点から、現状の私にとって法人化がいかに非効率であるかを痛感いたしました。
特に、小規模企業共済やiDeCoを活用した個人での節税効果は、法人化した際の手間や社会保険料の増加を補って余りあるメリットであることを、数字で再認識できました。
先生の「無意味な法人成りには反対」というお考えは、目先の節税にとらわれず、長期的な資産形成と収支のバランスを考える上で非常に心強く、また納得できるものでした。専門家として、安易な提案ではなく、あえて「留まること」を推奨してくださったことに改めて深く感謝いたします。
今回は先生のアドバイスに従い、法人化は見送り、現在の個人事業主という形態を維持して地道に事業に取り組む方針を固めました。
今後、万が一売上がさらに伸長し、所得税率が最高税率に達するような局面が訪れましたら、改めて先生にご相談させていただきたく存じます。
この度は貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました。
引き続き、何卒よろしくお願い申し上げます。
山口勝己
参考になれば幸いです。よろしくお願いいたします。
本投稿は、2026年07月13日 12時43分公開時点の情報です。 投稿内容については、ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。







