相続税の控除とは?節税のために知っておくべき6つの税額控除と基礎控除の計算方法

相続税の節税方法として6つの税額控除制度があり、これらを事前に知っておくことで相続税の負担を大きく減らすことができます。また、そもそも基礎控除額以下であれば相続税はかからず、申告の必要もありません。
そこでこの記事では、控除を正しく利用して節税するために、相続税の基礎控除と税額控除について、それぞれの適用条件や計算方法を詳しく解説します。
目次
相続税の基礎控除額とは
相続税は遺贈や相続(死因贈与を含みます。)取得した財産に対して課せられる税金です。
相続税の計算をするうえで、だれにでも適用される「基礎控除」という制度が設けられており、遺産総額が基礎控除額を超えなければ相続税はかからず、申告も不要です。一方、基礎控除額を超えた財産を取得した場合は、相続税申告および納税を、相続が発生した日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。
相続税の基礎控除額の計算方法は以下のとおりです。
相続税の基礎控除額 = 3000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
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相続税はいくらかかる?
相続税は財産を取得した人(相続人)が、原則として、亡くなった人(被相続人)の死亡の時における住所地を所轄する税務署長に共同で申告および納税をします。
計算方法をおおまかに説明すると、まず遺産を法定相続分に従って分けたと想定し、相続税の総額を算出します。そのあと、実際の相続割合に従って相続税額を求めて、そこから各人の税額控除を引くとそれぞれの納税額が算出できます。
もう少し具体的に書くと以下の順番で計算することになります。
- 正味の遺産額(※) − 基礎控除額 = 課税遺産総額
- 課税遺産総額 × 各人の法定相続分 × 相続税率 − 控除額 = 算出税額
- 各人の算出税額の合計 = 相続税の総額
- 相続税の総額 × 相続割合(実際の相続分 ÷ 遺産総額) = 相続税額
- 各人の相続税額 − 各人の税額控除 = 相続税の納税額
※正味の遺産額とは
相続または遺贈によって取得したプラスの財産(遺産総額)と、相続または遺贈によって取得したものとみなされる財産、相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の総額から、非課税財産額と葬式費用や債務などのマイナスの財産額(債務控除)を差し引いた金額に、相続開始前3年以内の贈与財産額(※)を足したもの。
「遺産総額 + 相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の総額 − 非課税財産 − 債務控除 + 相続開始前3年以内の贈与財産額(※)」
※2024年1月以降、相続財産に加算する贈与財産について、相続開始前3年以内から7年以内に段階的に延長。

相続税が課税されない財産もある
遺贈や相続によって取得した財産であっても、相続税の課税対象外になる場合があり、それらを「非課税財産」といいます。具体的には以下のような財産が該当します。
- 墓所、仏壇、祭具など日常礼拝をしている物
- 生命保険金のうち「500万円×法定相続人の数」まで
- 死亡退職金のうち「500万円×法定相続人の数」まで
- 国や地方公共団体、特定の公益法人に寄附した財産 など
遺産から控除できる債務(債務控除)
相続税の計算をするにあたり、被相続人の債務や葬式費用を遺産総額から差し引くことができる「債務控除」という制度があります。
この制度を利用できる人は、債務を実際に負担することになる相続人や、遺言によって財産を受ける権利を定められた人(包括受遺者)に限られます。
控除できる債務は、被相続人の債務で、かつ被相続人が亡くなった時点で確定しているものが対象です。
具体的には、公租公課、金融機関や個人からの借入金、被相続人が使用していた期間の公共料金や医療費の未払金などが挙げられます。
また死亡した時点で確定していない債務であっても、被相続人の準確定申告により死亡後に相続人が納めることになった所得税や住民税などの税金は、控除の対象に含まれます。
一方で、生前に購入したお墓など非課税財産の未払い代金や、相続税申告にかかる税理士費用のほか、相続人の責任に基づいて徴収されることになった延滞税や加算税は控除の対象外です。
相続税が節税できる6つの「税額控除」
すべての相続人に適用できるのが「基礎控除」ですが、相続人それぞれの状況に応じて適用できる「税額控除」という制度もあります。税額控除は、条件を満たした上で相続税申告時に申請することで適用でき、相続税額からそのまま差し引くことができるため、大幅に相続税を減額することができます。
相続税の税額控除には次の6つがあり、控除する順序は決まっていて、以下の順番どおりに計算します。
- 贈与税額控除
- 配偶者の税額軽減
- 未成年者控除
- 障害者控除
- 相次相続控除
- 外国税額控除
1〜6の順で控除額を計算した結果、税額がゼロまたはマイナスになった場合は、いずれもゼロとなります。
ただし、相続時精算課税制度の贈与税額分がある場合は、(6)のあとにその分を差し引きます。その結果、マイナスになった金額は還付を受けることができます。
※(6)までの計算で算出されたマイナス分は含まれません

