<法人税法>損金経理要件の定めがない費用を会計上費用にせずに損金にすることの可否
損金経理要件の定めがない費用は、公正処理基準を満たす限り、会計上費用にせずに損金にできるのでしょうか。
会計監査を伴わない中小企業の経営者です。会計上費用にしない債務確定した支出について、可能な限り申告調整で損金にしたいと考えています。「損金経理要件」をネット検索すると、償却費等の損金経理要件の定めがある費用を計上せずに損金に認められなかった事例の解説が色々と出てきます。そうすると、損金経理要件がない事項については、決算で費用にしていなくてもその会計処理が一般に公正妥当な会計処理の基準に反しない限り、別表4で減算していって差し支えないのでしょうか。
一方で、先生方ご存知の通り、法人税法第22条第3項が次の通り定められています。
内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
これは、別段の定めがあるものを除き、決算で費用にしないものを損金にできないことを意味しますでしょうか。そうだとすれば、損金経理要件の定めがあるのでしょうか。
そうだとすると、損金経理要件をわざわざ定めなくても、決算で費用になっていない販管費は別段の定めがあるものを除き損金として認められないことになり、償却費だから損金経理要件があるとか、そういう議論がいらなくなってしまうと思います。
損金経理要件の定めがない費用は、公正処理基準を満たす限り会計上費用にせずに損金にできるのでしょうか。
ご回答をお願いします。
参考過去相談事例(相談は参考になりますが回答は当てになりません)
https://www.zeiri4.com/c_1076/c_1024/q_23817/
税理士の回答

土師弘之
法人税法第22条第3項第2号に「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額」という規定があり、そのかっこ書で、「償却費以外は債務が確定している必要がある」としています。
これは「権利(債務)確定基準」といい、たとえ経理で計上していない収益や費用があっても、受け取る権利・支払い義務が既に確定しているなら益金や損金として算入するというものです。
したがって、損金経理要件がない事項については、決算で費用にしていなくても、債務が確定しているのであれば別表4で減算しても差し支えないということになります。
なお、「公正妥当な会計処理の基準」とは、「当該事業年度の益金の額に算入すべき収益の額および当該事業年度の損金の額に算入すべき売上原価、費用および損失の額は、企業が継続して適用する「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算されるものである旨を規定」(事実に基づき正しく経理しなさいという趣旨のもの)しているものです。
言い換えれば、債務が確定している費用については、決算で費用にしていなければ、その会計処理は正しくないこととなり、一般に公正妥当な会計処理の基準に反していることになります。
一方、損金経理とは所得税法第2条第25号で「法人がその確定した決算において費用または損失として経理することをいう」と定義しています。
すなわち、「損失経理要件」とは、企業が経理において費用や損失として計上していないものについては、「いくら権利確定基準があるといっても、あとから損金として計上すること(別表4で減算すること)は認めません」というものです。
損金経理要件が定められている項目は、減価償却費や役員退職給与、貸倒引当金、貸倒損失、資産の評価損、繰延資産の償却費などですが、これらはいずれも、金額や計上する事業年度を決定するにあたっての企業の裁量が大きく影響するものですので、申告前に、決算上で費用・損失として意思表示しなさい(申告書で任意に減算することは認めません)というものです。
要するに、損金経理基準が要求される費用・損失を除き、「権利(債務)確定基準」に合致しているのであれば、その会計処理が一般に公正妥当な会計処理の基準に反していても(正しく処理されていない場合には)、申告調整(別表4で加算・減算)ができる(正しい処理に直すことができる)ということになります。
よって、参考過去相談事例の社会保険料は、債務が確定している限り、損金経理をしていなくても損金の額に算入(別表4で減算)されます。

こんにちは。
なかなかアカデミックな質問ですねぇ。
おそらく、アカデミックな回答を欲しているのだろうと思いますので、少し平易にしつつ…そのつもりで回答しますね。
公正処理基準と仰っているのは「一般に公正妥当と認められている会計処理の基準」のことですね(私の周りではあまり略さないので…念のためです。今回は略しますね)。
大きな考え方として、法人税法では公正処理基準によって作成された会社法上の計算書類(決算書のことです)の利益を出発点として考えます。その上で、法人税法特有の調整(別表四)を加えて課税所得を計算することになります。
計算書類を作成する上での公正処理基準の中の費用は「発生主義」によって計上することになります。発生していれば費用に計上し、発生していなければ費用に計上しない、ということです。こういった「発生主義」の考え方は様々な財務諸表利用者(株主、投資家、債権者、従業員等)のことを考えて選択の幅を広げています。一方、法人税法では、担税力に見合った公平な課税を目的としています。つまり、経営者の考え方によって納税額に大きな差が生じると不公平だ(※)、ということです。この会計と税務の考え方の差を別表四で調整しているんだ、ということです。
※ もちろん、政策的な目的(税額控除等)で納税者間に差が生じることは当然にあり得ます。ここでは、制度として大きな違いがある、という話をしています。
例えば、ご質問にある減価償却費ですが、会計上は経済的耐用年数(何年使えるか)に応じて償却を行いますが、税法では事前に定めている耐用年数表に応じて償却を行います。これは、会計上の経済的耐用年数は経営者の判断によって異なりますが、これをそのまま税法でも利用すると税法上の不公平が生じることになるため、税法では事前に定められた耐用年数をもちいることにしています。ただ、納税者が「法人税法上の耐用年数表」の耐用年数以上に固定資産を使用できると主張するのであればそれを認める、という意味で「損金経理要件」があります(耐用年数を短くすると納税額が少なくなって他の納税者と比較して有利なので認めないが、耐用年数を長くすると納税額が多くなって他の納税者と比較して不利なので、経営者がそうしたいのであれば認める、という意味です)。
「公正処理基準を満たす限り会計上費用にせずに損金にできるか」という質問の本旨に戻りますが、公正処理基準を満たすということは…つまり「発生していない費用」を損金にできるか?という質問をしているということです。当然のことを申し上げますが、発生していない費用を損金に計上する場合というのはかなり難しいです(例えば、貸倒引当金の損金算入など)。一般的には、会計上の費用にならないものは法人税法上も費用にならないと考えて良いと思います。
とはいえ、非上場の会社だと計算書類の利用者が少ないため、税法のみに焦点を当てることが多いのだと思います。本来は公正処理基準では費用に計上すべきものを計上せず、別表四で減算したら「税務署」から怒られるか?という意味で言えば、特に指摘されないと思います。
以上が一般論ですので、「こういう費用はどうか?」というものがあれば個別具体的に検討することになろうかと思います。
本投稿は、2022年08月14日 14時04分公開時点の情報です。 投稿内容については、ご自身の責任のもと適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願いいたします。