【保存版】法人成り(会社設立)する21のメリットと6のデメリット

個人事業を法人化することを「法人成り」といいます。個人で始めた事業が軌道に乗り出したら、「法人成りしたほうがいいのかな」「いつ法人成りしようかな」と考える方も多いでしょう。
法人成りには多数のメリットがありますが、デメリットも少なからずあります。そこで、会社設立で得られるメリット・デメリットを紹介いたします。
目次
法人成りする21のメリット
会社設立(法人成り)には、主に税金面でのメリットが多くあります。
法人の経費(損金)の範囲は個人事業よりも広くなり、たとえばこのあと説明する「生命保険、退職金、役員社宅、各種手当」が損金算入できるようになります。
そのほか、法人格を得ることで社会的な信用が増して、「資金調達や人の雇用、取引の幅が広がる」などのメリットも多数あります。
※この記事では、新設法人数の多い「株式会社」「合同会社」に絞ってご紹介いたします。
生活費が経費(役員報酬)になる
個人事業主が生活費として使う分は必要経費にはなりません。
法人であれば生活費の分を「給与(役員報酬)」として支給することができます。また、家族経営の場合は配偶者などにも支給することができます。
そして、一定条件を満たせば必要経費として損金算入が認められ、法人の所得を減らすことができます(=節税できる)。
損金として認められる役員報酬
- 報酬金額が妥当であること
- 以下のいずれかの方法で支給されていること
・「定期同額給与」:毎月支払う役員報酬(固定給のこと)
・「事前確定届出給与」:所定の期日に一定の金額を支払う役員報酬(ボーナスのこと)
・「利益連動給与」:利益や売上高に応じて支払う役員報酬(出来高のこと) - 役員報酬の決定・変更が事業年度開始から3か月以内に行われていること
役員報酬をいくらにするかは事業運営に大きな影響を与えるため、会社設立時には慎重に検討しましょう。
「給与所得控除」が適用できる
給与所得には「給与所得控除」という制度があり、所得額に応じて「65万円から220万円まで」の所得控除を受けることができます。
事業所得には「青色申告特別控除」という制度がありますが、上限が65万円なので、同じ額を受け取るとすると給与所得のほうが納税額が少なくなることがあります。
わかりやすく計算例を用いて説明します。たとえば、同じ500万円を受け取ったときの所得税額は以下のとおりです。
{事業所得500万円 - 38万円(基礎控除) - 65万円(青色申告特別控除) }× 20%(税率)- 42万7500円(税額控除) = 36万6500円
{給与所得500万円 - 38万円(基礎控除) - 154万円(給与所得控除) }× 10%(税率)- 9万7500円(税額控除) = 21万500円
ただし、給与所得には経費という概念がなく、その代わりに給与所得控除という制度が設けられているという側面もあるため、一概に比較できるわけではありません。
- 所得控除は全15種類!しくみと金額の計算方法を理解して正しく節税しよう
- 青色申告の申請方法&取り消し手続きまとめ〜届出書の書き方や注意点など〜
- 法人の青色申告はどうする?会社設立後に行う「青色申告の承認申請書」の手続きまとめ
「超過累進税率」から「比例税率」になる
一般的に、「利益額(所得額)が継続的に500万円を超える」場合に会社設立をした方が良いといわれていますが、これは法人税が「比例税率」であることが関係しています。
事業所得にかかる所得税は、「超過累進税率」という所得に応じて税率が増える仕組みですが、比例税率は一定の税率で、500万円を超えるあたりから税率に差が出てきます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
区分 | 税率 |
---|---|
中小法人、一般社団法人等、公益法人等とみなされているもの、人格のない社団等 | 年800万円以下の部分:19%(15%) |
年800万円超の部分:23.2% |
※括弧書の税率は、2019年3月31日までの間に開始する事業年度について適用されます。
実際にどれくらい節税になるのか
実際にどのくらい納税額に差が出るのかを、利益額が300万円と1000万円の場合を比較して、シミュレートしました(実際の納税金額とは異なります)。
合計納税額 | |||
---|---|---|---|
