生計同一の同居父親が生活費を直接負担し、社会人の子供の貯金が高額だと、贈与・相続税で課税されますか?
生活費(贈与)非課税に関する国税庁の規定で「通常必要と認められるものとは、需要と資力などの事情を勘案した社会通念上適当と認められるもの」とあります。
3人の生計同一の同居家族(父・母・子)において、父が3人全員の生活費(家賃や光熱費・食費など)の大部分を直接負担(口座振替)しているとします。
子供には一切資金を渡しておらず、子供の財産は子供自身の給与から形成されたものですが、親が生活費を負担すると、親の財産が減るスピードが早まる分、子供の貯蓄スピードは高まり、間接的とはいえ財産移転に繋がります。
父よりも、子供の方が高額な給与収入や貯金があるにも関わらず、子供が一部の生活費しか負担していない場合(=子供は家族3人全員分の生活費を全額払える資力はあるが、あえて父が直接負担している場合)、国税庁の規定に抵触する(贈与税や相続税の問題が発生する)可能性はありますか?
★「生活費をあげます&貰います」という形では無く、「同居の父が、家族分の生活費を直接負担している」形ですが、その父の負担分(年間110万を超える分)が「子供の利益」と見なされ、「贈与の扱い(=上記規定の影響を受ける)」でしょうか?
税理士の回答
良波嘉男
ご質問のケースでは、父が家族全員の生活費を直接負担していても、通常は「贈与税の対象」にはなりません。
理由は次のとおりです。
1. 同一生計における生活費負担は、贈与税の非課税(国税庁通達)
国税庁タックスアンサー No.4425
「扶養義務者から通常必要な生活費または教育費として支払われるものは、贈与税の対象外」
ここでの 扶養義務者 には
夫婦
親子
直系血族
が含まれます。
つまり、親が同居家族の生活費を出すことは“贈与ではない” と明確に規定されています。
2. 子供の貯金が増えても、それは“間接的な利益”であり課税対象ではない
ご質問のように「父が生活費を負担する → 子供の貯金が増える」
これはよくあるケースですが、税務上は 間接的利益=贈与 とは扱いません。
国税庁は生活費負担について、
実際に金銭を渡していない
生活費が通常範囲内
であれば 子の資産増加は問題視しません。
3. 子供の収入が父より高いかどうかは無関係
「本来子供が払えるのに父が払っている」という点については、
贈与税の判断基準にはなりません。
税法は
“資力の有無ではなく、誰が負担したか・内容が通常の生活費か”で判断します。
これは国税庁の「通常必要と認められる生活費であれば非課税」
という取扱いに適合します。
4. 年間110万円を超える生活費負担でも問題なし
生活費の贈与非課税は110万円の基礎控除とは別枠です。
つまり、父 → 子へ生活費支払いが年間200万円でも300万円でも、生活費として通常の範囲なら贈与税は非課税のままです。
三嶋政美
ご質問のケースで「父が家族全員の生活費を直接負担していること」が直ちに贈与税の対象となる可能性は低いと考えられます。
国税庁が示す「通常必要と認められる生活費・教育費」は、実際の需要と家族の資力を踏まえ、社会通念上、親が家族の生活費を負担するのは一般的であるとの前提で解釈されます。子が高収入であっても、同居家族の生活費を親が負担すること自体は珍しくなく、その支出は「親自身の生活費を含む共同生活の支出」と理解されます。
また、ポイントは「子の財産が増えるために、父が意図して資金移転しているか」です。今回のように、父が生活費を直接支払い、子への資金移転も行っていない場合、税務上は子へ贈与したという構図が成立しにくく、110万円の贈与枠と結びつくものではありません。
結論として、父の生活費負担が子の利益とみなされ、贈与税の対象となる可能性は通常ありません。
大変分かりやすいご回答ありがとうございます。念のため1点だけ確認させて下さい。
「(生計一の)同居の父が、家族分の生活費を直接負担(口座振替)する行為」は、あくまで子供は「間接的利益」を受けているだけで、そもそも「贈与に当てはまらない」という理解で宜しいでしょうか?
「通常必要と認められる生活費であれば非課税」に関して、税務署の総合的な判断によっては、たとえ扶養義務者間であっても、「扶養の必要性」が無ければ(子供に十分な資産があれば)、単なる節税対策と見なされ、相続時の税務調査で否認されると聞きました。
ただ今回は、生計一の同居父が直接負担(口座振替)している以上、そもそも贈与の範疇では無いので、「通常必要と認められる生活費」にあたるか否かは、常識的な範囲・負担なら原則気にしなくて良いという理解で宜しいですか?
良波嘉男
三島先生、私のほうで回答しちゃいますね。
相談者様へ
結論としては、同居の父が家族分の生活費を直接負担(口座振替)しているだけであれば、子供は“間接的利益”を受けているにすぎず、そもそも「贈与」に該当しません。
これは税務署の判断とは関係なく、
税法上も通達上も明確な扱いです。
1.「生活費の直接負担」は贈与に該当しない(そもそも論)
国税庁タックスアンサー No.4425 では、
扶養義務者(親子)が生計を一にしている場合、「通常必要な生活費や教育費として支払われるものは、贈与税の対象としない」
と明記されています。
ここでいう「支払われるもの」とは、“子の口座に振り込むこと”に限らず、“親が直接生活費を負担すること”も含まれます。
つまり、生活費を親の口座から払う子に現金を渡していない、支出目的は日常生活費であるという条件がそろっている場合、子に対する贈与という構図が成立しません。
子供の貯金が増えるのは「間接的に恩恵があっただけ」で、税務上の贈与には当たりません。
2.「扶養の必要性がないと否認される」は別の話となります。
ご質問にある
「扶養の必要性が無ければ否認される」
これは、一部の税理士が紹介する“生活費を逸脱した過度な支援”のケース です。
例えば:
年間数百万円を明らかに過剰に子へ援助
生活費名目で高級車・高級家具を買い与える
子が別居しているのに生活費名目で資金移転
明らかに相続税対策として計画的に多額資金を移動
こうした場合、「生活費の範囲外」になるため否認され得ます。
しかし、今回のように
同居
生計同一
日常生活費の支払い
家族分の生活費を父が払っているだけ
子供は生活費を“支払っていないだけ”
これは全く別の話です。
税務署もこのパターンを贈与扱いにすることはありません。
3.「通常必要な生活費に当たるかどうか」は常識基準で十分
ご質問の理解の通りで問題ありません。
家賃
光熱費
食費
日常生活に必要な支出
これらが“父がまとめて払っているだけ”なら、非課税対象の典型例です。
つまり、
「通常必要な生活費に当たるかどうか」を過度に懸念する必要はないという理解で正しいです。
常識的な範囲の生活費で、贈与税を心配する必要は全くありません。
本投稿は、2025年11月21日 12時02分公開時点の情報です。 投稿内容については、ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。







