本の出版と朗読会
個人事業主です。本を出版し、フランス料理コース付き会費制の朗読会を実施します。
出版費用は私個人の経費ですが、朗読会は共同事業の売上としたいです。大丈夫でしょうか?私とお客様の食事代は会議費、共同経営者には交際費として食事を提供する予定です。
この処理で大丈夫でしょうか?
税理士の回答
荒川直宙
結論から申し上げますと、ご提示いただいた処理のままでは税務調査で経費を否認されるリスクが高いため、見直しをお勧めいたします。
主な問題点は「売上の帰属(誰の事業の売上か)」と「勘定科目の選び方」の2点にあります。税務上の注意点と正しい処理の考え方を解説いたします。
【1】売上の帰属と経費の対応関係
本のご出版費用が「個人の経費」であるにもかかわらず、その本に関連する朗読会の売上だけを「共同事業」とする場合、売上と経費の対応関係が崩れ、恣意的と見られるおそれがあります(所得税法12条の「実質所得者課税の原則」)。
売上を共同事業とするためには、共同事業側がイベントの企画・集客・運営を担っているといった客観的な実態が必要です。実態や業務分担の記録がない場合は、ご自身の個人の売上として申告するのが安全です。
【2】勘定科目の考え方
◆ お客様の食事代
会費をいただいてフランス料理等を提供するイベントの場合、お客様の食事代は「会議費」や「交際費」には該当しません。会費(売上)を得るための直接的なコストにあたるため、「売上原価」や「イベント開催費」などの科目で処理するのが正しい形です。
◆ 主催者(ご自身)の食事代
同席の必要性(進行、接客、朗読の合間の交流など)を、当日のプログラムや記録で説明できる場合は「イベント開催費」等として処理できます。説明できない分は、事業主貸(私的支出)として処理する方が安全です。
◆ 共同経営者の食事代
共同経営者の方が招待客として参加する場合、事業関連性が説明できれば交際費の余地があります。ただし、事業上の目的を示す記録がないと、私的な食事とみなされるおそれがあります。
【3】具体的なアクションプラン
① 朗読会の売上を「個人」とするか「共同事業」とするか、実態に合わせて統一する(共同事業とする場合は運営分担の契約や議事録を残す)。
② 会費制イベントの食事代は、会議費や交際費ではなく「売上原価」または「イベント開催費」として集計する。
③ 当日のプログラム、参加者名簿、進行記録、会費の入金記録などを必ず保管しておく。
少しでもお役に立てましたら、ベストアンサーに選んでいただけますと幸いです。
共同事業側がイベントの企画・集客・運営を担っているといった客観的な実態
とは具体的にどのようなことでしょうか?
荒川直宙
共同事業側が「企画・集客・運営を担っている客観的な実態」とは、万が一税務調査が入った際に「これはあなた個人の単独イベントではなく、共同パートナーと一緒に事業として開催したイベントである」と、第三者(税務署)が納得できる証拠(記録やお金の動き)がそろっている状態を指します。
具体的には、以下の4つの面から実態を証明できるようにしておく必要があります。
【A】企画(準備段階)の客観的実態
イベントのコンセプト、会費の金額設定、フランス料理のコース内容などを、あなた一人で決めるのではなく共同パートナーと協議して決定したことがわかる記録(チャットの履歴、メールのやり取り、打ち合わせの議事録など)が残っていること。
【B】集客(対外的なアピール)の客観的実態
イベントの告知ページ、チラシ、SNSなどにおいて、主催者として「共同事業の屋号」や「お二人の連名」が明記されていること。あなた個人の名前だけが主催者として出ていると、個人の売上とみなされやすくなります(所得は実質的な帰属者に課税される、実質所得者課税の原則。所得税法12条)。パートナー側も自身のネットワークを使って集客活動を行っていることも重要です。
【C】運営・資金決済(お金の動き)の客観的実態
参加者からの会費の受取口座や、会場(レストラン)への支払い元が、共同事業用に設けた口座などで管理されていること。また、会場の予約や契約を共同事業名義(あるいは連名)で行っていること。もしイベントが赤字になった場合、あなた一人ではなくパートナーも損失を負担する(リスクを共有している)取り決めになっているかどうかも重要な判断基準になります。なお、出版費用が個人負担のままであれば共同事業の経費にはならず、共同事業の経費とするには、その費用を共同事業側が負担する明確な取り決めが必要です。
【D】契約関係の客観的実態
お二人の間で「共同事業契約書(任意組合契約など)」または今回のイベントに関する「共同開催協定書」を交わしていること。この書面の中に、お互いの役割分担や、売上から経費(食事代等の原価)を引いた利益や赤字をどのような割合で分配するかが明記されていることが、最も強力な証拠となります。契約書は開催前に締結し、事後作成や日付の遡及は避けてください。
さらに、取り決めた割合での利益の分配がパートナーの口座に実際に支払われ、パートナーも自身の確定申告にその所得を含めていることが、実態を証明する最も明確な裏付けとなります。
要するに、パートナーが単なる名前貸しや当日のお客様扱いではなく、共に事業のリスクを負い、手を動かしてイベントを作り上げたという「足跡」を書面やデータで残しておくことが「客観的な実態」となります。
少しでもお役に立てましたら、ベストアンサーに選んでいただけますと幸いです。
ご丁寧にありがとうございます。
共同口座や共同事業契約書、議事録を整えてからにしたいと思います。
それさえクリアすれば、「本の売上や製作費は個人」「朗読会は共同事業」と線引きしても良いですか?
荒川直宙
実態が伴っていれば、「本の出版・制作=個人事業」、「朗読会=共同事業」と分けて処理することは可能です。
本投稿は、2026年10月08日 12時51分公開時点の情報です。 投稿内容については、ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。







