決算期(事業年度)はいつが良い?決めるときに考慮すべき6つのポイント

日本では「決算期は3月」というイメージがありますが、実際のところは、会社の実情に応じて9月や12月などに設定している企業も数多くあります。決算期については、誕生日や記念日にするなど自由に決めることができますが、節税や資金繰りの面を考慮して決める方法もあります。
この記事では、決算期を決める際にポイントとなる点を解説します。
目次
決算期とは
会社を設立すると、一定期間の収入・費用がどれくらいであったかを確認し、その期間の損益計算の結果をもとに、計算書類の作成や法人税等の確定申告といった作業をする必要があります。
これがいわゆる決算で、この計算の区切りとなる期間のことを事業年度といいます。そして事業年度の期末を「決算期」といい、会社を設立する際には、会社の基本的規則を定める「定款」に、諸々の基本的事項と一緒に記載するのが一般的です。
日本企業の決算期は3月と9月が多い
国税庁の統計データによると、採用されている決算期はさまざまだということが分かります。決算期は3月にしている会社がもっとも多く、次いで9月、12月、6月となっています。
4月 | 195,004社 |
---|---|
5月 | 227,592社 |
6月 | 268,192社 |
7月 | 210,109社 |
8月 | 240,760社 |
9月 | 299,291社 |
10月 | 134,262社 |
11月 | 102,304社 |
12月 | 285,436社 |
1月 | 100,172社 |
2月 | 180,631社 |
3月 | 502,060社 |
※年1回決算の普通法人(年2回決算の法人を除く)
参考:国税庁|令和元年度 2 直接税 (1)決算期別の普通法人数
3月決算の会社が多いのは、国や地方公共団体の会計年度や、公的な教育制度、税制改正などのサイクルが4月から3月までを一区切りとしていることが要因といえるでしょう。営業面・人材採用面・財務面への影響を考慮し、3月決算を選択していると考えられます。
また、12月決算については、「一般的な暦年に合わせている」「法人成りした会社が個人事業主の事業年度(1月〜12月)をそのまま継続している」「海外では12月決算の会社が多いことからそれに合わせている」といった理由が挙げられます。
会社設立時は設立日に合わせて決算期を決める
会社設立時に決算期を決める際には、「設立日から1年以内に決算を実施し、確定申告をする必要がある」ため、設立日から1年以内を決算期に設定します。
なお、設立日は法務局で登記申請をした日となり、郵送の場合は申請書類が到着した日になります。
決算には、多大な労力や税理士への支払いなどの費用が発生することから、「いつにすれば自社にとってベストか」をしっかりと考えたうえで、決算期を決める必要があります。
決算期を決めるときに考慮すべき6つのポイント
決算期は自由に決めることができますが、以下の6つのポイントを考慮して、合理的に決定するとよいでしょう。
1)繁忙期を避ける
決算時期には通常の業務に加え、決算書や計算書類の作成、確定申告といった決算業務を実施しなければなりません。
確定申告は、事業年度終了から原則2か月以内に行わないといけないため、決算終了後2か月は慌ただしい日々を過ごすことになります。そのため、業務量が多い繁忙期と重なってしまうと、会社全体への負担が増加してしまいます。
たとえば個人消費者向けの小売業界では、2月または8月決算の会社が多いといわれています。夏のボーナス時期や、冬のボーナス・クリスマス・年末年始の時期は、消費者の消費活動が活発になり、小売業界は繁忙期を迎えます。この繁忙期が終わり、落ち着いた時期に決算期を設定している会社が多いからと考えられます。
小売業の場合、繁忙期後を決算とすることで業務負担の分散を図るほか、期末在庫が少ない時期に決算を行うことで、棚卸の業務負担を軽減できるメリットもあります。
また、大手ビール会社では12月決算が多く見られます。寒い冬の間はビールの売れ行きが良くないため、比較的落ち着いた時期であることから決算期に設定していると考えられます。
決算申告が間に合わなかったときのペナルティ
もし決算業務が間に合わずに確定申告の期限が過ぎてしまうと、本来納付すべき税額(本税)に加え、延滞税等の追徴課税が発生することになります。
また、2期連続して期限内に申告書の提出がない場合、青色申告の承認が取り消されてしまいます。そのため、決算時期の設定の際には、業務の繁忙具合の考慮が考慮すべきポイントのひとつといえるのです。
2)売上が一番多い月を期首にする
売上が一番多い月を期首に設定し、そこから決算月を決めるという選択もあります。
売上が多い月を期首にすれば、早い段階で精度の高い利益予想を立てることができます。期末までの利益状況を踏まえて、たとえば期末に多めに消耗品を購入したり、従業員に決算賞与を支給するなど、効果的な節税対策を講じることが可能になります。
- 【法人節税まとめ】中小企業におすすめの節税対策34選
- 決算時、消耗品はどう仕訳する?まとめ買いの節税効果や会計処理をわかりやすく解説
- 「決算賞与」は節税になる?当期の損金とする条件や注意点、会計処理について
3)役員報酬を決めやすいように設定する
役員報酬は、損金算入可能な「定期同額給与」の場合、事業年度開始から3か月以内に決定する必要があります。
役員報酬は、一度決めてしまうと原則として期中は変更できず、同額で支払う必要があります。そのため役員報酬は、その事業年度の利益状況を予測し、「会社に残す利益」と「役員報酬にかかる各種税金等」とのバランスを考えつつ決める必要があります。