利益金額 | 個人事業主(100%) | 給与(50%)法人(50%) | 法人(100%) |
300万円 | 約43万円 | 約55万円 | 約94万円 |
1000万円 | 約260万円 | 約209万円 | 約313万円 |
この表から分かるのは、利益金額が300万円の場合は個人事業主の納税金額が一番少なくなり、1000万円の場合は法人と個人で利益を半分にしているときの納税金額が最も少なくなるということです。
法人成りのタイミングや役員報酬の金額は、このようなシミュレーションをして決定すると良いでしょう。ただし、会社設立は納税額を減らすことだけが目的ではないので、他の要因も合わせて検討してください。
なお上記のシミュレートの便宜上、控除は基礎控除と給与所得控除のみとして以下のように計算を簡略化しています。
利益金額が300万円の場合
- [個人事業主100]納税額合計:約43万円
所得税 + 住民税 = 43万1500円
所得税:(300万円 - 38万円) × 10% - 9万7500円 = 16万4500円
住民税:(300万円 - 33万円) × 10% = 26万7000円
- [給与50:法人50]納税額合計:約55万円
所得税 + 住民税 = 7万5500円
所得税:(150万円 - 38万円 - 65万円) × 5% = 2万3500円
住民税:(150万円 - 33万円 - 65万円) × 10% = 5万2000円
法人税 + 法人住民税 + 法人事業税 = 46万9500円
法人税:150万円 × 15% = 22万5000円
法人住民税:150万円 × 12.9% = 19万3500円
法人事業税:150万円 × 3.4% = 5万1000円
- [法人100]納税額合計:約94万円
法人税 + 法人住民税 + 法人事業税 = 93万9000円
法人税:300万円 × 15% = 45万円
法人住民税:300万円 × 12.9% = 38万7000円
法人事業税:300万円 × 3.4% = 10万2000円
利益金額が1000万円の場合
- [個人事業主100]納税額合計:約260万円
所得税 + 住民税 = 260万5600円
所得税:(1000万円 - 38万円) × 33% - 153万6000円 = 163万8600円
住民税:(1000万円 - 33万円) × 10% = 96万7000円
- [給与50:法人50]納税額合計:約209万円
所得税 + 住民税 = 52万3500円
所得税:(500万円 - 38万円 - 154万円) × 10% - 9万7500円 = 21万500円
住民税:(500万円 - 33万円 - 154万円) × 10% = 31万3000円
法人税 + 法人住民税 + 法人事業税 = 156万5000円
法人税:500万円 × 15% = 75万円
法人住民税:500万円 × 12.9% = 64万5000円
法人事業税:500万円 × 3.4% = 17万円
- [法人100]納税額合計:約313万円
法人税 + 法人住民税 + 法人事業税 = 313万円
法人税:1000万円 × 15% = 150万円
法人住民税:1000万円 × 12.9% = 129万円
法人事業税:1000万円 × 3.4% = 34万円
「役員退職金」を支給して節税
個人事業主の場合は、「小規模企業共済」や「特別退職金共済」などを利用しない限り、自分に対して退職金を支給することはできません。
法人であれば「役員退職金」として支給することができ、さらに損金算入できるので節税効果も期待できます。なお役員退職金の適正金額は、「功績倍率方式」や「1年当たり平均法」で算出します。
功績倍率方式
「役員退職金の適正金額 = 最終月額役員報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」
「功績倍率」とは社長、副社長、専務、常務などの役職の貢献度に応じた倍率のことです。特に法的に決まった金額はありませんが、「社長の場合は2.0〜3.0が目安」といわれています。
1年当たり平均法
「役員退職金の適正金額 =勤続年数 × 1年当たり平均額」
「1年当たり平均額」とは、同業類似法人の退職給与額 ÷ 勤続年数で求められる金額です。
一般的には、これらで算出された金額を超えると不相当に高額だとみなされて、損金不算入になる可能性が出てきます。
「生命保険」に加入して節税

