中小企業投資育成株式会社とは?出資を受けるメリットとは?

資金調達で悩んでいる人の中には、出資を受けたいと考えている人もいるでしょう。出資を受けることができれば、銀行や信用金庫から借り入れを受けるのとは違い、資金を返済することなく、事業資金を集めることができます。
しかし近年では、さまざまな投資家やベンチャーキャピタルが存在するため、どこから出資を受けるのが適切なのか、判断するのが難しくなっています。
もし中小企業で出資による資金調達を検討しているならば、選択肢に入れるべきなのが、中小企業への出資に特化した「中小企業投資育成株式会社」です。
そこでこの記事では、中小企業投資育成株式会社の投資対象や、出資の流れなどについて解説します。
目次
中小企業投資育成株式会社とは
「中小企業投資育成株式会社(以下、投資育成会社)」とは、投資育成制度という法律に基づき、経済産業大臣が監督し、地方公共団体や金融機関により出資を受けている機関です。中小・中堅企業に対して、投資と育成に関わる業務を行っています。
投資業務では、中小・中堅企業の自己資金の充実をバックアップし、育成業務では、経営相談やビジネスマッチングなどを行うことで、健全な成長をバックアップしています。
投資育成会社は東京、名古屋、大阪にあり、その3社で日本全国を網羅しています。
- 東京中小企業投資育成株式会社
営業エリア:新潟、長野、静岡以東の18都道府県 - 大阪中小企業投資育成株式会社
営業エリア:福井、滋賀、奈良、和歌山以西の24府県 - 名古屋中小企業投資育成株式会社
営業エリア:愛知、岐阜、三重、石川、富山の5県
2018年3月までに3社合計で5345社・2456億円の投資をしており、現在も投資している企業は2611社で、投資残高は878億円となっています。そのうち株式公開をしているのは211社となっています。
対象となる事業者
投資育成会社により出資を受けられるのは、投資前の資本金が3億円以下の株式会社で、安定的な配当を維持できる企業です。すでに投資育成会社から出資を受けている企業は、資本金の額が3億円を超えている場合であっても追加出資を受けることができます。
対象業種は全業種となっており、設立間もない企業から上場直前の企業まで、企業の成長段階を問わずに出資を受けられるのが特徴です。
選定基準と審査項目
投資育成会社による出資先の選定条件として、以下の基準が設けられています。
- 事業が成長発展する見込みがあること
- 経営基盤の強化等の努力を行っていると認められること
また、これらの選定基準を判断する際には、以下の項目の審査が行われます。
- 経営者、経営管理層のマネジメント能力
- 設備、技術の優位性・独自性
- 事業の特徴、競争優位性及び成長性
- 営業・販売力
- 財務の健全性
- 収益力及び事業計画の実現可能性
- その他当該企業の審査に関して必要な事項
なお、会社設立時に出資を受けることも可能です。その場合はビジネスプランをもとに審査が行われます。
審査の難易度
採択率などのデータは公表されていませんが、選定基準は比較的厳しいとされています。このことは、公式ホームページに掲載されている投資先企業の声からも伺い知ることができます。
A社 (東証2部)
投資育成会社の審査は極めて厳しいもので、この審査に合格して資本参加を受けることは、並大抵のことではできなかった。
審査の厳しさと国策会社としての権威もあり、金融機関その他の信頼度も大いに高まったものである。
B社
投資育成会社を利用するためには、経営力、事業の将来性、競争優位性、営業・販売力などあらゆる面から審査され、出資を受けられるのは成長の見込みのある中小企業に限られている。このことから、当社が成長と発展を期待できる企業として客観的に認められたことになり、社会的な信用もさらに高まった。
(東京中小企業投資育成株式会社 | 投資先企業の声)
このように出資を受けるためのハードルは高いものの、出資を受けられると成長性と収益力を兼ね備えた会社であると認められ、対外的な知名度や信用度は高くなります。
申し込みの流れ
出資を受けるまでの流れは以下の通りとなっています。

申し込みから出資を受けるまでには、通常2〜3か月程度要するため、急ぎの場合は別途相談しましょう。
また、申込み方法は各投資育成会社によって異なりますので、詳しくは担当地域の窓口へ問い合わせしてください。
出資の方法
出資を受けるには、「株式の引き受け」と「新株予約権付社債の引き受け」の2つの方法があります。
いずれも出資の上限額は特に定めがなく、申し込み企業と相談の上で金額が決まります。ただし、総議決権の半分を超える株式の引き受けは行われません。