計算上、税額控除によって相続税がゼロになる場合でも、相続税申告をしないと税額控除が適用されないので注意しましょう。
各控除の詳細についてはこのあと解説していきます。
亡くなる3年前の贈与の加算は「贈与税額控除」で減税
相続開始の過去3年以内の贈与は、みなし相続財産として相続財産の課税対象に含まれます。ただし二重課税を防ぐために、相続開始の過去3年以内に納めた贈与税額は控除できる仕組みになっています。
※2024年1月以降、相続財産に加算する生前贈与の期間延長に伴い、贈与税額控除ができる期間も延長。
贈与税額控除額 = A × (C ÷ B)
A:贈与を受けた年分の贈与税額(相続時精算課税における贈与税額を除く)
B:贈与を受けた年分の贈与税の課税対象になった財産額
C:相続税の課税価格に加えた贈与財産の価額
贈与を受けた財産の金額は、贈与を受けた時点での評価額となります。また、このときの計算には、延滞税・加算税・利子税は含まれません。
贈与税額控除の計算シミュレーション

※2024年1月以降、相続財産に加算する贈与財産について、相続開始前3年以内から7年以内に段階的に延長。
2021年に父親から1000万円の贈与を受けて、177万円の贈与税額を納付済みだとします。2023年に父親が亡くなり、みなし相続財産(1000万円)を含めた財産の相続税額が500万円だった場合の税額控除額は以下のとおりです。
- 「177万円 × (1000万円 ÷ 1000万円) = 177万円(贈与税額控除額)」
「配偶者の税額軽減」で数億円分の相続財産が非課税に
被相続人の配偶者は、贈与税と同じように、相続税についても「配偶者の税額軽減」が適用できます。
この特例を適用すれば、取得した正味の遺産額が「1億6000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多い方の金額まで相続税が課税されません。

対象となるのは民法上の配偶者のみで、内縁関係は含まれません。また、「相続税の申告期限までに遺産分割が完了していること」が条件となっています。
二次相続で不利になる可能性がある
二次相続とは、被相続人の相続人が亡くなったときの相続のことをいいます。たとえば、父親が亡くなってそのあとに母親が亡くなったときが二次相続となります。
二次相続では、相続人がひとり減ることや、税額軽減が設けられていないことにより、相続税は高くなるケースが多くなります。
そのため、税額軽減があるからといって一次相続で母親がほとんどの財産を相続してしまうと、二次相続での子の相続税の負担額が大きくなってしまいます。負担額を減らしたいという場合は、一次相続で配偶者がどのくらい相続するかのバランスが重要となります。
満18歳未満の相続人が対象の「未成年者の税額控除」
未成年の多くは収入が少なく、学費などがかかるため税制上優遇されています。
相続税における未成年者の税額控除の条件は「相続人の年齢が満18歳未満(※)であること」と「法定相続人であること」で、控除額は年齢に応じて以下のように変わります。
未成年控除額 = 10万円 × (18歳 − 年齢)
たとえば16歳であれば、20万円を税額控除することができます。
※2022年3月31日以前の相続または遺贈については20歳。
「障害者控除」の対象は85歳未満の相続人
相続税における障害者控除の条件は「85歳未満の障害者であること」と「法定相続人であること」です。
障害者控除は、税法上の「一般障害者」と「特別障害者」のどちらに当てはまるかで、控除額が以下のように変わります。
- 一般障害者:満85歳になるまでの年数1年につき10万円
- 特別障害者:満85歳になるまでの年数1年につき20万円
また、相続税額よりも控除額が上回った分は、他の相続人(扶養義務者)に適用することができます。
たとえば、50歳の一般障害者であれば「(85歳 − 50歳) × 10万円 = 350万円」が控除額となります。