個人事業主が生命保険に加入する場合は、「生命保険料控除」が適用できます。ただし、この「限度額は12万円まで」と決められています。
法人の場合は生命保険料の限度額が決められていないので、より多くの節税効果を得られる可能性があります。保険商品によって「全額損金」「1/2損金」「1/3損金」など、損金算入できる金額に違いがありますので、よく確認してから加入しましょう。
- 全額損金:逓増定期保険(全額損金)や全額損金的保険など
- 1/2損金:逓増定期保険(1/2損金)や長期平準定期保険など
- 1/3損金:逓増定期保険(1/3損金)など
- 損金不算入:終身保険など
また、損金算入できる金額だけでなく「保障内容」や「貯蓄性(解約返戻金)」についても確認することが大切です。さらに返戻金は益金として扱われるので、その分の利益が増えることも覚えておきましょう。
自宅を「役員社宅」にして節税
個人事業主が自宅の家賃を経費にできるのは仕事用の部分に限られ、生活用のスペースの分と按分して計上することになります。
法人であれば、自宅を法人名義で契約して社宅として貸し出すことができ、家賃を経費として計上することが可能です。
ただし無償で貸し出す場合は、役員報酬(給与)として所得税や住民税の課税対象になってしまいますので、一定額以上の家賃を受け取るようにしましょう。家賃は、周辺地域の家賃相場の20〜50%を目安として設定するとよいでしょう。
非課税とするための最低家賃の算出方法は、国税庁のホームページで確認することができます。
「出張旅費規程」を作成して「出張手当」で節税
個人事業主の場合、出張手当は従業員に対してであれば支給できますが、自分自身に対しては支給できません。実費分のみを経費として計上することになります。
法人の場合は従業員だけでなく、役員にも出張手当を支給できます。そして、法人は支給した出張手当の全額を損金算入することが可能です。さらに、この出張手当は非課税となっていて所得税や住民税が課税されないので、支給される側にとっても負担がない制度です。
ただし出張手当を損金算入するためには、「旅費規程」や「出張規程」などを作成し、目的や範囲、定義、交通手段、金額(上限額)などを定めておく必要があります。支給の根拠を明確にし、且つその規定通りに支給することで損金として認められるようになります。
社員旅行など「福利厚生制度」で節税
福利厚生費とは「従業員の福祉を向上させることを目的とした支出」のことです。たとえば社員旅行や懇親会、見舞金や結婚祝い金などが含まれます。
このような福利厚生制度は、あらかじめ就業規則などでその内容を定めておけば、個人事業主であっても法人であっても利用することができます。
ただし家族経営や役員のみの場合は、本来の制度の目的からはずれてしまうため、認められないケースがほとんどです。
ストックオプションが使える
株式会社ならではのインセンティブ制度に「ストックオプション」があります。これは役員や従業員に対して「あらかじめ設定しておいた価格で、自社の株式を購入できる権利」を与えるという制度です。
たとえば1株100円で購入できる権利を与えておくと、市場価格が500円になっても、1000円になっても、その人は1株100円で買うことができます。
つまり、役員や従業員が頑張った結果、自社の株価が上がれば、その差額分を自分の収入にできるということです。そのため、法人設立後にあまり高い給与を支給することができないという場合でも、優秀な役員や従業員を集めることができる可能性が高くなります。
ただし、IPO(株式公開)を目指している企業でなければ、あまり強いメリットにはならないでしょう。
2年間(2期間)消費税が免除される

消費税の納税義務が免除されている事業者を「免税事業者」といいます。
免税事業者となるには、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であることなどが条件となります。この基準期間とは、前々事業年度のことで、新設法人は設立1期目および2期目の基準期間はありませんので、原則として納税義務が免除されます。
この消費税の事業者免税点制度は、個人事業主にも適用されますので、法人成りの場合は最長4期間にわたって納税義務が免除されることになります。
ただし、消費税還付が受けられなくなってしまう点には注意が必要です。売上より仕入れが多かったり、貿易業を営んでいるという場合は「課税事業者」となったほうが有利になることがあります。