また、出資後の株式の保有期間なども特に定めておらず、企業経営の安定を目的に、長期にわたる保有を前提としています。
株式の引き受け
設立または増資の際に、発行済み株式の50%以内の範囲で株式の引き受けが行われます。株式の引受価額は、1株あたりの予想利益をもとに算出します。
以下が株式の引き受け内容になります。
・引受株式…貴社の発行する普通株式・種類株式を引き受けます。
・引受価額…1株当たりの予想利益をもとに、企業の将来性を総合的に判断して評価します(原則)
持株比率…増資後の議決権総数の50%以内(原則)でご相談に応じます。
(東京中小企業投資育成株式会社 | 投資の種類)
前述のとおり、持株比率は相談のうえで決められ、株式の保有期間なども特に定められていません。ただし、創業期投資・設立投資の場合を除いて、出資を受けた後の配当については安定的に行うことが求められています。
新株予約権付社債の引き受け
株式の引き受けと同様に、持株比率50%以内となる範囲内で引き受けが行われます。行使価額は株式の引受価額と同様の方法で算出します。
以下が新株予約権付社債の引き受け内容になります。
新株予約権の行使価額…株式の引受価額と同様の方式で算出いたします。 引受限度…新株予約権をすべて行使したとした場合の議決権総数の50%以内。
※新株予約権のみの引受も可能です。
(東京中小企業投資育成株式会社 | 投資の種類)
なお利率については、民間の金融機関が、企業に対して資金を1年以上貸し付ける際に用いられる貸出金利の「長期プライムレート」を基準に決定します。
出資を受けるメリット
投資育成会社は、中小企業の自己資本の充実を支援する機関です。もともと投資と育成で中小企業の健全な成長をバックアップするというスタンスであるため、出資を受けることで、さまざまなメリットを享受することができます。
自己資本比率が改善される
返済義務のない自己資本の出資を受けることで、自己資本比率が改善されます。そのため、会社の信用力も高まり、健全な成長が期待できます。なお増資資金は、担保が不要な長期安定資金として活用することができます。
企業育成支援を受けられる
資金面以外にも、経営相談やコンサルティング、セミナー、人材育成のプラグラムの受講など、企業育成支援を受けることができます。
また、異業種交流の場なども設けられており、情報交換や人脈づくりなど経営に役立てることができます。
株式の上場を目指すことができる
資本戦略をはじめ内部管理体制の整備のほか、証券代行機関や専門的人材の紹介など、上場準備の総合的なサポートを受けることができます。上場後も、安定株主としてのサポートが期待できます。
なお、上場することは義務付けられていないため、具体的な上場計画がない場合でも、選定基準をクリアできれば出資の対象となります。
事業承継を円滑に進めることができる
経営の承継などに困っている経営者にとっては、事業承継に関する幅広い支援を受けることができるのもメリットといえます。後継者育成に特化したセミナーや相互交流会をはじめ、豊富なメニューで後継者教育のサポートを受けられ、事業承継を円滑に進めることができます。
また、投資育成会社が引き受けた持分比率だけ、自社株の評価を下げることができます。そのため、後継者の株式買い取り負担を軽減することができるというメリットもあります。
出資を受けても経営権は安定
投資育成会社が安定株主となることで、経営の安定化を図ることができます。また、現経営陣の経営判断を尊重するという投資スタンスのため、経営権を安定させたまま、企業経営を続けることができます。
申し込み時の注意点
投資育成会社は、出資を受けたあとに以下の3点を守ることを事業者に求めています。
- 定時株主総会の開催前に決算内容について説明すること
- 安定的に配当を出すこと(早期に株式公開を目指す企業を除く)
- 投資育成会社が保有する株式を譲渡するときには、同族以外も相手先に含めること
おわりに
投資育成会社は、投資先企業の経営の自主性を尊重することが、出資のスタンスとなっています。そのため、一般の投資家やベンチャーキャピタルから出資を受けるよりも、自由度の高い経営を続けることができます。
また、創業時期を問わずに投資を行っているため、創業から年数を重ねた企業でも出資を受けられるチャンスがあります。
ただし、国が監督している機関ということもあり、審査は比較的厳しくなっています。また、書類作成や準備に手間もかかります。
そのため、資金調達について検討するときは、他の方法もあわせて検討することをおすすめします。
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