世界銀行の給与に対する所得税について(非居住者→居住者)
世界銀行(国際開発復興銀行IBRD)のコンサルタントとして給与を受けています。現在は海外在住で、日本では非居住者です。国籍は日本です。世銀の給与は米国のワシントン本店から支払われています。
質問1:現在、世銀からの給与は日本の銀行口座に振り込まれているのですが、この場合、日本での所得税は課税されるのでしょうか。
質問2:現在居住中の外国から日本へ完全帰国の予定があります。日本で居住者に戻ったあと、世銀からの給与に対して所得税・住民税などは課税されるのでしょうか。
※『専門機関の特権免除条約 6条第19項(b)』では「国連職員と同一の課税免除」とありますが、『国際復興開発銀行協定 7条9項(b)』を読むと、「これらの者が当該加盟国の市民、臣民その他の国民でないときは」とあるので、どのように解釈すべきかわかりません。
質問3:質問2で課税される場合、世銀から源泉徴収できないと思いますので自分で確定申告が必要になるのでしょうか。
以上、ご多忙のところお手数をおかけしますが、ご回答頂けますと幸いです。
税理士の回答

土師弘之
まず、『国際復興開発銀行協定』(以下「銀行規定」)があって、その7条9項(b)には「銀行がその理事、代理、役員又は使用人に支払う給料その他の給与に対し又はこれらに関しては、これらの者が当該加盟国の市民、臣民その他の国民でないときは、いかなる租税も課してはならない。」と規定しています。これを読むと、「これらの者が当該加盟国の市民、臣民その他の国民でないときは」「課税してはならない」、つまり「加盟国の市民等は課税対象になりうる」と読めます。
そして、「専門機関の特権免除に関する条約」(以下「条約」)の「6条19項(b)」には、「専門機関が支払つた給料及び手当に関して、国際連合の職員が享有する課税の免除と同一の課税の免除を同一の条件で享有する」とあり、「条約」の「附属書Ⅵ 国際復興開発銀行」には「この条約(この附属書を含む。)の規定は、銀行協定を修正し、又は改正するものではなく、また、その修正又は改正を要求するものでもない。これらの規定は、また、銀行又はその加盟国、総務、理事、代理、職員若しくは使用人に対し銀行協定により又は基金の加盟国若しくはその政治的下部機構の法令その他によつて与えられる権利、特権又は免除を害し、又は制限するものではない。」との規定があります。
これらを総合すると、「銀行協定」では加盟国の国民等は課税になりうるが、「条約」においては、加盟国の市民等に対するものを含め、専門機関から支払われる「給料及び手当」は課税を免除されるということになります。
また、協定は、国家でなく、国家機関の一部同士で他の条約の許容範囲でとりかわすものですので、条約の方が優先的に取り扱われることになります。
更に、「銀行協定」が先にあり「条約」が後からできているため、上記のような表現になっているのだと思われます。
よって、世界銀行から支払われる「給料及び手当」については、どのの国に住んでいようと課税されないということになります。
ただし、課税が免除されるのは「給料及び手当」に限られますので、その他の収入については居住国で課税されます(確定申告等が必要です)。
土師弘之税理士事務所
税理士 土師弘之 様
ご多忙のところ、ご回答を頂きましてありがとうございます。
結論として、世界銀行からの「給料及び手当」については、「日本国籍者」が「日本在住」の場合も非課税となるとのことですね。
少しもやもやとしていたので、専門家のご意見を頂きすっきりしました。
個人的には、「条約」の附属書VIにおける:
「この条約(この附属書を含む。)の規定は、銀行協定を修正し、又は改正するものではなく、また、その修正又は改正を要求するものでもない。これらの規定は、また、銀行又はその加盟国、総務、理事、代理、職員若しくは使用人に対し銀行協定により又は基金の加盟国若しくはその政治的下部機構の法令その他によつて与えられる権利、特権又は免除を害し、又は制限するものではない。」
という文言について、「銀行協定」の内容が「条約」により修正・改正されない(=「銀行協定」の内容が優先される)と解釈していたので、「銀行協定」内の「これらの者が当該加盟国の市民、臣民その他の国民で"ないとき"は、いかなる租税も課してはならない」の一文が有効になるのでは、と混乱していた次第です。例えば、英国歳入税関庁のマニュアル(INTM860750: https://www.gov.uk/hmrc-internal-manuals/international-manual/intm860750)では、(当該文言由来のものと思われる)自国民の世界銀行職員について税免除を適用しないとの規定があるので、日本の場合はどうなるか気になっていました。
ご教示頂いた、条約>協定の優先順位について考えると、単に条約・協定の建付け上の問題ということなのですね。
とても勉強になりました。改めてお礼申し上げます。
追伸:
先ほど、世銀の税務部からも土師様と同様の回答をもらいました。
英国のケースは、当該国が「条約」に加盟していないのが理由だと思われます。
本投稿は、2021年11月19日 03時13分公開時点の情報です。 投稿内容については、ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。