課税事業者になるには、「消費税課税事業者選択届出書」を適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに所轄税務署に提出します。
赤字(欠損金)を10年繰越控除できる
青色申告法人の場合は、「欠損金(税務上の赤字)」を翌年以降の課税所得から差し引くことができます。これを「欠損金の繰越控除」といいます。
たとえば設立1年目に300万円の赤字を出したとします。そして2期目に200万円の黒字を出した場合に、1期目の赤字と相殺することで所得金額を「0円」にできるということです。
個人事業主の場合は最長3年しか認められていませんが、法人の場合は最長10年にわたって繰り越すことができます(2018年3月31日以前の制度では9年)。
前年度の赤字(欠損金)を繰戻還付できる
また、今期分の欠損金を前期分の利益と相殺できる「欠損金の繰戻還付」という制度もあります。前期に納めた法人税の一部を還付してもらえるという内容です。この還付金額は「欠損金額(今期分) ÷ 所得金額(前期分) × 法人税額(前期分)」で計算できます。
なお、適用できるのは「青色申告書を提出する法人」または「災害損失欠損金を有する法人」です。
決算期を自由に決められる
個人事業の場合は1月から12月までが事業年度で、翌年2月16日から3月15日までが所得税の申告期限となっています。
法人の場合は、決算から2か月以内が法人税等の申告期限です。事業年度(決算期)は自由に決められるので、以下のような点を考慮することができます。
- 繁忙期を事業年度の最初に持ってくることができる(=売上予測が立てられる)
- 閑散期に決算期を持ってくることができる(=業務が平準化できる)
- 法人税の納付時期とボーナスなどの支払時期をずらすことができる
このように業務面や資金面などにおいて、有利に事業年度を決めることができます。また、会社設立後に決算期を変更することも可能です。
社会的信用度の増加
一般的に、「個人事業主」と「法人」では後者の方が信用できそう、と感覚で思う方が多いのではないでしょうか。
法人はその事業実態が明確であり、組織としての安定感や企業の成長の期待値があることなどが理由として挙げられます。
その結果、以下のようなシチュエーションで有利になる可能性が高くなります。
- 金融機関からの融資
- 採用活動(人材確保)
- 営業活動(取引先の幅が広がる)
ただし、必ずしも「法人が個人事業主よりも優れている」というわけではありません。特に最近では、個人の能力や実績も評価される機会が増えました。そのため、「その人自身の信用度が大切だ」ということを忘れないようにしましょう。
資金調達がしやすくなる
個人事業主よりも資金調達の手段が多くなるというメリットがあります。
たとえば、ベンチャーキャピタルからの投資による資金調達は「株式を発行している」ことが前提にあるので、株式会社でなければ利用できません。ほかにも、法人であれば社債を発行できたり、補助金・助成金制度も豊富にあります。
また、融資を受けるなど資金調達をする場合は、信用度の差から法人の方が有利になります。ただし、決算内容や事業内容など、収益力(返済能力)を中心に審査されることことにはご留意ください。
経営者が保証人になれる

個人事業主が融資を受けたり事務所を借りたりする場合は、本人自身が契約者になります。そのため、保証人を求められた場合は、身内などに頼むことになるでしょう。しかし、保証人がすぐに見つからないこともあります。
その点、法人は契約者を法人にして、保証人を自分にすることも可能になります。もちろん保証人が見つかったからといって必ず審査に通るわけではありませんが、保証人を探す手間が省けるということは、精神的にも肉体的にも負担が少なくなるはずです。
事業承継がしやすくなる
個人事業には法的な事業承継の手続きというものがありません。
そのため、子どもが事業を引き継ぐ場合は、親の廃業手続きを行ってから子どもが開業手続きを行う必要があります。また、亡くなった場合は被相続人の預金口座が凍結するなど、事業に支障が起こる恐れもあります。
法人であれば被相続人が所有していた株式を相続することで、事業承継の大部分が済みます。また、被相続人(個人)と法人の資産は別に扱われるので、預金が凍結されたり事業用資産が分散したりする心配もありません。さらに、法人であれば事業の許認可も継続できます。
