【万が一の備えに】災害時に利用することができる「災害復旧貸付」制度とは

2018年の夏は大雨や地震、台風など様々な災害が発生しました。災害時はまず自分の身を守ることを最優先に行動すべきですが、その後は事業の早期復旧に当たらなくてはならないと思います。
しかし、万が一災害によって工場や店舗が被災した場合、事業を復旧するために設備資金や当面の運転資金が新たに必要となることが考えられます。そのような場合には、国・自治体・金融機関などから様々な支援策が用意されることになっています。
この記事では、「災害復旧貸付」を例にその支援内容や手続きなどについて紹介します。
目次
災害復旧貸付とは
災害復旧貸付とは、日本政策金融公庫(国民生活事業・中小企業事業)、商工組合中央金庫(以下、商工中金とします)が、災害により被害を受けた事業者に対して低利率で事業復旧のための融資を行う制度です。
国が財政援助・復興支援を行うことを定めた、災害救助法または激甚災害法が適用されるような災害発生時に、災害復旧貸付制度を利用することができます。2018年には、北海道胆振東部地震、西日本豪雨、大阪北部地震などの災害で災害救助法や激甚災害法が適用され、多くの企業が災害復旧貸付を利用し、事業の復旧を進めています。
具体的な支援内容や金利
災害復旧貸付制度は政府系金融機関である日本政策金融公庫と商工中金その他によって提供されており、制度を利用できる人と資金の使いみちはほぼ共通となっています。ただし、金利や返済期間、融資限度額については日本政策金融公庫と商工中金で異なっています。
利用できる人
利用できるのは、災害により直接被害を受けた人と間接的な被害を受けた人となっています。間接的な被害とは、例えば取引先が災害で直接被害を被ったため部品が調達できず売上が減少した、などという場合です。
資金の使いみち
資金の使いみちは、災害復旧のために必要な運転資金および設備資金に限定されます。具体的には被災した店舗を建て直すための資金、営業を再開するまでの期間中の従業員の給料などが挙げられます。
日本政策金融公庫(国民生活事業)の場合
日本政策金融公庫では、個人・小規模事業者向けにサービスを展開する国民生活事業と中小企業向けに展開する中小企業事業に分かれて災害関連の融資を行っています。このうち国民生活事業では、災害貸付という名称で支援を行っています。
融資限度額は、通常時扱っている各融資制度に限度額3000万円を上乗せする形で融資を受けることができます。一般的によく利用される普通貸付を例にすると、普通貸付の融資限度額が4800万円であるため、7800万円まで融資を受けることができます。
返済期間は、各融資制度で定められた返済期間内となっています。普通貸付を例にすると返済期間は10年以内になります。また、元本の返済をせず金利のみの返済ができる据置期間が、通常時1年以内のところ、災害貸付の場合は2年間に延長されます。
金利は、基準利率(2018年10月11日現在で1.31~1.90%)となっています。ただし、災害の被害の大きさによっては、さらに優遇を受けられる場合があります。実際に西日本豪雨では、融資後3年間の利率が0.9%引き下げとなりました。
担保条件に関しては、税務申告を2期以上行っている人は無担保・無保証での融資が可能となっています。
日本政策金融公庫(中小企業事業)の場合
日本政策金融公庫の中小企業事業では災害復旧貸付という名称の災害時の融資制度が設けられています。直接支店で貸付を申し込む場合、1億5000万円までの融資が可能です。
担保条件についても弾力的な対応を行うことになっています。具体的には、個人保証を免除する保証人免除特例や、定期的な業務報告など一定の約束を守ることを条件に個人保証を免除する保証人猶予特例などが利用できます。
返済期間は、設備資金の場合15年以内、運転資金が10年以内となっています。また、国民生活事業と同様に据置期間が設定されており、2年間は利息のみの返済が可能となっています。
利率は、基準利率(2018年10月11日現在は、9年超10年以内で1.12%)となっています。ただし、優遇措置が実施される場合があり、西日本豪雨では国民生活事業同様、融資後3年間の利率が0.9%引き下げとなりました。
商工中金の場合
商工中金では、災害復旧資金という名称の融資制度が設けられています。この制度の特徴として限度額の定めがないことが挙げられ、日本政策金融公庫の災害貸付や災害復旧貸付より多くの資金を必要とする場合の利用が検討されます。
ただし、商工中金の場合、融資を受ける際に商工組合などに所属している必要があります。また、商工中金の場合、資金の90%を自己調達しているため、全額国が出資している日本政策金融公庫と比較すると、融資審査が厳しい可能性があります。
返済期間に関しては、運転資金の場合10年以内、設備資金の場合20年以内となっています。また、据置期間が3年となっていて、安定した返済計画を立てることが可能です。利率は相談の上で決定となっており、融資額や担保条件など様々な条件を考慮して決まります。
さらに、すでに商工中金からの融資を受けている場合の返済猶予についても、個々の事業者の状況に応じて、柔軟な対応が受けられるようです。