相次いで相続が発生したときには「相次相続控除」
相次いで相続が発生し相続税が課税されていた場合、同じ財産に立て続けに課税されることになってしまいます。
そういった状態を回避するために「相次相続控除」という制度が設けられていて、対象となるのは、10年以内に連続して起きた相続(相次相続)です。たとえば、祖父が亡くなった1年後に父が亡くなってしまったという状態が該当します。
控除額は以下のように計算します。
相次相続控除 = A × {C ÷ (B − A)} × (D ÷ C) × {(10 − E) ÷ 10 }
A:今回の被相続人が前の相続の際に課せられた相続税額
B:被相続人が前の相続の時に取得した純資産価額
(取得財産の価額 + 相続時精算課税適用財産の価額 − 債務及び葬式費用の金額)
C:今回の相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得したすべての人の純資産価額の合計額
D:今回のその相続人の純資産価額
E:前の相続から今回の相続までの期間(1年未満の期間は切り捨て)
※{C ÷ (B − A)}が1より大きい場合は1とする
※「純資産価額」とは、相続した財産から債務・葬式費用を控除した額のこと
相次相続控除の計算シミュレーション

計算が少し複雑なため、具体例に基づいて見ていきましょう。
- 父親が亡くなったため、その財産を相続した。
- 6年5か月前(E)には祖父が亡くなっており、父親は2000万円の相続税(A)を納めている。
- 父親が祖父から相続した純資産価額(相続財産から債務等を引いた後の額)は2億円(B)。
- 今回、父親から相続する全体の純資産価額は2億5000万円(C)で、そのうち自分が相続する純資産価額は1億円(D)で、相続税額は1000万円。
これを計算式に当てはめて計算すると「2000万円 × 1 × 0.4 × 0.4 = 320万円」が控除額となります。
国外財産の二重課税を防ぐ「外国税額控除」
国外にある財産についても、相続人が日本の居住者(無制限納税義務者)であれば、日本の相続税の課税対象となります。
そこで、国外の相続税との二重課税の負担を調整するために「外国税額控除」という制度が設けられています。控除額は、以下のいずれかの少ない方の額です。
- 「国外で納税済みの相続税に相当する額」
- 「A × (C ÷ B)」
A:相続税額からその他の税額控除(贈与税額控除・配偶者の相続税額の軽減・未成年者控除・障害者控除・相次相続控除を控除)を差し引いたあとの金額
B:遺産額(取得した財産のうち債務控除後の金額)
C:国外財産額(取得した国外財産のうち債務控除後の金額)

おわりに
税額控除を正しく適用すれば、特別な節税対策をしなくても、大幅に相続税の負担を減らすことが可能になります。
相続税の計算や申告は素人では難しい部分が多く、専門知識を持たない人が行うとなると、時間がかかるほか申告漏れや計算ミスのリスクもあります。
そのため、相続税申告は税理士に依頼するのがおすすめです。特に相続税や贈与税といった資産税を得意としている税理士であれば、申告だけでなく事前の節税対策や二次相続対策まで依頼することが可能です。
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