行方不明の父親への貸付金を貸倒処理したい
法人ですが、父親に貸し付けを行いましたがそのまま持ち逃げされました。
以来、10年以上貸付金を計上しておりますが、そろそろ貸倒損失を計上しようかと考えております。父親は現在失踪しており生きているかどうかも不明です。
貸倒が認められる場合は、支払い能力がない、できないことが公にならないとだめと聞いたのですが、この場合、裁判所等で行方不明が証明されれば貸倒損失を計上することが可能になるのでしょうか。
お手数お掛け致しますが、ご教授の程宜しくお願い致します。
税理士の回答

小川真文
判例によれば、貸し倒れ損失を損金算入する要件としては全額が回収不能であることが客観的に明らかでなくてはなりませんが、その判断は債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情のみだけでなく、債権者から見た債権の回収に必要な労力や債権額と取立費用の比較衡量など債権者側の事情、経済環境等も踏まえて社会通念に従って総合的に判断すべきだと判示されています。
この判例から相談者の事情を考慮して考えた場合
① 弁済時期が来ていること
10年以上貸付金を計上して返済期限を長期間途過しており、また明らかに債務弁済能力もないと言えます。
② 債務者が支払いに応じない
債務者はすでに行方不明であり、所有財産もないことが調べにより判明しているので回収不能は明らかです。
③ 回収努力
父親発見のため警察への通報等いろいろ手を尽くして探したが発見できず、債権回収のために十分な努力をすでにしています。
④ 回収努力を継続する経済的合理性
長期間行方不明の父親を探す手立てが事実上ないこと。また、お金をかけても発見できるかどうかわからないし、たとえ発見できてもお金を回収できる可能性が極めて低いことから、これ以上の努力は経済的合理性がないといえます。
以上の内容について、捜索願いや郵便物の返戻状況、父親の居所等の写真、貸付発生から支払状況及び父親の資産状況等を示す書類を収集存することで貸し倒れ処理が認められると考えます。
また法人税基本通達において、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額について、貸倒損失の計上が認められる旨が示されています。ですが債務者が行方不明である場合、内容証明郵便が返送されてしまい、相手先に到達しないため、相手方の支配圏内に置かれたとはいえず、通達の要件を欠くのではないかとの疑念が生じます。その場合には民法の「公示による意思表示」という制度を利用する方法が考えられます。官報掲載または区役所掲示より2週間で意思表示の効力が発生するとされるもので、裁判所が到達証明書を発行します。申請時には裁判所に相手方の所在についての調査報告書を提出する必要があります。
なお失踪宣告とは生死不明の者に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。利害関係人(不在者の配偶者,相続人にあたる者,財産管理人,受遺者など失踪宣告を求めるについての法律上の利害関係を有する者)が不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所に申し立てる制度です。この失踪宣告については、対象者の生死が不明になってから7年間が満了したときに死亡したものとみなされ、失踪者についての相続が開始されます。そうなると生死不明者の財産は相続人に引き継がれます。 ただし相続人はすべての財産を引き継ぐので、生死不明者の借金(負債)も引き継ぎます。ですから失踪者が父親の場合には相続関係が複雑になりかねません(相続人が法人の貸付金の債務者となる)ので、貸倒処理が目的であれば前者の方法をお勧めします。
本投稿は、2024年05月22日 11時32分公開時点の情報です。 投稿内容については、ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。