売上や利益を左右するような重要な取引がある時期を、期首付近となるように決算期を設定しておけば、より正確な利益予想ができるため、役員報酬の額が決めやすくなるでしょう。
4)資金繰りを考慮する
先述のとおり法人税等の納付は、原則として事業年度終了の翌日から2か月以内に行います。たとえば、3月末を決算期にした場合、5月末に法人税や消費税などを納める必要があります。
そのほか、車両を所有する会社であれば5月に自動車税が、不動産を所有する会社であれば、自治体によりますが5月以降に固定資産税の納税が生じます。
これらの納税が重なり、一気にキャッシュアウトする事態を防ぐためには、資金流出の多い月の2か月前に決算期を設定するのは避けたほうが良いでしょう。
このほか、従業員を雇う場合はボーナスの時期(一般的には6月と12月)や、源泉徴収税の特例の納付月(7月と1月)は、資金の流出が多い月といえます。
このように、納税時期や会社のキャッシュフロー状態を考慮したうえで決算月を決めれば、資金繰りに余裕が生まれます。
- 自動車税ってどう決まる?仕組みや納付時期、還付金の受け取り方まで
- 固定資産税が安くなる?減税制度や免税点についてわかりやすく解説
- 源泉所得税(源泉徴収税)の納付方法は?期限や納付書の書き方までわかりやすく解説
5)消費税の納税義務免除期間を考慮する
消費税の納税義務が免除される「免税事業者」になるためには、「基準期間の課税売上高が1000万円以下」である必要があります。「基準期間」とは、法人の場合は前々事業年度のことをいいます。
つまり新設立法人については、設立1期目および2期目は基準期間がないことになるので、原則として消費税の納税義務が免除されることになります(ただし、法人化の際に資本金または出資の金額が1,000万円以上であるなど、一定の場合に該当する場合は納税義務は免除されません)。
免税期間は1年目・2年目ではなく1期目・2期目で考えることから、事業年度が12か月未満の場合、消費税の納税義務の判定が早まることになります。
ただし、たとえば事業年度を12か月に設定しており、12か月目に売上が多かったために課税事業者の判定を受ける場合などは、むしろ11か月で事業年度を区切っていた方が免税事業者の期間が長くなることになります。また、「特定期間(※)」の判定も考慮に入れると、場合によっては短期事業年度にした方が、消費税的には良い場合もあります。
そのため、「事業年度の期間が消費税の免税事業者の判定に影響する」ということを考慮しておくとよいでしょう。
※「特定期間」における課税売上高と給与等支払額が1000万円を超えた場合は、課税事業者となります。「特定期間」とは、法人の場合はその事業年度の前事業年度が開始してから6か月間を指します
なお、新設法人における消費税の納税義務免除は、個人事業主が法人成りする場合にも適用されます。そのため、課税売上高が1,000万円を超え、消費税の課税事業者となるタイミングで、個人から法人への切り替えを検討するのも有用といわれています。
6)取引先に合わせる
たとえば建設業や介護・教育関係などの業種で、官公庁と取引している場合、入札や許認可・免許の更新など、官公庁のルールに合わせてさまざまな書類を提出しなければいけないことが多く、それらの規則や書類は3月末決算を前提として作られています。
そのため、官公庁と取引が多い場合は、最初から決算期を3月末に合わせておけば、こうした書類作成の手間が、多少なりとも軽減できるでしょう。
海外進出を検討しているなら12月も検討
最近では、国際会計基準の導入に伴い、グローバル展開を意識して3月決算を12月決算に変更する企業も多くあります。
連結決算は親会社と子会社を一体として決算書を作成しますが、連結決算のルールでは、連結グループに属する親会社と子会社の決算期は、本来的に統一することが望まれます。
もし統一が困難な場合、日本のルールでは一定の調整は必要になるものの、特例として親会社と子会社の決算期が3か月以内の差異が認められています。一方で国際会計基準の場合は、親会社と子会社の決算期の統一がより厳密に求められます。
そのため将来、海外に子会社を設立する予定があるなど、海外展開を視野に入れているならば、あらかじめ海外で主流である12月を決算期にしておくといいでしょう。
決算期はあとからでも変更できる
決算期は一度決めた場合でも、所定の手続きを行うことで、あとから変更することもできます。
決算期を定款に記載している場合は、定款の変更が必要です。定款を変更するには、株主総会を開催し、定款変更の決議を行います。
具体的な手順は次のとおりです。
- 株主総会を開催し、決算期変更の決議をする
- 定款の変更を行う
- 所轄税務署・都道府県税事務所・市区町村の役所等へ、変更に関する各種の届出を行う
なお、決算期を変更した場合、変更した事業年度は短い期間で決算を行うことになるため、決算に関連する実務上の負担が増えることを覚えておきましょう。
おわりに
決算期をいつに設定するかによって、実務上の負担や資金繰りにも影響が出てきます。
決算期を決める際には、本記事で紹介した考慮すべきポイントを参考に、自社にとって最適な決算期のタイミングを検討してみてください。
実務上の影響を考慮したうえで、「特にいつでもかまわない」という判断になったのであれば、税理士に相談して決めてもよいでしょう。
もっと記事を読みたい方はこちら
無料会員登録でメルマガをお届け!