ただし合同会社の場合は、定款にて出資者の地位が相続の対象になる旨を定めておかないと、引き継ぐことができなくなるので覚えておきましょう。事業承継の観点では、合同会社がすこし不利になるということです。
相続税対策にもなる
個人事業主の場合は、事業用資産(機械装置や車両運搬具、商品など)も被相続人の相続財産に含まれます。そして、その資産に価値がある場合は相続税が課されます。
一方で法人が所有する資産については、被相続人の相続財産には含まれなくなります。つまり、法人成りをして個人事業のときの資産を法人に引き継げば、その分の相続税を節税することができます。不動産などの高額資産を所有している場合は特に効果があるでしょう。
後継者となる相続人は、相続した株式の評価額によって相続税が課税されます。
ただし、節税目的のみで会社設立するのはあまりおすすめできません。あくまで法人成りのひとつのメリットとして覚えておいてください。
有限責任となる
「無限責任」は”上限なくすべての責任を負うこと”、「有限責任」は”出資額の範囲で責任を負うこと”をいいます。
たとえば事業に失敗して多額の負債を抱えたときに、個人事業の場合は「無限責任」となるため、そのすべてを返済する義務があります。法人の場合は「有限責任」のため、出資額の範囲内で返済の義務を負うことになります。
ただし金融機関から融資を受ける際は、代表者個人が連帯保証人として求められることが多くあります。その場合は、連帯保証人としての支払い義務がありますので、一人会社や同族会社などでは個人事業主との差は少なくなります。
法人カードが作れる
法人カード(ビジネスカード・コーポレートカード)とは、法人を対象としたクレジットカードのことです。
法人名義の銀行口座から引き落としが行われるため、経費の区分が明確になる、経費の計上漏れが減る、経費の精算が不要になるなど、ビジネスでの雑務を減らすことができます。
「co.jp」のドメインが取得できる
インターネットで使われるドメインには「com」や「net」などたくさんの種類があります。
この中で「co.jp」というドメインは「日本国内に登記されている営利法人しか取得できない」と決まっており、さらに「1組織あたり1つまで」と制限されています。そのため、日本国内にある登記された企業であることの証明として、コーポレートサイトへの信用度を高めることに繋がります。
特に今の時代、コーポレートサイトはとても重要な役割を担っています。たとえば、企業理念や企業情報を掲載するIR情報やプレスリリースを発信する場所となっています。また、採用ページや問い合わせページなども作成でき、関係者とコミュニケーションを取る場所にもなります。
税金や金銭面でデメリットもある
今挙げたように、法人成りにはメリットが多数ある一方で、売上や事業規模によっては、税金や金銭面で不利になることもあります。
設立コストがかかる

個人事業主として起業するには、「開業届」や必要に応じて「青色申告承認申請書」を税務署に提出すれば手続きは完了します。このときに手数料などは発生しません。
法人を設立する場合は、「定款の作成・認証」「法務局で登記申請」「各種届出の提出」など、さまざまな手続きが必要になり、以下のような費用が発生します。
株式会社 | 合同会社 | |
---|---|---|
収入印紙代 | 4万円(電子定款の場合は0円) | |
謄本交付手数料 | 約2000円(定款1枚につき250円) | |
公証人手数料 | 5万円 | 0円 |
登録免許税 | 資本金の0.7%(最低15万円) | 資本金の0.7%(最低6万円) |
さらに資本金も用意する必要があり、最低でも数十万円〜数百万円の資金を用意しなければいけません。そのため、個人事業と比較すると時間や費用面のコストが多くかかるということになります。この点が社会的信用度の差にもつながっているといえますが、事業規模を大きくする予定がない、ライトに起業したいという場合はまずは個人事業から始めるのがおすすめです。
事務負担が増え、税務申告が複雑になる
法人の場合は設立時だけでなく、設立後にもさまざまな手続きが必要になります。
たとえば、事務所の所在地が変わるなどの登記事項に関わる変更があった場合は、その都度手続きと費用負担が発生します。個人事業の場合は、税務署に「異動届」を提出するだけで済みます。