3つの災害復旧貸付制度を比較
これらの3つの融資制度をまとめたのが下の表になります。いずれの融資制度も据置期間の設定や他の民間金融機関と比較して低金利なため、有利な条件での資金調達が可能です。
日本政策金融公庫 (国民生活事業) | 日本政策金融公庫 (中小企業事業) | 商工中金 | |
---|---|---|---|
融資限度額 | 各融資制度の限度額に1災害あたり上乗せ3000万円 | 直接貸付の場合は別枠で1億5000万円 代理貸付の場合は別枠で7500万円 | 限度額の定めは特になし |
返済期間 | 各融資制度に定められた返済期間以内 | 設備資金の場合15年以内 運転資金の場合10年以内 | 運転資金の場合10年以内 設備資金の場合20年以内 |
利率 | 基準利率 (1.31~1.90%/2018年10月11日現在) | 基準利率 (9年超10年以内で1.12%/2018年10月11日現在) | 相談の上決定 |
メリット | 無担保・無保証での融資が可能。 | 融資限度額が国民生活事業より大きい。 | 既に取引のある場合、柔軟な対応。 据置期間が長い。 |
デメリット | 融資限度額が低い。 | 担保や保証人が必要。(ただし優遇措置あり) | 条件や審査が厳しい場合もある。 |
注意が必要なのは、3つの融資制度を併用して融資を受けることはできないということ。それぞれの融資制度の条件や必要とする資金額などを比較して、ニーズにあった制度を選択しましょう。
具体的には、必要資金額が大きい場合は日本政策金融公庫(中小企業事業)や商工中金を、無担保で融資を受けたい場合は、日本政策金融公庫(国民生活事業)、商工組合の会員または既に商工中金と取引がある場合は商工中金を選ぶと良いでしょう。
手続き方法
日本政策金融公庫国民生活事業を例に紹介すると、災害貸付の場合でも基本的には平時の申込時と同じ書類および手続きとなります。
ただし、被災状況によっては融資の際に必要な書類が揃わない場合もあるため、ヒアリングなどを通じて融資を検討していくという柔軟な対応が取られます。
また、災害発生後は日本政策金融公庫や商工組合中央金庫では、各支店や電話での相談窓口が設けられます。疑問点に思うことがあれば相談窓口で相談してみるとよいでしょう。
被災証明書を用意すること
これらの制度では被災証明書が融資を受ける上での必要書類となっていたり、提出することで金利や限度額などの優遇を受けられるようになっています。
被災証明書は、り災証明書とは異なるものです。り災証明書は居住する住居の被害を証明するものであり、被災証明書は家財や工場、店舗など、居住する住居以外のものの被災を証明するものです。
被災証明書は被災した事実を証明するもの、具体的には被災した店舗や工場の写真(浸水した場合はどこまで浸水したかわかる写真)を用意し、市役所の窓口で申請すると取得できます。そのため、工場や機械、店舗の片付けをする前に、被災状況を写真で記録に残しておきましょう。
実際の災害での支援例
これらの制度は実際にどのように活用されたのでしょうか。2年前に発生した熊本地震の際に、日本政策金融公庫が行った支援例を紹介します。
日本料理店の場合
日本料理店では地震により店舗が大規模半壊したため、休業状態になっていました。店舗建て替え資金は地元の金融機関から調達できたものも、事業再開や建て替え期間中の従業員の雇用維持のための運転資金が必要になったため、この貸付制度を利用して資金を調達することができました。
花のハウス栽培を行っている会社の場合
カーネーションのハウス栽培を行っていた会社では、カーネーションの出荷が最盛期を迎えていたところ地震により地割れが発生したため、出荷減となりました。そのため、この制度を利用して緊急的に必要となった運転資金を調達することができ、当面の出荷ができるようになりました。
スーパーの場合
熊本県内で22店舗を展開するスーパーでは、地震のため店舗・工場で被害を受けました。この制度を利用して、当面の資金繰りに必要な運転資金および被災店舗の修繕のための設備資金を調達しました。その結果、地震から2週間後には全店をオープンさせることができました。
おわりに
災害で被災された中小企業に対して、復旧資金を融資してもらえる「災害復旧貸付制度」は、いざというときに頼りになる、ぜひ知っておきたい制度です。これらの制度は通常時と比較して低金利、返済期間の優遇など柔軟な融資が可能となっています。
しかも、直接被災していない場合でも災害によって間接的な被害を受けた場合でも利用することができます。
また、実際に災害が発生した場合は、その被害の大きさによっては、前述で紹介したように融資制度がさらに拡充される場合もあります。これらは、各政府系金融機関のホームページで情報収集することができます。
なお、これらの制度を利用して融資を受ける際も、場合によっては審査が通らない場合があります。また、被災証明書の準備も必要となることがあります。そのため、日本政策金融公庫や商工中金からの資金調達に精通した税理士に相談してみるとよいでしょう。
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