前受金とは?仕訳などの基礎知識から、節税・キャッシュフローに与える影響について

「前受金」をチェックして正しく計上することは、決算前の節税にもつながる可能性があります。
商品の引き渡しやサービスの提供前に金銭を受け取っている場合、引き渡し等が終わるまでは、売上ではなく前受金として計上することができるのです。
そこで、仕訳や間違いやすい勘定科目といった前受金の基礎知識をはじめ、前受金が節税やキャッシュフローに与える影響についてまで確認しましょう。
目次
「前受金」とは?
前受金(まえうけきん)とは、商品の引き渡しやサービス提供をする際に、代金の一部または全部を事前に受け取った場合に使用する勘定科目のことです。
一般的な小売店では、商品の引き渡しやサービスの提供の際に、同時に金銭の支払いが行われます。しかし、受注生産や予約販売といった場合には、商品の受渡しの前に代金を受け取ることもあるでしょう。
企業会計のルールでは、売上はあくまでも商品の引き渡しやサービスの提供が終わってから計上されます。
そのため、商品の引き渡しやサービス提供前に受け取った金銭については、売上ではなく前受金として処理し、商品の引き渡しやサービスの提供が終わった段階で、前受金から売上へ振り替えるという処理が必要になります。
前受金の仕訳
前受金の会計処理について、具体例をもとに確認していきましょう。
たとえば、1個5万円の受注生産の商品について、申込時に前受金3万円を受け取り、残金は商品の引き渡し時に受け取るという契約を結んだとします。
この場合「1.申込時に金銭を受け取ったとき」と「2.商品の引き渡しを行ったとき」それぞれ、以下の仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
現金 | 30,000 | 前受金 | 30,000 |
顧客から支払われた3万円を前受金として計上します。
借方 | 貸方 | ||
前受金 現金 | 30,000 20,000 | 売上高 | 50,000 |
事前に受け取り前受金に計上した3万円と、引き渡し時に受け取った2万円を売上に計上します。
前受金の消費税
消費税が課税されるタイミングは、原則的に商品の引き渡しやサービスの提供が終わったときとされています。
つまり、前受金を受け取った時点では商品の引き渡しやサービスの提供は終わっておらず、消費税は課税されないため、受け取りの時点では消費税の計算に関係のない「不課税取引」として計上することになります。
前受金と間違えやすい勘定科目
前受金と間違えやすい勘定科目に、「前受収益・仮受金・預り金・売掛金」といったものがあります。以下より、それぞれの内容を確認していきましょう。
前受収益
「前受収益(まえうけしゅうえき)」は、「一定の契約に従って継続して役務の提供を行う場合において、まだ提供していない役務に対して支払を受けた対価」と定義されています。
これだけでは理解しづらいため、家賃を例に、年間の契約に基づくもので、1年分をまとめて支払いを受けた場合を考えてみましょう。
前提
- 会計期間は4月から3月まで(3月決算)
- 契約期間は今期の12月から翌期11月までの1年間
- 家賃は今期の12月に契約期間分をまとめて年払いで受け取る
この場合、3月末の決算期の時点では、役務提供期間の12月から翌11月のうち、翌期分である4月分から11月分はまだ役務を提供していません。売上は商品の引き渡しまたは役務の提供が終わってから計上するのがルールであるため、決算時に翌期分を前受収益に振り替え、売上の計上時期を翌期に繰り延べます。
このように、継続した役務提供契約において、支払はすでに受けているものの決算時点では提供していない部分について、翌期に繰延べるために使用するのが「前受収益」です。
仮受金
「仮受金(かりうけきん)」は、どういった内容の入金なのかが不明なときに一時的に使用する勘定科目です。
たとえば顧客に1万円の請求を行ったところ、1万5千円の入金があり、差額の5千円については内容がよくわからない、というような場合に一時的に使用します。
つまり、内容や金額に不明な点があるものの、事実として入金されている場合に、内容が判明するまで一時的に計上しておくための科目です。
これに対して前受金は、商品の引き渡しやサービス提供前に受け取っている代金なので、内容・金額が明確になっています。