また税務申告の際は、個人の確定申告よりも複雑で、複数の書類を添付する必要などもでてきます。
さらに、会社の規則にまつわる内容は株主総会や取締役会で決議することになり、代表ひとりだけの一人会社でも株主総会は開催しなければいけません。
後述する廃業の手続きについても当てはまりますが、法人になると事務作業やそれにまつわる必要負担が増えるのです。
なお、こういった業務をすべて自分で行う必要はなく、従業員を雇うのはもちろん、税理士や公認会計士といった専門家に依頼するという手段もあります。
会社の解散・清算手続きでお金がかかる
個人事業を廃業するときは、税務署と都道府県税事務所に対して「廃業届」や「青色申告の取りやめ届出書」などを提出すれば完了します。そのときに特別な費用は発生しません。
しかし法人が廃業する場合は、「株主総会」を行ったり、債務の返済、財産の分配を行ったりといった「解散手続き」や「清算手続き」が必要になります。その際には、以下のような費用が発生します。
- 官報広告にかかる費用:3万円程度
- 解散登記にかかる費用:3万円
- 清算人の選任登記にかかる費用:9千円
- 清算結了登記にかかる費用:2千円
このような廃業手続きを司法書士などの専門家に依頼する場合は、「12万円前後」の費用がかかります。さらに、社会保険関係の手続きを社労士に依頼する場合は「10万円前後」の費用がかかります。
このように法人の場合は、設立時だけでなく解散の手続きにも大変な手間と費用がかかるのです。
交際費に上限がある

個人事業の場合、税法では交際費の上限額が決められていません。また、「支払った交際費のうち○%まで」といった条件もないので、実際に支払った交際費を全て必要経費として扱うことができます。
法人の場合は「原則として交際費は損金不算入」です。ただし、条件を満たすと一定の金額までは交際費を損金算入できるような特例措置が認められています。
その条件とは「上限800万円まで」または「飲食費のうち50%」のいずれかです。そのため、個人事業主よりはやや自由度が下がってしまいます。
上限はあるといっても、法人設立後に交際費を800万円以上使用することはあまりないケースですので、さほど影響はないといえるでしょう。
この「交際費課税の特例措置」は期間限定の措置となっていて、記事公開時点では2020年3月31日まで適用できるという決まりになっています。
赤字でも税金が発生する
事業を行っていれば、たとえ赤字でも以下のような税金がかかります。
- 法人税:会計上の利益が赤字の場合でも、税務上の所得が黒字だと法人税が発生する
- 法人住民税:赤字であっても均等割分は発生する(最低7万円)
- 消費税:赤字に関係なく、課税売上高が1,000万円を超えたら消費税が発生する
個人事業の場合、住民税の均等割は5000円程度なので、負担が増えることになります。
社会保険への加入が義務
法人は社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられています。
個人事業主の場合は「任意適用事業所(雇用人数が5名以下)」であるため、条件を満たさない限り社会保険への加入義務はありません。
社会保険料は雇用主と労働者で折半であるため、法人が保険料の一部を負担することになります(会社負担分については損金算入できます)。なお、従業員を雇用しない一人会社であっても社会保険への加入義務があります。
社会保険料は、国民年金保険料と比べると費用負担が高額です。たとえば、月額の所得を30万円とすると、国民年金保険料は月額約4万6千円ですが、社会保険料だと個人負担分と会社負担分を合わせて月額約8万5千円になります。
ただし、厚生年金の方が国民年金よりも年金支給額が多いので、「保険料が高い」というデメリットだけではありません。社会保険が充実しているということは、従業員を雇用する面でも有利になるいうメリットの側面もあります。
おわりに
個人事業か法人で迷っている方、法人成りするかを迷っている方は、この記事で紹介したメリット・デメリットを踏まえてよく検討してみてください。
いずれにしても大切なのは、「自分が納得をして決断する」ということです。税金や税務に関することで分からないことがあれば、会社設立のサポートを得意とする税理士などに相談するのもおすすめです。
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