勤務医の節税には「特定支出控除」が有効!

医師などの専門職の方、なかでも勤務医の方は、医学書などの書籍の購入費、学会や講演会への参加費用、資格取得に伴う取得費用など、1年間に使った額を合計してみたら数十万、数百万円も自腹で出費をしていた!なんて経験もあるかと思います。
こういった出費は個人事業主(自営業)と違って、勤務医は経費にならないため、不公平だと憤る方もいるかもしれませんが、実はそうではありません。勤務医など給与所得者の場合は「給与所得控除」という名目で、所得控除を受けており、これは自営業の方でいう経費と同じようなものなのです。
さらに特定支出控除という制度があり、この控除を受けられる要件を満たせば、さらに所得を抑えることができ、納める税金を減らすことができます。このページでは、この「特定支出控除」について解説致します。
目次
税金は課税所得を元に計算される
所得税や住民税、社会保険料などは課税所得を元に決定されます。ですから同じ年収でも納める税金の額が違う、ということはよくあります。
勤務医の節税に有効な「特定支出控除」の話に入る前に、それぞれの言葉の定義についておさらいをしておきます。
定義 | |
---|---|
収入 | ある期間にその人が得た全ての金銭等 (所得税などの税金、保険料等を引く前の合計金額) |
年収 | 1年間の収入 |
所得 | 年収 から 経費 を差し引いたもの |
課税所得 | 課税される対象の所得(所得から所得控除を引いた金額) |
所得控除 | 基礎控除、扶養控除、社会保険料控除、医療費控除など |
自営業でいうところの経費「給与所得控除」
勤務医などの給与所得者は、年末に会社からもらう源泉徴収票に「給与所得控除」という項目で、所得から数十万円~数百万円引かれているのを見たことがあると思います。
これは、自営業者でいう必要経費の代わりに設けられている制度で、給与所得控除として給与所得者の年収の一部を税金計算の対象とせずに税金を免除する仕組みです。
給与所得控除額(令和2年分以降)
給与所得控除は、自営業者の必要経費に該当する部分ではありますが、実費を控除するわけではありません。
控除の金額は、次の表のように給与等の収入金額に応じて決定されます。
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
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162万5000円まで | 55万円 |
162万5001円から180万円まで | 収入金額 × 40% − 10万円 |
180万1円から360万円まで | 収入金額 × 30% + 8万円 |
360万1円から660万円まで | 収入金額 × 20% + 44万円 |
660万1円から850万円まで | 収入金額 × 10% + 110万円 |
850万1円以上 | 195万円(上限) |
給与所得控除は、年末調整されていればすでに適用されている状態なので、自身での手続きは不要です。
年末調整が行われていない場合や、会社の年末調整時に適用されていない控除(医療費控除等)がある場合、給与が年間2000万円を超えるときは、自分で確定申告をする必要があります。
自腹出費が多ければ「特定支出控除」が使える
給与所得控除は、職種や雇用状態に関わらず、収入に応じた額が控除されます。
しかし、勤務医や専門職の方などは、高額な医学書を購入したり、学会出席のための出費が数十万円になったりと、他の給与所得者よりも経費の出費が多い場合があり、給与所得控除だけではまかないきれない部分があります。
給与所得控除は、職種や雇用状態に関わらず収入に応じた額が控除されるので、自営業者と比べて年収から差し引ける対象が狭いと、不公平感を覚える給与所得者は少なくありません。
そして、こういった部分を補うために「特定支出控除」という制度が設けられています。
次の「特定支出控除額の適用判定の基準となる金額」を超えるときに、超えた金額を給与等の収入金額から差し引くことができます。
その年中の給与等の収入金額 | 特定支出控除額の適用判定の基準となる金額 |
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一律 | その年中の給与所得控除額 × 1/2 |
特定支出控除の対象となる支出
個人で負担したすべての支出が対象となるわけではありません。次のいずれかに該当する支出のみが対象となります。もちろん、自腹で負担した費用に限ります。
- 通勤費:一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出 高速道路料金やガソリン代なども該当します。グリーン車の料金など通常必要であると認められない場合は対象外です。
- 転居費:転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出 転勤のために引っ越しをした場合は、その引っ越しにかかった費用などが該当します。自己都合のときは該当しません。
- 研修費:職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出 学会などへの参加費、宿泊費や交通費も含まれます。
- 資格取得費:職務に直接必要な資格を取得するための支出(弁護士・公認会計士・税理士などの資格取得費も対象)
勤務先から業務上の理由で、資格取得を命じられた場合にかかった資格取得費用、受験料・更新料が該当します。 - 帰宅旅費:単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出
転勤で家族との別居(単身赴任)を余儀なくされた場合に、家族が住む自宅へ帰省する際の費用が該当します。 - 勤務必要経費:次に掲げる支出で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がされたもの。その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります。
(1) 図書費:書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用
(2) 衣服費:制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用
(3) 交際費等:交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出
さらに、1~6が実際に職務に関係する出費がどうかを勤務先に証明してもらう必要があります。国税庁HPから該当する証明書を印刷し、記載してもらいましょう。
特定支出控除の計算例
特定支出控除の適用要件を要約すると、ある特定の支出が1年間にその年中の給与所得控除額の2分の1を超えるときに、その超えた部分を給与所得から引くことができるということです。
たとえば、年収500万円の人であれば、「500万円 × 20% + 44万円 = 144万円」が給与所得控除額となります。この額の半分、つまり72万円を超える特定支出があれば、その超えた分を差し引くことができるということです。
上記の例で、1年間で「資格取得のために購入した参考書」「学会への参加費」「兼業中の他のクリニックへの通勤費」の合計が100万円だった。ということであれば、「72万円 − 100万円 = ▲28万円」で28万円が特定支出控除額となります。
特定支出控除の手続き
勤務先で行う年末調整では、特定支出控除は含まれていないため、特定支出控除を受けるには、自ら確定申告をする必要があります。
確定申告書に特定支出控除の適用を受ける旨とその合計金額を記載し、次の3つの書類を一緒に提出します。
- 特定支出に関する証明書(勤務先で記入をしてもらう)
- 特定支出を証明する明細書(領収書など)
- 源泉徴収票(年末に会社からもらう)
医療費控除など、その他にも控除がある場合は忘れずに記載しましょう。
おわりに
特定支出控除やその他控除の適用ができるにも関わらず適切な手続きを行わない場合、課税所得が多くなってしまい、本来支払うべき税金よりも多く払いすぎた、ということになってしまいます。
もし、確定申告の際にこれらの控除を忘れてしまっても、あとから還付申告(更正の請求手続き)をすることができますので、安心してください。
なお、本記事で解説したのはあくまで一例ですので、特定支出控除に当てはまるか判断に迷った際は税理士に相談してみましょう。税理士をお探しの方は「税理士紹介サービス」をご利用ください。