預り金
「預り金(あずかりきん)」は、金銭を預かった際に使用する勘定科目で、源泉徴収にまつわる仕訳でよく使われます。
源泉徴収では、従業員が負担する税金などを給与支払い時に会社があらかじめ預かり、従業員の代わりに国や自治体へ納付するため、このときに預り金という科目を使用します。
このほか、外部から一時的に金銭を預かった際にも使用します。
売掛金
「売掛金(うりかけきん)」は、商品の引き渡しやサービスの提供の際に、金銭の受け取りを後日としている場合に使用する勘定科目です。
会社対会社の取引では継続して頻繁に取引を行う場合に、毎回金銭のやり取りを行うと煩雑になるため、月ごとにまとめて請求・支払を行うのが一般的でしょう。
このとき、商品を引き渡しは終わっていて金銭の回収がこれからという場合に、売掛金という科目を使用します。
前受金のチェックは節税につながる
このように前受金はいずれ売上となるものですが、決算前に売上・前受金のチェックを行うことで節税につなげることができます。
具体的なチェック方法としては、決算前に売上の内容を確認し、代金の支払いは受けていても商品の引き渡しまたはサービスの提供が終わっていないものが混じっていないかを確認します。
すべての取引が、商品の引き渡しと同時に金銭を受け取るようになっているのであれば、誤りが発生する可能性は低いのですが、金銭を前もって受け取る取引と金銭が引き渡しと同時決済の取引が混在していると、誤りが発生する可能性があります。
よくある誤りが、納期の関係で期末時点では商品はまだ仕入業者に発注中であり、顧客への引き渡しが終わっていないものがあった場合です。顧客からの入金の時点では、現場の処理としては、商品の引き渡しが完了しているかどうかに関わらず、売上として処理してしまうことがあります。
前述のとおり、商品の引き渡しやサービスの提供よりも先に代金をもらったときは「前受金」として処理し、商品の引き渡しやサービスの提供が終わった段階で「売上」に振り替えるのが原則です。
この原則通りの処理をしないと、本来は翌期に課税されるべきものが今期に課税されることとなってしまいます。
こういったことを防ぐために、決算期前に売上の内容を精査し、前受金として処理すべきものがないかをチェックしておきましょう。
前受金がキャッシュフローに与える影響
前受金の計上が適正に行われていなかった場合、キャッシュフローにも影響を与えることになります。
冒頭の例のように、1個5万円の受注生産の商品について、申し込み時に前受金3万円を受け取り、残金は商品の引き渡し時に受け取るという契約を結んだ場合を考えてみましょう。
前提
- 前受金の受け取りは決算前に実施された。
- 商品の引き渡しは決算後に実施された。
この場合、原則としては申込時に受け取った金銭は前受金として処理するべきです。それがなんらかの誤りにより売上に計上されており、そのまま当期の売上として処理されていたとしましょう。
決算数値としては、売上が3万円発生する一方で、在庫は顧客に引き渡されていないので売上原価(費用)は計上されません。つまり、受け取った金銭にそのまま課税されることになります。
本来のキャッシュフローは、顧客から前もって金銭を受け取り、それを原資として仕入れを行い、最終的に残った利益から税金を支払う予定です。しかし、上記のケースではキャッシュが予定より早く減少してしまうことになります。
この課せられた税金は、翌期に顧客へ商品が引き私が終わってその分の売上原価が計上され、翌期末に決算に織り込まれるまで解消できません。そのため、キャッシュフローに悪影響を及ぼすと考えられます。
きちんと適正に前受金として計上していれば、今期の損益計算には影響を及ぼさず、従って受け取った前受金に対し、課税されることもありません。
前受金のチェックをすることで、適正に収益と費用の差額である利益部分に課税されるほか、課税のタイミングも適正になり資金繰りを正常化できるでしょう。
おわりに
前受金というのは、いつの時点で売上計上するのかというタイミングだけの問題ですが、キャッシュフローや税金を考えると決して疎かにはできません。
数字の精度を上げていくためには、前受金などを適正に税務処理できているかなどのチェックを税理士に依頼するとよいでしょう。