民法上の所有権移転時期や税法上の権利確定時期について
1 現金主義を選択するために、青色申告の届出など厳格な要件を定めているのはなぜですか?
2 収益認識の時期の誤りのみを理由に更正の請求を行うことは可能ですか?
3税法上の権利確定時期について、管理支配基準を使って判断するには、どのような要件を満たすことが考えられますか?
税理士の回答
良波嘉男
現金主義を選択するために、青色申告など厳格な要件がある理由
結論としては、
「現金主義は制度として脱税に利用されやすく、利益操作が可能になるため、適用者を限定する必要がある」という税務上の安全配慮が理由です。
現金主義を認めると、
売掛金を回収しない限り収入に計上されない
未払費用を払わなければ経費にならない
つまり、意図的に回収・支払いを遅らせることで、任意に利益を動かせてしまうという構造になります。
そのため税法は、
事業規模が小さい人(基準期間300万円以下の小規模者)
青色申告で帳簿がきちんとしている人
このように対象を絞り、「現金主義でも税務リスクが低い人だけが使える」仕組みにしています。
(所得税法第67条の2)
2.収益認識の時期の誤りだけを理由に更正の請求は可能?
結論
可能です。
更正の請求は「法令の解釈を誤り納税額が過大になっている場合」
に認められるため、収益認識時期の誤り(例えば本来翌期計上すべきものを当期計上していた等)も請求理由になります。
ただし注意点として
誤りが“単なる処理ミス”ではなく、“税務上の正しい時期”に基づく必要
複数年に跨って利益調整となるケースは、税務署が慎重に見てくる
証拠資料(契約書・請求書・検収書)が必須
根拠:国税通則法23条1項(更正の請求)
3.税法上の権利確定時期で「管理支配基準」を使うには何が必要?
管理支配基準とは、「商品が買主の支配下に移った時点を収益計上時期とする」という考え方で、民法の“所有権移転時期”とは必ずしも一致しません。
税務上、管理支配基準が使えるための要件としては
① 目的物が買主へ引き渡され、実質的に使用可能な状態
→ 納品・検収・設置完了など、単に契約しただけでは不十分。
② 危険負担が買主に移っている
→ 壊れた場合の責任が買主側になる状態。
③ 対価がほぼ確定している
→ 最終的な金額が固まっていること(追加工事等がない)。
④ 契約形態よりも「実態」で収益が確定していること
→ 形式的に所有権留保があっても、現場は買主が使用している等。
要するに、「実質的に買主側の管理下にあり、売主の支配を離れた時点」
が権利確定のポイントとなります。
根拠:法人税基本通達2-1-2、2-1-3 等(権利確定主義・管理支配基準)
本投稿は、2025年11月07日 16時42分公開時点の情報です。 投稿内容については、ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。






